皆さまこんにちは!
薬局薬剤師のゆずまるです
今回のテーマはクロストリジウムについてです。
アンサングシンデレラでも紹介されていましたよね。
クロストリジウム・ディフィシルがどういったものかを解説していきたいと思います
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)とは
フィルミクティス門のクロストリジウム属に属する細菌です
同属の代表的な菌にはボツリヌス菌、ウェルシュ菌、破傷風菌などの悪玉菌や善玉菌である宮入菌などがあげられます。
グラム陽性の偏性嫌気性(酸素がない場所で生息する)細菌です
亜端在性(中心ではなく端より)の楕円形の芽胞を産生する。
発見当時は培養が困難であったことよりフランス語で困難を意味する difficile に因んで Clostridium difficile と命名されました
フィルミクティス門ってなに?という方は過去記事もご覧ください

芽胞とは?
増殖に適さない環境になったときに形成する耐久性の高い特殊な細胞構造のこと
言いかえるなら一部の細菌が使えるバリア機能のことです
熱や乾燥、薬剤などにも強い抵抗力を示し長期間休眠状態を維持することで苦手な環境でも耐え抜くことができます
そして増殖に適した環境にもどると発芽して菌体に戻ります
生息場所
土壌、干し草、砂などの自然環境中やヒトに限らず動物(ウシ、ウマ、イヌ、ネコなど)の腸管や糞に棲息します。
偏性嫌気性のため酸素濃度が低い場所で育ちます。
偏性嫌気性菌とは?
一般的な偏性嫌気性菌は活性酸素を除去するスーパーオキシドジスムターゼやカタラーゼといった酵素を持たない。
そのために酸素のある条件下では活性酸素を除去できず菌の増殖ができません
しかしながらクロストリジウム属は酸素がある環境下では芽胞を形成し休眠する
その結果、不適な環境から逃れ生き残ることができます。
厄介な菌である。
常に保有している菌
新生児では50%以上の糞便より検出されるが、2 歳以降になるとその検出率は 5%以下とされ大人になっても常在している菌になります。(そのうちの半数は非病原性株)
新生児に多く保有しているが症状は出ない。その理由は未だ明確な回答が出ていないのが現状です
クロストリジウムディフィシルの毒素
クロストリジウム・ディフィシルの産生する毒素にはトキシン A、トキシン B と第3の毒素であるバイナリートキシンがあります
トキシンAは腸管毒素と呼ばれ腸管粘膜に結合し粘膜の損傷や出血を伴う下痢、蛋白質や電解質の喪失を生じさせるほか好中球の遊走因子でもある
トキシン Bは細胞毒素と呼ばれ損傷され た粘膜から組織内に侵入し細胞毒素を発揮する
バイナリートキシンは強毒株が産生する毒素でADPリボシル化作用および下痢惹起作用を持つ
トキシンAとトキシンBを抑制する役割を担うTcdC遺伝子が欠損しているため、この菌株では最大でトキシンAが通常株の16倍、トキシンBが通常株の23倍も産生される
トキシンA…下痢を引き起こす原因物質。腸管毒(エンテロトキシン)
トキシンB…細胞を傷害する細胞毒(サイトトキシン)
バイナリートキシン…強毒株(NAP1/B1/027)が産生する毒素
厄介な理由
クロストリジウムディフィシルは糞口感染でヒトからヒトへと感染する
芽胞を形成するため、熱や乾燥に耐性をもちます。
その上アルコール系の手指消毒液などでは殺菌されません
一度付着すると長時間生存するためほぼ全ての場所で検出され通常トイレやベッドなどでも見られる菌です
病院や施設など、入院や入所期間が長くなるほど保菌率が高まる傾向にあり、4週の入院での検出率は50%と言われています
体内に取り込まれても芽胞は耐酸性のため無傷で胃を通過する。
その後胆汁酸に触れることで発芽し大腸内で増殖を開始します。
特に一次胆汁酸の一つであるコール酸のタウリン抱合体であるタウロコール酸が高い発芽促進作用を有すると言われています
