


前書き:犬アレルギーの「遺伝」を正しく捉える
犬アレルギー(犬のフケ・毛・唾液などに含まれるアレルゲンで、鼻炎・結膜炎・喘息・皮膚症状が出る状態)は、
「親が犬アレルギーなら子も必ず犬アレルギーになる?」と不安になりやすいテーマです。
ここで最初に整理したいポイントは1つだけ。
遺伝するのは“特定の犬アレルゲンに反応する運命”ではなく、“アレルギーになりやすい体質(アトピー素因)”であることが多い、ということです。
この記事では、薬局でも説明できるレベルまで噛み砕きつつ、免疫学(IgE、Th2、バリア機能)、疫学(家族歴と確率)、そして実践(生活対策、薬、検査、免疫療法)までをまとめます。


本文:犬アレルギーは遺伝する?結論と理由
結論:遺伝するのは「アレルギー体質(アトピー素因)」が中心
アレルギーは家族内で起こりやすく、医学的にも「アレルギーの素因は遺伝する」とされています。
一方で、“犬アレルギーという特定のアレルギーが、そのままコピーされて遺伝する”とは限りません。
つまり、親が犬アレルギーでも、子どもは「犬ではなく花粉」「ハウスダスト」「食物」など別の形で出ることもあります。
この“出方の違い”を理解するのが、過度な不安を減らす第一歩です。
「アトピー素因」って何?(ガイドライン用語で整理)
日本のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインでは、患者の多くが「アトピー素因」を持つとされ、
その内容として ①家族歴(喘息・アレルギー性鼻炎/結膜炎・アトピー性皮膚炎など)、
または ②IgE抗体を産生しやすい素因 が挙げられています。
犬アレルギーも“吸入アレルゲン(環境アレルゲン)”へのIgE反応として起こることが多いため、
この「IgEを作りやすい体質」が家族内で共有されやすい=遺伝要因が関わりやすい、という位置づけになります。
家族歴があると、子どものアレルギー確率はどれくらい?
代表的なレビューでは、家族歴がない場合に比べ、親にアレルギーがある場合は子どものアレルギー発症確率が上がることが示されています。
たとえば、「親のアレルギーが1人なら30〜50%、両親なら60〜80%」 といった目安が報告されています。
| 家族歴 | 子どもが何らかのアレルギー疾患を持つ目安 | ポイント |
|---|---|---|
| 親にアレルギーなし | 約12% | ゼロではない(環境要因でも起こる) |
| 親のどちらかにアレルギー | 約30〜50% | 「体質」が引き継がれる確率が上がる |
| 両親にアレルギー | 約60〜80% | 高くなるが、必ず発症するわけではない |
ここで大事なのは、上の数字が示しているのは「犬アレルギーに限った確率」ではなく「何らかのアレルギー疾患全体の確率」だという点です。
なぜ「犬」そのものは遺伝しにくい?(免疫の仕組み)
アレルギー反応はざっくり言うと、
- (1)体質として「IgEを作りやすい」
- (2)犬アレルゲンに「十分に出会う」
- (3)体がそれを“危険”と誤認して感作(IgEが作られる)
- (4)再び暴露→症状(鼻炎・喘息・蕁麻疹など)
…という流れで成立します。
遺伝が強く影響するのは主に(1)で、(2)〜(4)は生活環境(犬の有無、室内飼育、掃除、換気、寝室に入るか等)の影響を大きく受けます。
だから、親が犬アレルギーでも、子どもが犬と暮らさなければ感作されない(少なくともされにくい)ことがあります。
逆に、家族歴が薄くても、生活環境によっては犬アレルギーが成立することもあります。
犬アレルギーの「薬学」:アレルゲンは何で、体で何が起きている?
犬アレルゲンの正体:毛というより「フケ・唾液由来タンパク」
犬アレルギーというと「毛」が原因と思われがちですが、重要なのは毛そのものより、毛やフケ(皮屑)、唾液などに含まれるアレルゲンです。
代表的な犬アレルゲンとして Can f 1、Can f 2 が知られ、唾液由来のリポカリン蛋白であることが報告されています。
(補足)「抜け毛の少ない犬種なら安全?」という話題がありますが、
“アレルゲンを全く出さない犬”を断言するのは難しく、個体差・飼育環境差も大きいです。


