

日本側で持ち出し許可を得ても、渡航先への持ち込みが保証されるわけではありません。国・地域ごとに規制成分、数量上限、必要書類、申請期限が異なり、乗継だけでも確認が必要な場合があります。最新情報を渡航先の政府機関・在日大使館等へ確認してください。
前書き|「薬を持って飛行機に乗れるか」は3つのルールで決まる
海外旅行の薬には、少なくとも次の3層があります。
- 日本から持ち出す・日本へ持ち帰るルール
- 渡航先・乗継国へ持ち込むルール
- 航空会社・空港保安検査のルール
厚生労働省は、自己の治療用であっても、国によって英文診断書、数量制限、事前許可が必要な場合があると案内しています。薬は本来の容器のまま、必要量を超えず、本人が持参し、相手国の制度を事前確認することが基本です。【[1]】
出発前に確認する7項目
- 販売名と一般名:国内商品名だけでなく有効成分名
- 規格・剤形:錠剤、散剤、液剤、注射、貼付剤など
- 総量:1日量×旅行日数+合理的な予備
- 規制区分:麻薬、向精神薬、覚醒剤原料等への該当
- 旅程:渡航先、乗継国、入出国空港、滞在期間
- 必要書類:英文診断書、処方箋写し、薬剤リスト、許可証
- 運搬:機内持込、温度、液体・注射針、紛失対策
患者の「薬の名前」は商品名だけのことが多いため、英語資料には一般名(INN)、含量、剤形、1回量、1日回数、使用目的を記載します。規制リストは一般名で示されることが多く、商品名だけでは照合できません。

本来の容器で持参する理由
厚生労働省は、PTP包装の錠剤・カプセルはPTPのまま、瓶入り薬は病院・薬局から交付された瓶のまま持参するよう案内しています。別容器へ移すと内容を確認しにくく、持ち込みが認められない場合があります。一包化や粉薬は事前に薬剤師へ相談するよう示されています。【[1]】
| 持参方法 | 確認しやすさ | 注意 |
|---|---|---|
| PTP+調剤ラベル | 比較的確認しやすい | 一般名・患者名の資料を添える |
| 薬局の交付瓶 | ラベルがあれば確認しやすい | 元のラベルを剥がさない |
| 一包化 | 中身を外見で特定しにくい | 薬剤情報、処方写し、証明書を準備 |
| 散剤 | 違法薬物と疑われる可能性 | 剤形変更の可否を早めに医師へ相談 |
| ピルケース | 成分確認が困難 | 原則は本来の容器。現地で使用分だけ整理 |
麻薬・向精神薬・覚醒剤原料は特に注意
日本の出入国で事前許可が必要な薬
医療用麻薬や覚醒剤原料に該当する医薬品を本人の治療目的で携帯して日本を出入国する場合、事前に地方厚生(支)局長の許可が必要です。麻薬取締部は申請書、医師の診断書、薬の品名が確認できる資料等を案内し、提出期限を出国・入国の2週間前までとしています。【[2]】
許可後は本人が携帯し、日本の税関で許可書等を薬と一緒に提示します。他人へ託す、郵送することはできません。申請が間に合わない場合、連絡しても必ず対応されるとは限らないため、4週間以上前から確認するのが安全です。
向精神薬は剤形と総量で書類が変わる
日本の制度では、注射剤の向精神薬、または非注射剤でも所定の総量を超える場合、医師の証明書等の携帯が必要です。さらに、日本へ持ち込む量が1か月分を超える、または注射剤の場合は、別の輸入確認手続きが必要になる場合があります。具体的な成分と数量は麻薬取締部の最新一覧で確認します。【[3]】
日本で処方される薬でも、相手国では禁止の場合がある
規制区分は国ごとに異なります。睡眠薬、抗不安薬、ADHD治療薬、鎮痛薬、かぜ薬成分などが対象になることがありますが、成分名だけを挙げて世界共通の可否を断定できません。「日本で合法」「処方箋がある」ことと、相手国が持ち込みを認めることは別問題です。