- トイレなどあちこちで生存可能
- アルコールなどよく使われる消毒液は効果なし
- 免疫力の落ちてる入院患者を中心に感染のリスクあり
対策
手指衛生
クロストリジウム・ディフィシルは芽胞の形で存在しているときはアルコールは効果がありません
石けんと流水による手洗いが基本になります
接触時
クロストリジウム・ディフィシル感染症患者と接触の際、使い捨て手袋を使用するのが良い
使い捨てガウンがあるとなお良し
使い捨て手袋およびガウンの着脱は処置ごとに行い退室時にはずすのは基本
消毒液
芽胞に有効かつ、安価で使いやすい消毒薬である次亜塩素酸ナトリウムが使われています
5,000ppmの次亜塩素酸ナトリウムを使用で10分以内でクロストリジウム・ディフィシルの芽胞を不活化
3,000ppmの次亜塩素酸ナトリウムでは20分、1,000ppmでは約30分を要する
リスク因子
クロストリジウムディフィシルによる腸炎発症のリスク因子はいくつかあるので紹介します。
薬剤投与患者
抗生物質投与中
抗生物質の投与は高いリスク因子となります
抗生物質を投与することにより腸内フローラが乱れ、ビフィズス菌などの善玉菌が減る結果、抗生物質に抵抗性のあるクロストリジウム属が生き残り増殖する現象が起こり得る
- クリンダマイシン
- ペニシリン系(アンピシリンやアモキシシリンなど)
- セファロスポリン系(セフトリアキソンなど)
- フルオロキノロン系(レボフロキサシンやシプロフロキサシンなど)
上記に記載した抗生物質以外でも、基本的には原因になるので必要なときに必要なだけ使うのが抗生物質の基本
プロトンポンプインヒビターPPI投与中
プロトンポンプ阻害薬の投与で腸内細菌叢の多様性と均一性が有意に低下することが報告されています
また、プロトンポンプ阻害薬より強力な胃酸分泌抑制作用を持つカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P- CAB)もあります
P-CAB はプロトンポンプ阻害剤と比較してより強く腸内細菌叢の構成に影響するといわれています。
Bacteroidetes 門と Streptococcus 属の有意な増加(プロトンポンプ阻害薬 7 倍、P-CAB 20 倍)を誘導したが、さらにP-CABは Actinomyces 属とRothia属の有意な 増加とBlautia属とCoprococcus属の有意な減少を誘導した
制酸薬による胃酸バリアの破壊により口腔内常在菌の増加と偏性嫌気性菌の減少がみられた。いずれもCDIとの関連が報告されている腸内細菌叢の変化である
C. difficile 芽胞は胃酸の低いpH環境下でも生き残ることが出来るため制酸薬と CDI発症との関連があると言うのには疑問が残ります
腸内環境の変化がCDIの発症リスクを上昇させていると考えるのが妥当ですね
ちなみに、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の投与は胃酸の分泌を低下させ、再発性のディフィシルによる腸炎の発症を4.2倍増加させる報告があります
その他のリスク因子
- 炎症性腸疾患
- 複数疾患の合併
- 消化管手術を受けた患者
- 免疫低下患者(移植後患者)
- 周産期の女性
- 介護施設での長期入所
- 長期間の入院
- 高齢者
症状
通常は抗菌薬の投与開始後5~10日で起こりますが、投与初日に起こることもあれば、最長で2カ月後に起こることもあります。
症状は炎症の程度に応じて異なり、便が少し軟らかくなる程度から、血性の下痢、腹痛や腹部けいれん、発熱まで様々です
また吐き気や嘔吐の症状はあまりありません
重症の場合は、命に関わるほどの脱水や低血圧、中毒性巨大結腸症、大腸穿孔が起こることがあります。
抗生物質を投与後に見られることが多いのが特徴と言えそうです
治療
ガイドラインのフローチャートを添付します。

原因抗菌薬の中止