IgE型アレルギーの流れ(薬が効くポイントが見える)
犬アレルギーの多くはIgEが関わります。流れを“薬が効く場所”目線でみると理解が一気に楽になります。
- 感作:犬アレルゲンが体内に入り、IgE抗体が作られる(この時点では無症状のことも)
- 即時反応:再暴露で、肥満細胞からヒスタミンなどが放出 → くしゃみ、鼻水、目のかゆみ
- 遅発相:好酸球などの炎症が続き、鼻づまり・気道炎症(喘息)に波及
薬は主にここを狙います:
- 抗ヒスタミン薬:即時反応(くしゃみ・鼻水・かゆみ)を抑える
- 鼻噴霧用ステロイド:鼻の炎症全体を抑える(遅発相にも強い)
- 吸入ステロイド:喘息の気道炎症を抑える(発作予防の要)
- アレルゲン免疫療法(AIT):長期的に反応性を下げる可能性(適応・製剤・施設で差)
ただし、どれも「根本的にアレルゲンを消す魔法」ではありません。
症状が強いほど、薬と同じくらい“環境対策(暴露を下げる)”が重要です。
「遺伝 × 環境」:子ども(将来)に向けて知っておきたいこと
子どもに犬を飼わせない方がいい?—予防の考え方は“段階”で違う
ここが一番悩むところだと思います。ポイントは、状況が2つに分かれることです。
- (A)まだ子どもが犬アレルギーか分からない(予防の話)
- (B)すでに子どもが犬アレルギー(または喘息)と診断されている(治療の話)
(A)予防:犬の早期曝露がリスクを下げる可能性も示唆
犬やペットへの早期曝露とアトピー性皮膚炎リスクの関係は研究が多く、
出生コホートのメタ解析で「犬曝露が小児のアトピー性皮膚炎リスクを下げる方向」を報告したものもあります。
また、遺伝的に湿疹リスクが高い子でも、早期に犬がいる家庭環境がリスク低下と関連した、という報告も出ています。
ただしここは強調しておきたいのですが、「犬を飼えばアレルギーが防げる」とは言い切れません。
研究結果は一様ではなく、家庭環境(ダニ、喫煙、住居、感染歴など)も絡むためです。ペットとアレルギーの関係については議論の幅があり、慎重な解釈が必要です。
(B)治療:すでに症状があるなら「暴露低減」が基本
一方、すでに犬で症状が出る(鼻炎・喘息・蕁麻疹など)人に対しては、
合意文書(consensus)で「回避が最も有効と考えられる」ため、環境からの除去(または暴露低減)を推奨する立場が示されています。
まとめると、
“予防としてのペット”の話と、“治療としての回避”の話は、同じ土俵で語れない
…これが混乱の原因になりやすいポイントです。
犬アレルギーは「どこまで遺伝?」をもう一段だけ深掘り(専門だけど噛み砕く)
遺伝要因:免疫の偏り(Th2)とバリア機能が関わる
近年の研究の整理として、アレルギーは遺伝と環境が相互作用し、
皮膚などのバリア機能や免疫の偏りが関わることが示されています。
例えばバリア蛋白(フィラグリンなど)が注目されてきた流れがあります。
これを「薬局で伝わる言葉」に直すとこうです。
- 体の“守りの壁”(皮膚・粘膜)が弱いと、アレルゲンが入りやすい
- 免疫が“過剰に反応しやすい設定”だと、IgEを作りやすい
- 結果として、いろいろなアレルギーが起こりやすくなる
そしてこの“設定”の部分に遺伝が効きやすい、という理解が最も実用的です。
双子研究が示すこと:「体質は遺伝」「きっかけは環境」
双子研究は、遺伝と環境の寄与を考えるヒントになります。
アトピー疾患に遺伝要因が強く関わる一方で、どのアレルゲンに反応するかは環境要因も大きい、という整理がされています。


