

前書き:アトピー外用の第三の柱――PDE4阻害薬という選択
アトピー性皮膚炎(AD)は「バリア破綻・炎症・掻痒」が絡み合う慢性炎症性皮膚疾患。標準治療の軸は保湿+外用ステロイド/カルシニューリン阻害薬ですが、顔・首・小児・長期管理などで“非ステロイド”の選択肢ニーズが高まっています。
このギャップを埋めるのがPDE4阻害薬:ジファミラスト(商品名:モイゼルト軟膏)。国内承認は2021年、軽~中等症ADでの有効性と忍容性を示したエビデンスが集積しています。日本皮膚科学会のADガイドライン(2021)でも保湿・抗炎症外用の組合せが基本方針として整理されています。
薬剤師が押さえる8つの要点
1)基本情報と位置づけ
- 一般名:ジファミラスト(Difamilast)/製品名:モイゼルト軟膏 0.3%・1%(大塚製薬)
- 薬効分類:PDE4阻害薬(外用)—“非ステロイド系”の抗炎症外用。
- 適応:アトピー性皮膚炎(年齢制限は添付文書を参照)。
- 患者向けガイド(2024年8月更新)も公開。外用回数や注意点の説明に活用可。
2)作用機序:PDE4阻害→cAMP上昇→炎症性サイトカイン抑制
PDE4は免疫細胞でcAMPを分解し、炎症性サイトカイン産生に関与。ジファミラストがPDE4を阻害すると細胞内cAMPが上がり、IL-4/IL-13、TNF-αなどの炎症シグナルが下がる方向へ働きます。
3)用法・用量と濃度の使い分け
| 患者像 | 推奨濃度 | 回数 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 成人・思春期 | 1%(初期) | 1日2回 | 4週間で改善乏しければ再評価 |
| 小児 | 0.3%主体(必要に応じ1%へ) | 1日2回 | 年齢・部位・重症度で調整 |
臨床試験や患者向けガイドは基本的にBID(1日2回)外用の設計/説明です。
4)エビデンス概観(成人・小児・長期)
- 成人Phase 3:4週時IGA 0/1達成率は1%軟膏でvehicle群より有意に高値(38.5% vs 12.6%)。安全性良好。短期での抗炎症効果が示されました。
- 小児Phase 3:2–14歳で0.3%/1%ともvehicleに優越。早期(1週)から差が出始め4週まで維持。
- 長期(52週):成人・小児の長期オープン試験(NCT03961529)で忍容性は概ね良好、継続投与の現実性が示唆。
- 乳幼児(3–<24か月):0.3%BIDのPhase 3長期試験 中間報告で有効性・安全性が支持。
5)塗布指導:FTUと順序が“効き”を左右
外用は「洗浄 → 保湿 → モイゼルト」の順が基本。顔や首など皮膚が薄い部位は“こすらずのせる”を強調。FTU(指先〜第一関節)=約0.5g相当で手のひら2枚分が目安、外用量を少なすぎにしないこと。ガイド資料も患者教育に◎。
薬剤師チェックリスト(塗布時)
- 入浴直後は20〜30分おいてから(刺激軽減)
- 保湿はたっぷり → モイゼルトは薄く均一に
- 掻き壊し・感染兆候(膿疱・痂皮・びらん)があれば先に対応を検討
- 4週で効果判定:不十分なら強度・部位・量・アドヒアランスを再点検
6)安全性:局所反応中心。妊娠・授乳は慎重適用
- よくある副作用:適用部位の刺激感、そう痒、毛包炎、皮膚炎などが報告。多くは軽度〜中等度。
- 禁忌:本剤成分に対する過敏症既往。
- 妊娠:添付文書上は投与しないことが望ましい旨の記載(動物での催奇形性所見など)。妊娠可能年齢の使用は医師と十分協議。
- 授乳:乳汁移行の情報あり。母乳栄養の有益性と治療有益性を勘案し個別判断。
- 感染病変:細菌/ウイルス/真菌の皮膚感染は先に治療、びらん・潰瘍へは慎重。
7)他剤との関係(ステロイド・タクロリムス・JAK外用)
モイゼルトは非ステロイドなので皮膚萎縮やsteroid withdrawal回避ニーズに適しますが、フレア時はステロイド短期集中的併用を検討する臨床運用が現実的。寛解維持や敏感部位はPDE4外用へスイッチ/併用が選択肢。経済性の比較では、成人中等症域でデルゴシチニブ0.5%より費用対効果良好の可能性を示す国内試算も(ICER≈82.7万円/QALY)。※医療経済モデルの仮定に依存。
8)処方監査・在庫運用TIPS
- 濃度と年齢:処方年齢・部位と濃度(0.3% / 1%)の整合を確認。
