

前書き:この記事でわかること
この記事では、慢性副鼻腔炎(Chronic Rhinosinusitis: CRS)について、
「よく検出される菌(=細菌学的な特徴)」と、
「マクロライド少量長期投与(いわゆるマクロライド療法)がなぜ効くことがあるのか」
を、薬剤師目線でわかりやすく解説します。
先に超重要ポイントだけ言うと、
慢性副鼻腔炎は“単純な細菌感染”というより、“炎症が長引く病態(+バイオフィルムや多菌種の関与)”
であることが多く、マクロライドは「抗菌」よりも「抗炎症・粘液調整・バイオフィルム関連作用」を狙って使われる場面があります。0

本文
1. まず整理:慢性副鼻腔炎って何?(急性との違い)
副鼻腔炎は大きく「急性」と「慢性」に分けて考えます。急性は“風邪の延長”で細菌感染が前面に出ることも多い一方、
慢性副鼻腔炎は、粘膜の腫れ・粘液の性状変化・排泄(換気/ドレナージ)障害が持続することで症状が長引きます。
- 急性:数日〜数週間。細菌が主役になりやすい(肺炎球菌、インフルエンザ菌など)
- 慢性:一般に12週以上続く病態として扱われることが多い(国際的にはEPOS等で整理)

2. 慢性副鼻腔炎に多い菌は?(よく検出される菌の傾向)
結論から言うと、慢性副鼻腔炎では、
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)と嫌気性菌(Prevotella、Porphyromonas、Fusobacterium、Peptostreptococcus など)が“よく検出される”
という報告が多いです。
さらに慢性では、単一菌ではなく、
複数菌種(polymicrobial)+バイオフィルムが絡んで“治りにくさ”に寄与すると考えられています。
| 分類 | 慢性副鼻腔炎で話題になりやすい菌 | ポイント |
|---|---|---|
| グラム陽性 | 黄色ブドウ球菌(S. aureus)、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)など | 慢性で検出されやすい。MRSAが混じる報告もある。 |
| グラム陰性 | インフルエンザ菌(H. influenzae)、緑膿菌(P. aeruginosa)など | 病態や術後/重症例で緑膿菌が問題になることも。バイオフィルムでも検出報告。 |
| 嫌気性菌 | Prevotella、Porphyromonas、Fusobacterium、Peptostreptococcus など | 慢性で“よく検出される”代表格。歯性上顎洞炎などでも増えやすい。 |
日本のデータでも、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌、嫌気性菌などの検出が報告されています(検体採取法や集団差で割合は変わります)。

3. どうして“慢性”は治りにくい?(バイオフィルムと炎症の持続)
慢性副鼻腔炎が長引く理由としてよく挙げられるのが、
①排泄・換気が悪い(粘膜腫脹、鼻中隔弯曲、鼻茸など)、
②粘液が“粘っこく”なり、線毛運動が落ちる、
③バイオフィルムが形成され、抗菌薬や免疫から逃げやすい、
④炎症タイプ(好中球優位/好酸球優位など)が絡む、
といった複合要因です。
バイオフィルムは、菌が“ぬめりのある膜(マトリックス)”の中に集団で住み着く状態で、
抗菌薬が届きにくい・菌が休眠状態に入りやすい・再燃しやすいなど、慢性化に関与すると考えられています。
4. 「マクロライド少量長期投与」って何?(位置づけ)
日本の耳鼻咽喉科領域では、慢性副鼻腔炎の一部に対して
14員環マクロライド(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシン等)を“少量で長期”投与
する治療が知られています。
ただしこれは、「すべての慢性副鼻腔炎に効く魔法」ではありません。
近年は慢性副鼻腔炎をタイプ分け(例:鼻茸あり/なし、好酸球性など)して治療を選ぶ流れが強く、
“好中球優位で膿性鼻汁が多いタイプ”では有効性が期待されやすい一方、“好酸球性(鼻茸が強い、喘息合併など)”では効きにくい
という整理がよく語られます。

