
春になると、花粉症の患者さんと一緒に「春季カタル」も見かけるよね。

患者さんにも説明が難しいです💦

普通のアレルギー結膜炎よりも炎症が深く、角膜までダメージが及ぶこともあるんだよ。
前書き:春季カタルの概要
春季カタル(Vernal Keratoconjunctivitis; VKC)は、
アレルギー性結膜炎の中でも最も重症で、慢性経過をたどるタイプです。
患者の多くは小児〜思春期の男子で、年齢とともに自然軽快する傾向がありますが、
症状が強い場合は角膜上皮障害→視力障害を残すこともあり、
早期診断・適切治療が極めて重要です。
薬剤師として関わるポイントは以下の通りです👇
- 花粉症や通常のアレルギー性結膜炎との鑑別
- 点眼薬の選択(抗アレルギー薬・ステロイド・免疫抑制剤)
- 長期ステロイド使用時の副作用管理(眼圧・感染リスク)
- アドヒアランス指導(特に小児での点眼指導)
春季カタルは単なる「春のかゆみ目」ではなく、
重症化すれば視機能に影響する疾患。
だからこそ、薬剤師が正しく理解し、患者指導の中で早期受診や治療継続を促すことが大切なのです。
病態・原因・症状・診断
■ 病態の概要
春季カタルの病態は、単純なⅠ型アレルギーにとどまりません。
近年では、Ⅱ型・Ⅳ型アレルギー反応の関与も示されており、
免疫反応の“ハイブリッド型疾患”として理解されています。
| 免疫反応の種類 | 主な関与細胞 | 反応内容 |
|---|---|---|
| Ⅰ型(即時型) | 肥満細胞、IgE | ヒスタミン放出によるかゆみ・充血 |
| Ⅱ型・Ⅳ型(遅延型) | 好酸球、T細胞 | サイトカイン放出、角膜障害、線維化 |
| 慢性炎症反応 | 好酸球、マクロファージ | IL-4, IL-5, IL-13などの持続的炎症 |
好酸球が放出する**MBP(Major Basic Protein)やECP(Eosinophil Cationic Protein)**が角膜上皮を傷つけ、
それが痛みや視力低下の原因になります。
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■ 発症因子
明確な原因は不明ですが、発症を助長する因子として以下が知られています。
- アトピー素因(アトピー性皮膚炎・喘息など)
- 環境アレルゲン(花粉・ダニ・ハウスダスト)
- 紫外線(UV刺激による炎症悪化)
- ホルモン(テストステロン)
- 気候(春〜初夏の乾燥・風など)
つまり、春季=気温上昇+紫外線+アレルゲン曝露が重なる季節に悪化するわけですね。
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■ 臨床症状
代表的な症状は以下の通りです👇
- 激しいかゆみ
- 強い異物感・灼熱感
- 粘り気の強い糸状の眼脂
- 羞明(光がまぶしい)
- 角膜上皮障害・角膜潰瘍
なかでも特徴的なのが上眼瞼裏の巨大乳頭です。
表面が石畳のように隆起して見えることから「巨乳頭結膜炎」とも呼ばれます。
この乳頭が角膜を物理的に刺激し、角膜びらんや潰瘍を起こすこともあります。
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■ 診断の流れ
診断は臨床所見+既往歴で行われます。
| 診断項目 | ポイント |
|---|---|
| 発症時期 | 春〜夏にかけて増悪 |
| 年齢・性別 | 小児〜思春期男子に多い |
| 眼瞼結膜 | 巨大乳頭の形成(石畳様) |
| 角膜所見 | 点状びらん、盾状潰瘍など |
| 検査 | 結膜擦過→好酸球増多、IgE上昇 |
眼科でのスリットランプ所見が決め手になりますが、
薬剤師としても「この症状は普通の花粉症と違うな」と気づけると、
早期受診を促す重要なサインになります。
治療と薬剤師の役割
■ 治療の基本方針
春季カタル(VKC)の治療は、症状の重症度と角膜障害の有無によって段階的に行われます。
薬剤師は、「どの段階の治療か」を理解することで、適切な薬学的フォローが可能になります。
| 重症度 | 主な治療内容 |
|---|---|
| 軽症 | 抗アレルギー点眼(メディエーター遊離抑制型 or 抗ヒスタミン型) |
| 中等症 | ステロイド点眼(短期)+抗アレルギー薬併用 |
| 重症 | 免疫抑制剤点眼(タクロリムスなど)+ステロイド漸減療法 |
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■ 抗アレルギー点眼薬
第一選択となるのが抗アレルギー点眼薬です。
肥満細胞安定化作用と抗ヒスタミン作用を持つ製剤を選択します。
一般名 商品名例 特徴
オロパタジン パタノール® 即効性+抗ヒスタミン作用強
エピナスチン アレジオン® 長時間作用、1日2回点眼