- 用量:面積あたり必要量(FTU換算)から本数不足になっていないか。チューブサイズと再診間隔の整合。
- 4週評価:維持・増強・切替(ステロイド/タクロリムス/デルゴシチニブ/生物学的製剤)を想定しフォロー。
- 保湿剤の同期処方:漫然投与を避けるうえでも保湿の質と量の同時最適化が鍵。ガイドラインに準拠。
症例・実践例:現場での動き方
症例1:6か月男児(顔・頸・肘窩)
- 背景:乾燥+紅斑・掻痒。保湿+弱ステで改善乏しく、保護者がステロイド継続に不安。
- 対応:モイゼルト0.3% BID、保湿増量。FTU指導と塗布順を図解で説明。
- 経過:2週で掻痒軽減、4週で紅斑縮小。12週維持。中間報告の知見とも整合。
症例2:35歳女性(体幹・肘内側・頸)
- 背景:間欠的に中等度ステを使用。皮膚萎縮や酒さ様皮膚炎を懸念。
- 対応:モイゼルト1% BIDにスイッチ。フレア部位のみ短期ステロイドをスポット併用。
- 経過:4週でIGA改善。以後は維持をPDE4外用へ、フレア時のみステという運用で安定。成人Phase 3の知見と合致。
薬剤師の実践ポイント
・外用量不足は最頻エラー。面積とFTUで本数を提案。
・4週評価をリマインドし、増強/切替/継続の分岐を患者と共有。
・妊娠・授乳・感染兆候・薄い皮膚(顔・頸・外陰部)へは注意喚起。
まとめ:要点5つ
- 非ステロイド系の抗炎症外用=PDE4阻害として、顔・頸・小児・長期管理ニーズに応える。
- 成人は1%を軸、小児は0.3%主体。BID外用、4週で効果判定。
- 忍容性は概ね良好、52週の長期データも蓄積中/公開。
- 妊娠・授乳は慎重投与。感染病変は先に対処。
- 保湿・FTU・塗布順序の患者教育がアウトカムに直結。
よくある質問
Q1. ステロイドの代替になりますか?
完全な代替ではありません。寛解維持や敏感部位、長期管理では有用ですが、フレア時には短期ステロイドで素早く炎症を鎮める戦略も重要です。
Q2. どのくらいで効き始めますか?
成人・小児の試験で1週頃から差が現れ、4週で有意差が明確化しています。個人差はあります。
Q3. 乳幼児でも使えますか?
3〜<24か月での臨床試験中間報告では0.3%BIDが有効・安全とされました(最終結果は追跡)。処方時は年齢・部位・重症度で適切な濃度を選択。
Q4. 妊娠・授乳では?
添付文書上は妊婦・妊娠の可能性がある女性へは投与を避けるのが望ましい旨。授乳は乳汁移行を踏まえ個別判断です。
Q5. JAK外用(デルゴシチニブ)やタクロリムスとの使い分けは?
敏感部位・長期の忍容性を重視する場合、PDE4外用は選択肢。フレア時はJAK/ステロイド併用も。費用対効果の面では成人中等症域でモイゼルト1%が優位の可能性あり(試算)。
参考文献
- 日本皮膚科学会ほか. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021(PDF).最終確認日:2025-10-27.
- PMDA. モイゼルト軟膏 0.3%/1% 添付文書.最終確認日:2025-10-27.
- PMDA. インタビューフォーム.最終確認日:2025-10-27.
- 大塚製薬. 患者向医薬品ガイド(2024年8月改訂).最終確認日:2025-10-27.
- Saeki H, et al. Difamilast ointment in adult patients with atopic dermatitis: Phase 3 RCT. PMID:34710557.最終確認日:2025-10-27.
- Saeki H, et al. Difamilast in pediatric AD: Phase 3 RCT. DOI(BJD).最終確認日:2025-10-27.
- Saeki H, et al. Long-term Open-label (52-week). Dermatol Ther (Heidelb) 2022;NCT03961529.最終確認日:2025-10-27.
- Saeki H, et al. Infants 3–<24 months interim report. PMID:39075274;PMC11393375.最終確認日:2025-10-27.
- Nakahara T, et al. Cost-Effectiveness of Difamilast 1% in Japan. DOI.最終確認日:2025-10-27.