5. なぜ効くの?少量長期マクロライドの「抗炎症」メカニズム
マクロライド少量長期投与のポイントは、
「菌を殺しきる」より「炎症の悪循環を断つ」に近い、という理解です。
| 狙い | 具体的な作用(例) | 期待される臨床的変化 |
|---|---|---|
| 好中球性炎症の抑制 | IL-8産生抑制、好中球の集積・活性化の抑制など(NF-κB経路の関与が示唆) | 膿性鼻汁・後鼻漏が減る、粘膜腫脹が落ち着く |
| 粘液分泌の調整 | 水・粘液分泌の抑制などが報告 | “ネバネバ”が軽くなり、排泄が改善しやすい |
| バイオフィルム関連 | バイオフィルム・クオラムセンシング(細菌間の情報伝達)への影響が議論される | 再燃を起こしにくくなる可能性(ただし万能ではない) |
近年のレビューでも、低用量長期マクロライド療法はCRSの選択肢になりうる一方、
効果は“患者群(タイプ)によって差がある”こと、エビデンスの質や適応の見極めが重要であることが述べられています。
6. 「どのくらい長く飲むの?」投与期間の考え方
少量長期療法は“数日でスパッと効く”というより、炎症が落ち着くまで時間が必要です。
日本の薬剤師向けQ&Aでも、
エリスロマイシン 400〜600mg/日、またはクラリスロマイシン 200mg/日、またはロキシスロマイシン 150mg/日
といった用量が紹介され、投与期間の考え方が議論されています。
ただし、これは“治療の一般論・目安”であり、
個々の患者背景(病型、重症度、鼻茸の有無、喘息合併、手術歴、他の治療併用)で最適解は変わります。

7. 薬剤師として必ず押さえる:副作用・相互作用・耐性の話
7-1) 副作用でよく問題になるもの
- 消化器症状:下痢、腹痛、悪心など
- 肝機能:肝機能障害が疑われる症状(だるさ、食欲不振、黄疸など)
- QT延長:不整脈リスクがある背景(既往、併用薬、電解質異常)では注意
7-2) 相互作用:特にクラリスロマイシンは要注意
クラリスロマイシンは併用禁忌・併用注意が多い薬の代表格です。
実際の添付文書でも多数の併用禁忌薬が列挙されています。
「いつもの薬+クラリス」が危ない組み合わせは現場で頻出します。代表的には、
一部の睡眠薬、抗不整脈薬、抗凝固薬、スタチンなど、CYP3A4やP糖蛋白に絡む相互作用が問題になり得ます(具体の可否は必ず処方内容で確認)。
7-3) 耐性:長期だからこそ説明が必要
長期投与では、患者さんが一番心配するのが「耐性菌」。
添付文書にも、耐性菌発現を防ぐために“必要最小限の期間”などの基本的注意が明記されています。
ここは誤解されやすいのですが、
少量長期療法は「だらだら抗菌」ではなく、病態に合う人に“炎症制御”を狙って行う治療であり、
だからこそ適応の見極めと漫然投与の回避が重要です。
症例・具体例・実践例(薬局での説明テンプレつき)
実践例1:患者さん「抗生物質を3か月!?大丈夫なんですか?」