抗菌薬の投与が発症の原因となるため、当該する抗菌薬を早急に中止するのが優先事項
他の感染性腸炎を疑い、本菌に無効な抗菌薬の投与に切り替えることは患者の状態を増悪させることもあります
抗菌薬の投与
治療としてバンコマイシン(VAN)やメトロニダゾール(MNZ)が使用される
バンコマイシンは0.5 ~ 2.0g/日(分 4) 7 ~ 14 日間投与
メトロニダゾール は1.0 ~ 1.5g/日(分3 または分 4) 7 ~ 14 日間投与
通常症例の場合の奏功率はバンコマイシンと メトロニダゾールは同程度
重症の場合はバンコマイシン97%、メトロニダゾール76%であったとの報告があります
再発率はバンコマイシン投与で14%、メトロニダゾール投与患者で15%で再発率は両者に違いは認められなかった
そのため通常症例では安くてバンコマイシンの耐性菌を作らないためにメトロニダゾールを使用します
重症例ではバンコマイシンが投与される
毒素吸着
陰イオン結合性レジンであるコレスチラミンはディフィシル菌のトキシンを吸着することにより、病態の改善を引き起こすことが期待されています
免疫グロブリン
重症型で再発性の患者に対して免疫グロブリンの静脈内投与が行われます
重症症例 14 名の患者に対して免疫グロブリン治療(150 ~ 400mg/kg)が行われた。
すべての患者で副反応は認められず、9 名(64%)の患者では症状の改善を認められたとの報告がある
糞便注腸法
健常者の糞便を採取
これを希釈し患者の肛門より直接的に注入する治療法。
健康な人の腸内フローラ構成菌を患者の腸内へ投与する一種の細菌治療法である
糞便注腸法が実施された患者のうち80%の患者で症状の軽快および治癒が認められたことが報告されている
プロバイオティクス
プロバイオティクス 人の身体に良い影響を与える微生物(生菌)のこと
いわゆる善玉菌を増やすことで腸内環境を整えることです。
このことに関しては別記事で少し詳しく取り上げたいと思います
再発抑制薬
ベズロトクスマブ(ジーンプラバ)
ベズロトクスマブ(商品名ジーンプラバ)はクロストリジウム・ディフィシルにより産生されるトキシンBに高親和性に結合し、トキシンBを中和する抗体薬です。
2017年11月22日に薬価収載されました
適応はクロストリジウム・ディフィシル感染症の再発抑制
12週後のCDI再発率は17.4%であり,プラセボ群の27.6%と比較し抑制効果がみられました
10mg/kgを60分かけて単回点滴静注します。
基本的には抗菌活性を有していないので治療効果は期待できないと考えられています。
医師が再発リスクが高いと判断したCDI患者が投与の対象となり、抗菌薬投与開始後3日以上経ってから、ジーンプラバの投与を検討されます。
薬価は336620円(2020年4月1日)
うーん、手が出ない…
再発とは?
再発の定義は「初回CDIが臨床的治癒に至った後、新たな下痢(24時間以内に3回以上の軟便)を発現し、それに伴う治験実施施設又は中央検査機関でのC. difficileトキシン便検査が陽性となった場合」としています。
海外では8週以内に起こるものと定義されているようです。
まとめ
クロストリジウムディフィシルは思いの外身近な菌株であることが分かったと思います。
感染のリスクは至るところに存在します。
特に高齢者など免疫力が落ちている人がいる環境下ではベッド周りやトイレなどに付着している可能性は高いため注意が必要です
こまめに手洗いを適正に行うようにしましょう
また不用意な抗菌薬の使用が悪さをする原因になるため適正な抗菌薬の使用が必要になります
医療従事者のみならず一般の方にも必要な知識のため正しく広め全員で対策していきましょう
参考文献
ディフィシル菌感染症の基礎と臨床 モダンメディア 56 巻 10 号 2010
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