付録:外用量早見・指導カード文例(コピペOK)
FTU早見(成人):
顔(全体)1〜1.5 FTU/片前腕1 FTU/手背+指で0.5 FTU/体幹前面3 FTU/体幹後面3 FTU など。
説明テンプレ:「入浴→10〜20分→保湿→やさしくのせ塗り。赤み/膿/痛みが強ければ一旦中止し受診」
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薬剤師向け転職サービスの比較と特徴まとめ


今日は、特徴をわかりやすく整理しつつ、読んでくださる方が自分の働き方を見つめ直しやすいようにまとめていきましょう。
働く中で、ふと立ち止まる瞬間は誰にでもあります
薬剤師として日々働いていると、忙しさの中で気持ちに余裕が少なくなり、
「最近ちょっと疲れているかも…」と感じる瞬間が出てくることがあります。
- 店舗からの連絡に、少し身構えてしまう
- 休憩中も頭の中が業務のことでいっぱいになっている
- 気づけば仕事中心の生活になっている
こうした感覚は、必ずしも「今の職場が嫌い」というわけではなく、
「これからの働き方を考えてもよいタイミングかもしれない」というサインであることもあります。
無理に変える必要はありませんが、少し気持ちが揺れたときに情報を整理しておくと、
自分に合った選択肢を考えるきっかけになることがあります。
薬剤師向け転職サービスの比較表
ここでは、薬剤師向けの主な転職サービスについて、それぞれの特徴を簡潔に整理しました。
各サービスの特徴(概要)
ここからは、上記のサービスごとに特徴をもう少しだけ詳しく整理していきます。ご自身の希望と照らし合わせる際の参考にしてください。
・薬剤師向けの転職支援サービスとして、調剤薬局やドラッグストアなどの求人を扱っています。
・面談を通じて、これまでの経験や今後の希望を整理しながら話ができる点が特徴です。
・「まずは話を聞いてみたい」「自分の考えを整理したい」という方にとって、利用しやすいスタイルと言えます。
・全国の薬局・病院・ドラッグストアなど、幅広い求人を取り扱っています。
・エリアごとの求人状況を比較しやすく、通勤圏や希望地域に合わせて探したいときに役立ちます。
・「家から通いやすい範囲で、いくつか選択肢を見比べたい」という方に向いているサービスです。
・調剤薬局の求人を多く扱い、条件の調整や個別相談に力を入れているスタイルです。
・勤務時間、休日日数、年収など、具体的な条件について相談しながら進めたい人に利用されています。
・「働き方や条件面にしっかりこだわりたい」方が、検討の材料として使いやすいサービスです。
・調剤系の求人を取り扱う転職支援サービスです。
・職場の雰囲気や体制など、求人票だけではわかりにくい情報を把握している場合があります。
・「長く働けそうな職場かどうか、雰囲気も含めて知りたい」という方が検討しやすいサービスです。
・薬剤師に特化した職業紹介サービスで、調剤薬局・病院・ドラッグストアなど幅広い求人を扱っています。
・公開されていない求人(非公開求人)を扱っていることもあり、選択肢を広げたい場面で役立ちます。
・「いろいろな可能性を見比べてから考えたい」という方に合いやすいサービスです。
・調剤薬局を中心に薬剤師向け求人を取り扱うサービスです。
・研修やフォロー体制など、就業後を見据えたサポートにも取り組んでいる点が特徴です。
・「現場でのスキルや知識も高めながら働きたい」という方が検討しやすいサービスです。
気持ちが揺れるときは、自分を見つめ直すきっかけになります
働き方について「このままでいいのかな」と考える瞬間は、誰にでも訪れます。
それは決して悪いことではなく、自分の今とこれからを整理するための大切なサインになることもあります。
転職サービスの利用は、何かをすぐに決めるためだけではなく、
「今の働き方」と「他の選択肢」を比較しながら考えるための手段として活用することもできます。
情報を知っておくだけでも、
「いざというときに動ける」という安心感につながる場合があります。


「転職するかどうかを決める前に、まずは情報を知っておくだけでも十分ですよ」ってお伝えしたいです。
自分に合う働き方を考える材料が増えるだけでも、少し気持ちがラクになることがありますよね。
無理に何かを変える必要はありませんが、
「自分にはどんな可能性があるのか」を知っておくことは、将来の安心につながることがあります。
気になるサービスがあれば、詳細を確認しながら、ご自身のペースで検討してみてください。



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