「今回の薬は、ばい菌を全部やっつける目的というより、鼻の中の炎症を落ち着かせて、鼻水が出やすい状態に整える目的で少ない量を長く使うことがあります。合う人には、後鼻漏や鼻づまりがじわじわ改善することがあります」って!
説明テンプレ(薬局向け)
- 「急に強く効かせるというより、炎症のクセを落ち着かせる目的で“少量を長めに”使うことがあります」
- 「合わないタイプもあるので、症状が変わらない/悪化する場合は早めに受診してください」
- 「下痢・腹痛、動悸、ふらつき、強いだるさ等があれば連絡を」
- 「併用薬が多い方は相互作用があるので、他院の薬・サプリも含めて必ず教えてください」
実践例2:処方監査の落とし穴(相互作用)
例:クラリスロマイシンが追加された患者さんが、他院から複数の定期薬をもらっているケース。
クラリスは併用禁忌・注意が非常に多いため、必ず全処方・お薬手帳を確認します。21
- 「眠剤」「不整脈の薬」「血液サラサラの薬」「脂質異常症の薬」などは特に注意して確認
- 疑義照会は“禁忌チェック”だけでなく「減量」「一時中止」「代替抗菌薬」などの提案型が有効なことも
実践例3:急性増悪と慢性の見分け(相談対応)
慢性副鼻腔炎の患者さんが「最近急に悪化した」というときは、
急性増悪(細菌性の要素が強くなる)が混じることがあります。
その場合は“少量長期”よりも、病状に応じて治療戦略が変わる可能性があるため受診勧奨が安全です。
まとめ
- 慢性副鼻腔炎は、単純な細菌感染ではなく、炎症の持続+排泄障害+バイオフィルムなどが絡むことが多い。
- 慢性でよく検出されやすい菌として、黄色ブドウ球菌と嫌気性菌が代表的。
- マクロライド少量長期投与は、抗菌作用というより抗炎症・粘液調整などを狙う位置づけで語られる。
- ただし病型(好中球優位/好酸球性、鼻茸の有無など)で効きやすさが変わる。
- 薬局では、相互作用(特にクラリス)と副作用、漫然投与の回避を丁寧に説明・確認する。
よくある質問(FAQ)
Q. 慢性副鼻腔炎は「どの菌が原因」と決め打ちできますか?
難しいです。慢性では複数菌種が絡むことも多く、さらにバイオフィルムがあると培養で検出されない/一部しか見えないこともあります。
そのため、「菌だけ」ではなく「炎症タイプ」「鼻の形態」「鼻茸の有無」「アレルギー/喘息」など総合で治療方針が決まります。
Q. マクロライド少量長期は、全員にやった方がいい治療ですか?
いいえ。効果が期待しやすいタイプがある一方、効きにくいタイプもあります。
「合う病態を選ぶ」ことが重要で、国際的にも“長期低用量抗菌薬”はエビデンスとリスクを踏まえて慎重に位置づけられています。
Q. 少量長期って、耐性菌が心配です…
心配はもっともです。だからこそ、漫然投与は避け、必要性があると判断された場合に限定して行います。
薬剤の添付文書にも、耐性菌発現を防ぐ観点での注意が記載されています。
Q. 服用中に下痢が出たらやめるべき?
軽い下痢なら様子を見ることもありますが、強い腹痛・頻回下痢・血便・脱水、発熱などがある場合は早めに医療機関へ相談してください。
また、他の薬との相互作用で体調変化が出ることもあるため、自己判断で中断せず連絡するのが安全です。
Q. 「クラリスは併用注意が多い」と聞きました。本当?
はい。クラリスロマイシンは併用禁忌/注意が多く、添付文書でも多数の併用禁忌薬が挙げられています。
複数医療機関受診の方は特に、お薬手帳(全処方)を必ず提示してください。
参考文献(最終確認日:2025-12-24)
- PMDA(医薬品医療機器総合機構)添付文書:クラリスロマイシン錠200mg「大正」(PDF)
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/370035_6149003F2283_1_03 - Brook I. Microbiology of chronic rhinosinusitis. (PubMed) 2016
Microbiology of chronic rhinosinusitis - PubMedMost sinus infections are viral and only a small percentage develop bacterial infection. Rhino-, influenza, and para-inf... - Fastenberg JH, et al. Biofilms in chronic rhinosinusitis: Pathophysiology and therapeutic strategies. (PMC) 2016
Biofilms in chronic rhinosinusitis: Pathophysiology and therapeutic strategies - PMCThere is increasing evidence that biofilms are critical to the pathophysiology of chronic infections including chronic r... - Barshak MB, et al. The role of infection and antibiotics in chronic rhinosinusitis. (PMC) 2017
The role of infection and antibiotics in chronic rhinosinusitis - PMCTo review the current understanding of the role of infection and antibiotics in chronic rhinosinusitis. PubMed literatur... - 川内秀之.臨床セミナー⑽ マクロライド療法を見直す(J-STAGE PDF)2013
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/116/4/116_366/_pdf - European Position Paper on Rhinosinusitis and Nasal Polyps(EPOS 2020 Supplement PDF)
https://www.rhinologyjournal.com/Documents/Supplements/supplement_29.pdf - Ryu G, et al. The Mechanism of Action and Clinical Efficacy of Low-Dose, Long-Term Macrolide Therapy in Chronic Rhinosinusitis. (PMC) 2023
The Mechanism of Action and Clinical Efficacy of Low-Dose Long-Term Macrolide Therapy in Chronic Rhinosinusitis - PMCVarious chronic inflammatory airway diseases can be treated with low-dose, long-term (LDLT) macrolide therapy. LDLT macr...
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薬剤師向け転職サービスの比較と特徴まとめ


