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この記事でわかること
- 吐き気(嘔気・嘔吐)が起こる5つの経路とチェックポイント
- 薬理作用別にみた吐き気止めの強さ・適応・注意点
- 市販薬と処方薬の違い・売場での声かけフローチャート
- 症例別(胃腸炎/乗り物酔い/抗がん剤/つわり/ストレス性/術後)での実践的な選び方
- 副作用・併用禁忌、患者指導の鉄板フレーズ
※ 本記事は一般向けの情報提供であり、個別の診断・治療を置き換えるものではありません。強い症状が続く/意識障害・激しい頭痛・血便等を伴う場合は速やかに受診してください。
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吐き気の仕組み(メカニズム)をやさしく整理
吐き気や嘔吐は、脳の延髄にある「嘔吐中枢」が活性化して起こります。刺激は複数ルートから集まります。
経路 | よくある原因 | 関与受容体 | 有効薬の方向性 |
---|---|---|---|
消化管(腸粘膜) | 食あたり、胃腸炎、術後 | 5-HT3 | 5-HT3拮抗薬、ドパミン遮断薬 |
|
乗り物酔い | H1、M1 | 抗ヒスタミン薬、抗コリン薬 |
CTZ(化学受容体引金帯) | 抗がん剤、薬剤性 | D2、5-HT3、NK1 | D2遮断薬、5-HT3拮抗薬、NK1拮抗薬 |
大脳皮質 | 不安、ストレス、におい | GABA、5-HT | BZD系、非薬物療法 |
薬理作用別|吐き気止めの特徴と強さ
① ドパミンD2受容体遮断薬(中等度)
代表薬:メトクロプラミド(プリンペラン®)、ドンペリドン(ナウゼリン®)
作用:CTZのD2遮断+消化管運動促進。胃もたれ・停滞型の嘔気に合う。
強さ:★★★☆☆ 注意:錐体外路症状、高プロラクチン血症、(ドンペリドン)QT延長。
② セロトニン5-HT3受容体拮抗薬(最強クラス)
代表薬:オンダンセトロン、グラニセトロン、パロノセトロン
作用:腸管-迷走神経-CTZの5-HT3を遮断し強力な制吐。
強さ:★★★★★ 注意:便秘、頭痛、QT延長。
使い所:抗がん剤・放射線・術後嘔吐の第一選択。
③ 抗ヒスタミン薬(軽〜中)
代表薬:メクリジン(アネロン®)、ジメンヒドリナート(トラベルミン®)
作用:前庭-嘔吐中枢のH1遮断、動揺病の予防。
強さ:★★☆☆☆ 注意:眠気・口渇。
使い所:乗り物酔いは出発30分前の予防服用が鉄則。
④ 抗コリン薬(やや強め・貼付で持続)
代表薬:スコポラミン(トランスデム®貼付)
作用:M1遮断で前庭からの入力を遮る。72時間持続。
強さ:★★★★☆ 注意:緑内障・前立腺肥大は禁忌、せん妄に注意。
⑤ NK1受容体拮抗薬(最強クラス)
代表薬:アプレピタント(イメンド®)、ホスアプレピタント(プロイメンド®)
作用:サブスタンスP-NK1を阻害し遅発性嘔吐を抑える。
強さ:★★★★★ 注意:CYP3A4相互作用。
⑥ ベンゾジアゼピン系(補助)
代表薬:ロラゼパム、ジアゼパム
作用:不安・予期性嘔吐を軽減。
強さ:★★★☆☆ 注意:眠気・転倒・依存性。
⑦ 消化管運動促進薬・漢方(穏やか)
代表薬:モサプリド(ガスモチン®)、六君子湯、小半夏加茯苓湯、半夏瀉心湯
作用:胃排出改善・体質調整。
強さ:★☆☆☆☆ 注意:継続的な評価が必要。
強さ・即効性の比較
分類 | 代表薬 | 強さ | 用途 | 即効性 | 主な注意点 |
---|---|---|---|---|---|
NK1拮抗薬 | イメンド® | ★★★★★ | 抗がん剤嘔吐 | △ | 相互作用 |
5-HT3拮抗薬 | ゾフラン® | ★★★★★ | 化学療法・術後 | ◎ | 便秘・頭痛 |
D2遮断 | プリンペラン® | ★★★☆☆ | 胃腸炎 | ◎ | 錐体外路 |
抗コリン | スコポラミン | ★★★★☆ | 乗り物酔い | △ | 禁忌疾患 |
抗ヒスタミン | アネロン® | ★★☆☆☆ | 乗り物酔い | ○ | 眠気 |
BZD系 | ワイパックス® | ★★★☆☆ | 予期性 | ○ | 依存 |
漢方・促進 | 六君子湯 | ★☆☆☆☆ | 慢性胃症状 | △ | 体質評価 |
市販薬と処方薬の違い&売場フロー
区分 | 主な成分 | 向く症状 | 注意点 |
---|---|---|---|
市販薬(OTC) | メクリジン、ジメンヒドリナート 等 | 乗り物酔い、軽いむかつき | 眠気・年齢制限・妊娠授乳は要相談 |
処方薬 | メトクロプラミド、ドンペリドン、5-HT3拮抗薬、NK1拮抗薬 等 | 疾患性・持続性・治療関連の嘔吐 | 副作用管理・相互作用に注意 |
売場ヒアリングのコツ(ミニフロー)
- いつから/何回吐いたか? 発熱や血便は?(重症サイン)
- 原因は思い当たる?(乗り物・飲酒・食あたり・薬の飲み始め)
- 年齢・妊娠授乳・持病・併用薬(禁忌や相互作用)
- 生活上の支障(運転・仕事)→ 眠気の少ない選択に
- 服用タイミング(予防/頓服)と水分補給の指導
症例で学ぶ:薬剤師の実践選択
症例1|ウイルス性胃腸炎の高校生
状況:24時間で嘔吐3回・発熱37.8℃・下痢あり。
考え:脱水予防を最優先。頓用でメトクロプラミドを短期。
指導:経口補水液を少量頻回、脂っこい食事を避ける。嘔吐の連続・意識障害・血便は受診。
症例2|家族旅行での乗り物酔い
状況:車で2時間。過去に酔いやすい。
選択:アネロンを出発30分前に。長距離フェリーなら前夜にスコポラミン貼付。
指導:空腹・満腹を避け、遠くの景色を見る。運転は不可。
症例3|外来化学療法(CINV)
状況:中等度催吐性レジメン。
選択:投与前に5-HT3+デキサメタゾン、遅発期にNK1追加。予期性にはロラゼパム。
指導:便秘対策、眠気・不眠の説明、服薬スケジュール表を配布。
症例4|妊娠初期のつわり
状況:食後すぐ吐く、体重が減り始め。
選択:小半夏加茯苓湯や六君子湯を検討、B6補助。重症は紹介。
指導:冷たい飲み物・生姜・少量頻回、無理せず受診。
症例5|試験前の心因性嘔気
状況:緊張で吐き気。胃部不快あり。
選択:短期でロラゼパム、慢性なら六君子湯。場合により制酸薬併用。
指導:睡眠衛生、深呼吸法、カフェイン過量を避ける。
症例6|術後嘔気(PONV)
状況:麻酔後の嘔気。女性・非喫煙・術式でハイリスク。
選択:予防で5-HT3+Dex、発現後はメトクロプラミド等。
指導:疼痛・オピオイド量の見直し、早期離床。
服薬指導トーク例(症例別)
① 胃腸炎による吐き気(メトクロプラミド/ドンペリドン)