検査:犬アレルギーの確認はどうする?(薬局で聞かれやすい)
まずは症状と状況:いつ・どこで・犬とどれくらいで出る?
- 犬のいる家に入るとすぐ:くしゃみ、鼻水、目のかゆみ
- 犬を触ると:蕁麻疹、かゆみ
- 夜や運動で:咳、ゼーゼー(喘息)
- 犬がいない場所でも続く:ダニ・ハウスダスト併存の可能性
症状の時間関係は、とても強い手がかりになります。
血液検査(特異的IgE)・皮膚テストの位置づけ
IgEを測る検査や皮膚テストは「感作」を知る助けになりますが、
“陽性=必ず症状が出る”ではありません。
逆に、症状が典型的でも検査だけで割り切れないこともあります(臨床像が重要)。
家族歴は参考になりますが、家族に明確なアレルギーがなくても起こり得る点も押さえておきましょう。
症例・具体例・実践:家庭でできる「現実的な」対策
ケース1:犬が好きで、実家に犬がいる。帰省で毎回つらい
起こりがち: 帰省のたびに鼻炎→薬でしのぐが、翌日も鼻づまりが残る。
実践:
- 寝室だけは犬を入れない(暴露時間を削るのが効く)
- 帰省前からの鼻噴霧用ステロイド(医師の指示で)で“炎症の先回り”
- 帰省中は抗ヒスタミン薬で即時症状を抑える
- 衣類・寝具の管理:犬のいる部屋に置いた上着で症状が続くことがある
「短期滞在」なら、生活導線(寝室・滞在部屋)で差が出やすいです。
ケース2:同居で犬を飼っている。手放せないが症状が悪化
優先順位: 喘息症状(咳・ゼーゼー・息苦しさ)があるなら、最優先で医療介入が必要です。
犬アレルギーは鼻炎で済む人もいれば、喘息増悪に直結する人もいます。
実践:
- 寝室を“聖域化”(犬を入れない・布製品を減らす)
- 掃除の頻度と方法を最適化(床・ソファ周りは特に)
- 薬の最適化(鼻炎だけでなく喘息の有無を確認)
- 専門医で「免疫療法(AIT)」の適否を相談(施設・適応差あり)
合意文書では、回避(動物の除去)が最も有効と考えられる、という立場が示されています。
ただし家庭事情は千差万別なので、現実的には「暴露をどこまで下げるか」を医療者と一緒に設計する形になりやすいです。
ケース3:将来子どもが心配。親が犬アレルギーだと“飼わない”が正解?
結論は一律ではありません。
- 家族歴がある=アレルギー体質の確率は上がる(ただし確定ではない)
- 一方で、早期の犬曝露がアトピー性皮膚炎リスク低下と関連した研究もある
なので、意思決定の軸は次の3つが現実的です。
- 家族に喘息があるか(重症化リスクの見立て)
- 居住環境(ダニ、カビ、換気、掃除体制)を整えられるか
- もし症状が出た時に、寝室分離などの運用ができるか
「飼う/飼わない」を“遺伝だけ”で決めるより、運用可能性で決めるほうが後悔が少ないことが多いです。
まとめ:犬アレルギーの遺伝は「体質の遺伝」と考える
- 遺伝するのは“犬アレルギーそのもの”というより“アレルギー体質(アトピー素因)”
- 親のアレルギーがあると、子どものアレルギー疾患リスクは上がりうる(目安:片親30〜50%、両親60〜80%)
- 犬アレルゲンは毛だけでなくフケ・唾液由来タンパク(Can f 1など)が重要21
- 予防の議論(早期曝露でリスク低下の報告も)と、すでに症状がある人の治療(回避が基本)は分けて考える

よくある質問
Q:親が犬アレルギーだと、子どもも必ず犬アレルギーになりますか?
必ずではありません。遺伝しやすいのは「アレルギーになりやすい体質」で、犬に限った話ではないことが多いです。
Q:犬アレルギーは治りますか?
体質そのものを完全に“消す”のは難しいことが多いですが、環境対策と薬でコントロールできます。
一部の人ではアレルゲン免疫療法(AIT)が選択肢になることもあります(適応・施設差があります)。
Q:検査で犬の特異的IgEが陽性でした。犬を飼えませんか?
陽性=必ず症状、ではありません。実際の症状、喘息の有無、生活運用(寝室分離など)も含めて総合判断になります。
ただし症状が明確なら、暴露低減(場合により除去)が重要です。
Q:抜け毛が少ない犬種ならアレルギーが出ませんか?
犬アレルゲンはフケや唾液由来タンパク(Can f 1など)も関わるため、犬種だけで安全とは言い切れません。
Q:犬アレルギーがある人が妊娠・出産する際に気をつけることは?
「体質は傾向として遺伝しうる」一方で、環境要因も大きいです。まずは家族歴を踏まえて、住環境(ダニ・換気・清掃)を整え、
子どもに湿疹や喘鳴が出る場合は早めに小児科/アレルギー専門医に相談するのが現実的です。
参考文献
- 日本皮膚科学会ほか「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2024(PDF)」
https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/ADGL2024.pdf
最終確認日:2025-12-29 - 日本アレルギー学会「ガイドライン・その他刊行物(一覧ページ)」
https://www.jsaweb.jp/modules/journal/index.php?content_id=4
最終確認日:2025-12-29 - Chad Z. ほか「Allergies in children(家族歴と発症確率)」PMC(全文)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2805592/
最終確認日:2025-12-29 - Konieczny A. ほか「The major dog allergens, Can f 1 and Can f 2, are salivary lipocalin proteins」PMC(全文)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1364166/
最終確認日:2025-12-29 - Pelucchi C. ほか「Pet exposure and risk of atopic dermatitis…(犬曝露とADリスク:メタ解析)」JACI(全文)
https://www.jacionline.org/article/S0091-6749%2813%2900600-3/fulltext
最終確認日:2025-12-29 - Dávila I. ほか「Consensus document on dog and cat allergy」Allergy(要旨ページ)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/all.13391
最終確認日:2025-12-29 - EAACI「Allergen Immunotherapy User’s Guide」PMC(全文)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7317851/
最終確認日:2025-12-29 - Helmholtz Munich「Pet dogs could combat genetic eczema risk in children(2025)」
https://www.helmholtz-munich.de/en/epi/news-detail/pet-dogs-could-combat-genetic-eczema-risk-in-children
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