今日は、特徴をわかりやすく整理しつつ、読んでくださる方が自分の働き方を見つめ直しやすいようにまとめていきましょう。
働く中で、ふと立ち止まる瞬間は誰にでもあります
薬剤師として日々働いていると、忙しさの中で気持ちに余裕が少なくなり、
「最近ちょっと疲れているかも…」と感じる瞬間が出てくることがあります。
- 店舗からの連絡に、少し身構えてしまう
- 休憩中も頭の中が業務のことでいっぱいになっている
- 気づけば仕事中心の生活になっている
こうした感覚は、必ずしも「今の職場が嫌い」というわけではなく、
「これからの働き方を考えてもよいタイミングかもしれない」というサインであることもあります。
無理に変える必要はありませんが、少し気持ちが揺れたときに情報を整理しておくと、
自分に合った選択肢を考えるきっかけになることがあります。
薬剤師向け転職サービスの比較表
ここでは、薬剤師向けの主な転職サービスについて、それぞれの特徴を簡潔に整理しました。
各サービスの特徴(概要)
ここからは、上記のサービスごとに特徴をもう少しだけ詳しく整理していきます。ご自身の希望と照らし合わせる際の参考にしてください。
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・面談を通じて、これまでの経験や今後の希望を整理しながら話ができる点が特徴です。
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・調剤系の求人を取り扱う転職支援サービスです。
・職場の雰囲気や体制など、求人票だけではわかりにくい情報を把握している場合があります。
・「長く働けそうな職場かどうか、雰囲気も含めて知りたい」という方が検討しやすいサービスです。
・薬剤師に特化した職業紹介サービスで、調剤薬局・病院・ドラッグストアなど幅広い求人を扱っています。
・公開されていない求人(非公開求人)を扱っていることもあり、選択肢を広げたい場面で役立ちます。
・「いろいろな可能性を見比べてから考えたい」という方に合いやすいサービスです。
・調剤薬局を中心に薬剤師向け求人を取り扱うサービスです。
・研修やフォロー体制など、就業後を見据えたサポートにも取り組んでいる点が特徴です。
・「現場でのスキルや知識も高めながら働きたい」という方が検討しやすいサービスです。
気持ちが揺れるときは、自分を見つめ直すきっかけになります
働き方について「このままでいいのかな」と考える瞬間は、誰にでも訪れます。
それは決して悪いことではなく、自分の今とこれからを整理するための大切なサインになることもあります。
転職サービスの利用は、何かをすぐに決めるためだけではなく、
「今の働き方」と「他の選択肢」を比較しながら考えるための手段として活用することもできます。
情報を知っておくだけでも、
「いざというときに動ける」という安心感につながる場合があります。


「転職するかどうかを決める前に、まずは情報を知っておくだけでも十分ですよ」ってお伝えしたいです。
自分に合う働き方を考える材料が増えるだけでも、少し気持ちがラクになることがありますよね。
無理に何かを変える必要はありませんが、
「自分にはどんな可能性があるのか」を知っておくことは、将来の安心につながることがあります。
気になるサービスがあれば、詳細を確認しながら、ご自身のペースで検討してみてください。



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