胃の動きを整えて、吐き気を和らげる作用があります。
ただし、続けて飲んでも効果が強まるわけではないので、症状が落ち着いたら中止しましょう。
指導ポイント:短期使用・連用回避を強調。錐体外路症状リスクに注意。
② 乗り物酔い(メクリジン/スコポラミン)

効き始めるまで少し時間がかかるので、乗ってからでは遅いことがあります。
服用後は眠気が出ることがあるため、運転は控えてくださいね。
指導ポイント:予防服用のタイミング、眠気・抗コリン副作用(口渇・排尿困難)への注意喚起。
③ 抗がん剤治療に伴う吐き気(オンダンセトロン+デキサメタゾン+アプレピタント)

今日の分は食前に服用してください。
便秘や眠気が出る場合は我慢せず教えてくださいね。
指導ポイント:多剤併用スケジュールの確認、遅発性嘔吐への注意喚起。
④ 妊娠悪阻(小半夏加茯苓湯/ピリドキシン)

胃のむかつきや水を飲んでも気持ち悪い時に使えます。
空腹時でも服用できますが、味が苦手な方はぬるま湯で溶かすと飲みやすいです。
指導ポイント:妊婦への安全性説明・脱水時は受診推奨。
⑤ ストレス性の吐き気(ロラゼパム/六君子湯)

眠気が出ることがあるので、仕事や運転の前は避けましょう。
長期連用は控えて、必要なときだけ使うようにしてくださいね。
指導ポイント:服用タイミングと眠気の説明、心理的サポートの提案。
⑥ 術後嘔気(オンダンセトロン頓用)

吐き気が出てからでも効果がありますが、必要以上に使いすぎないようにしましょう。
もし吐き気が長引いたり強くなる場合は、必ず医師に伝えてください。
指導ポイント:頓用の範囲、効果発現・安全性説明。
まとめ:原因に合う薬を“正しく・短期で”
- 原因別に最適薬は違う(動揺病→抗ヒスタミン/化学療法→5-HT3+NK1/胃腸炎→D2遮断)
- 市販薬は軽症・一過性向け。持続・重症は受診が原則
- 眠気・QT延長・禁忌疾患など安全性チェックを徹底
よくある質問(Q&A)
Q. 市販の吐き気止めと処方薬を一緒に飲んでいい?
A. 同系統の重複は副作用増加の原因。必ず薬剤師に相談してください。
Q. 乗り物酔いの薬で一番眠くないのは?
A. 一般に抗ヒスタミン薬は眠気が強め。予定に応じて時間をずらす・貼付薬の検討を。
Q. つわりで市販薬は使える?
A. 原則は非薬物療法。つらい場合は漢方などを医師と相談の上で。
Q. 抗がん剤の吐き気止めで便秘…どうする?
A. 5-HT3拮抗薬で起きやすいので、下剤や食物繊維・水分の調整を併用します。
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参考文献
- 日本癌治療学会『制吐薬適正使用ガイドライン(2023年改訂第3版)』
(最終確認日:2025-10-11) - PMDA 添付文書検索:主要制吐薬(メトクロプラミド/ドンペリドン/オンダンセトロン/アプレピタント等)
(最終確認日:2025-10-11) - PMDA 添付文書電子化情報(基盤ページ)
(最終確認日:2025-10-11) - 秋田大学病院 制吐薬使用ガイドライン 第4版(2024年3月)
(最終確認日:2025-10-11) - MASCC/ESMO 制吐療法国際ガイドライン(日本語訳版)
(最終確認日:2025-10-11) - 日本病院薬剤師会『骨軟部肉腫患者における制吐療法対策』
(最終確認日:2025-10-11)



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