ペミロラスト アレギサール® 予防的に使用されることも
トラニラスト リザベン® 結膜肥厚・線維化抑制作用も
抗アレルギー薬は症状が出る前からの継続使用が推奨されます。
薬剤師としては、「花粉症シーズン前からの点眼開始」を啓発することがポイントです。
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■ ステロイド点眼薬
ステロイドは強力な抗炎症作用を持ち、短期間で症状を軽快させますが、
眼圧上昇・感染リスク・白内障などの副作用があるため、眼科医管理下での使用が原則です。
一般名 商品名例 ポイント
フルオロメトロン フルメトロン® 軽〜中等度炎症に適応
プレドニゾロン プレドニン® 中等度〜重症例に使用
ベタメタゾン リンデロン® 強力、短期間使用に限る
薬剤師は以下の点を患者に指導します👇
- 医師指示の用法・用量を厳守
- 点眼回数を自己判断で減らさない/中止しない
- 眼圧検査を定期的に受けること
■ 免疫抑制点眼薬
近年、春季カタルに対して**タクロリムス点眼(プロトピック®・タリムス®など)**が有効とされています。
タクロリムスはT細胞活性化を抑制し、好酸球浸潤やサイトカイン産生を抑えます。
- 1日1〜2回点眼
- 副作用:刺激感・灼熱感・一過性の充血
- ステロイド漸減期に併用されることが多い
特に小児では、ステロイド長期使用回避の代替手段として非常に有用です。
薬剤師は、初期刺激症状(しみる)について事前に説明し、継続をサポートすることが大切です。
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■ 併用療法とセルフケア
春季カタルは外的刺激で悪化するため、環境管理も重要です。
- 紫外線対策(サングラス・帽子)
- 冷タオルでのクーリング
- コンタクトレンズ中止(炎症期は装用不可)
- アレルギー鼻炎がある場合の併治
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■ 内服治療
症状が強い場合、抗ヒスタミン薬の内服が補助的に用いられます。
例:フェキソフェナジン(アレグラ®)、オロパタジン(アレロック®)など。
眠気に注意し、就学児の場合は2世代抗ヒスタミン薬を優先するよう指導します。
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症例と実践指導例
■ 症例:10歳男児・春季カタル
主訴:強いかゆみと糸状眼脂
治療:オロパタジン点眼+フルオロメトロン点眼+タクロリムス併用
経過:初期はステロイド併用、2週間後からタクロリムス単独維持
指導:冷却・紫外線予防・点眼順序(抗アレルギー→5分後ステロイド→就寝前タクロリムス)
薬剤師の関与ポイント:
- 点眼間隔の指導
- ステロイドの短期使用と眼圧リスク説明
- 刺激感による中断防止
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まとめ
- 春季カタルは重症型のアレルギー性結膜炎であり、角膜障害を伴うことがある
- 好酸球を中心とした複合的な免疫反応が関与
- 抗アレルギー薬 → ステロイド → 免疫抑制剤のステップ療法が基本
- 薬剤師は副作用管理・点眼順序・継続指導で重要な役割を担う
春季カタルは「たかが目のかゆみ」ではありません。
視力に関わる疾患であり、患者教育と継続支援が治療成績を左右します。
薬剤師が正しい知識でサポートすることで、患者のQOLは大きく向上します。
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よくある質問(Q&A)
Q1. 春季カタルはいつ治りますか?
A. 多くは思春期を過ぎると自然軽快しますが、長期にわたることも。医師の指示に沿った継続治療が重要です。
Q2. ステロイド点眼を使っても大丈夫?
A. 眼圧や感染症リスクに注意し、医師の指示通り短期間で使用すれば安全です。
Q3. タクロリムス点眼は子どもにも使えますか?
A. 小児への使用実績があり、重症例ではステロイドの代替薬として推奨されています。
Q4. 市販薬で治せますか?
A. 春季カタルは市販薬では治りません。早期に眼科を受診しましょう。
参考文献
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(ウェブページ)
URL:https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=13
最終確認日:2025-11-05
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