英文診断書・薬剤リストに入れたい情報
必要な書式は国ごとに異なり、医師の署名、発行からの期間、公証・認証を求める場合もあります。相手国の指定を先に確認します。一般的な薬剤リストには次を含めます。
- 患者の氏名、生年月日、パスポート番号(必要な場合)
- 病名または治療目的
- 一般名、商品名、規格、剤形
- 1回量、1日回数、総数量
- 薬が必要な理由と旅行期間
- 処方医の氏名、署名、医療機関、連絡先、発行日
Generic name: ○○○
Brand name: ○○○
Strength / dosage form: ○ mg tablet
Directions: Take one tablet twice daily
Total quantity: 20 tablets
Purpose: Treatment of ○○○
薬局が英語の薬剤情報を作成できる場合でも、相手国が「医師の診断書」を要求していれば代用できません。誰が発行すべき書類かを確認します。
機内持込と預け荷物|原則は重要薬を手元へ
紛失・遅延に備え、継続に必要な薬は機内持込へ
預け荷物は遅延・紛失の可能性があり、貨物室の温度条件も一様ではありません。治療継続に必要な薬は、航空会社・保安検査の条件を満たしたうえで機内持込を基本にします。許可書・診断書・処方箋写しは薬と分離せず、原本と電子コピーを用意します。
液剤、注射器、針、冷却材は航空会社へ事前確認
液体物制限には医薬品の例外がある場合がありますが、必要量、提示方法、保冷剤、注射針の扱いは航空会社・出発空港・乗継空港で異なります。診断書や処方ラベルを求められる場合もあるため、予約番号と具体的な製品を示して事前確認します。
冷所品は「凍らせない」
インスリン等は製品ごとに未使用・使用中の保存条件が異なります。保冷剤へ直接触れさせると凍結することがあるため、断熱材を挟み、温度管理方法を薬剤師と確認します。ホテルの小型冷蔵庫も凍結・高温の両方があり得るため、温度を確認します。
時差があるときの服用時刻
「現地時刻へ一括変更」ではなく、薬の作用時間、服用間隔、食事、睡眠、疾患リスクで決めます。
| 薬のタイプ | 主な確認 |
|---|---|
| インスリン | 基礎・追加、飛行時間、食事、血糖測定、低血糖対策 |
| 抗てんかん薬 | 投与間隔を大きく空けない・重ねない計画 |
| 抗凝固薬 | 1日回数、間隔、出血リスク、飲み忘れ時対応 |
| 経口避妊薬等 | 製品別の許容間隔、嘔吐・下痢時対応 |
| 睡眠薬 | 規制、服用後の睡眠時間、飲酒、転倒 |
薬局では、日本時間と現地時間のタイムラインを紙に書き、どの便のどの時点で服用するかを明確にします。高リスク薬は処方医と計画を共有し、自己調整させません。
出発4週間前からのチェックリスト
4週間以上前
- 全旅程・乗継国・滞在日数を確定
- 全薬の一般名、規格、剤形、総量を一覧化
- 渡航先当局・大使館の公式情報を確認
- 規制薬なら日本側の手続きも確認
- 粉薬・一包化・冷所品の代替可否を処方医へ相談
2週間以上前
- 必要な許可申請を完了
- 英文診断書、処方箋写し、薬剤リストを準備
- 航空会社へ液剤・針・保冷剤を確認
- 時差の服用計画を作る
前日~当日
- 原包装、ラベル、数量、許可書原本を再確認
- 機内持込バッグへ重要薬を入れる
- 予備薬を含む全量が相手国上限内か確認
- 医療保険、現地受診先、緊急連絡先を保存
症例1|ADHD治療薬を持って乗継便で旅行
架空症例
16歳・男子。保護者同伴で10日間の海外旅行。ADHD治療薬を服用。第三国で乗継。保護者は日本語のお薬手帳だけを持参予定。出発まで18日。
薬剤師が確認すること
- 有効成分の一般名と総量
- 日本での規制区分と輸出・再輸入手続き
- 渡航先と乗継国の規制、未成年者の書類要件
- 医師診断書の必要項目と申請期限
- 旅行中の服薬時刻と紛失時対応
ADHD治療薬は成分により規制区分が異なるため、「ADHDの薬」で一括判断できません。麻薬取締部の規制成分リスト、日本の出入国手続き、両国の公式情報を照合します。出発18日前は余裕が少ないため、当日中に処方医と管轄窓口へ連絡します。
症例2|インスリンと注射針を持って長距離旅行
架空症例
62歳・女性。2型糖尿病。基礎インスリン1日1回、食前インスリン、経口薬。14時間の時差、滞在12日。予備ペン、針、血糖測定器、ブドウ糖が必要。
対応
航空会社へ注射薬・針・液体・冷却材の機内持込を確認します。インスリンの製品別保存条件、飛行時間・食事に合わせた投与計画を処方医と作成し、低血糖・高血糖時の対応、現地受診先を準備します。原包装、処方ラベル、英文資料とともに機内へ持ち込み、保冷剤へ直接接触させません。
患者への説明例
「日本で処方されていても、相手国では別の規制があります。商品名ではなく成分名と総量で確認します。インスリンと針は預け荷物にせず、航空会社の案内に沿って手元へ持ちましょう。時差の注射時刻は自己判断で飛ばしたり重ねたりせず、出発前に主治医と表を作ります」
薬歴記載例
O:製品名/規格/1日量/総量確認。出発まで25日。低血糖歴あり。
A:冷所管理、注射針、時差投与、目的国・経由国の規制確認が必要。
P:一般名入り薬剤リスト作成。英文診断書要否を大使館・当局へ患者が確認。航空会社へ機内持込照会。処方医へ時差投与計画を情報提供。原包装・機内携帯・凍結回避を説明。
薬局から医師への情報提供文例
帰国時も手続きを忘れない
日本へ処方薬を持ち込む場合、処方薬は原則として1か月分以内なら輸入確認が不要と案内されていますが、注射剤、規制薬、数量超過では別手続きが必要です。麻薬・覚醒剤原料等は別法令の対象です。【[4]】 現地で薬を追加購入した場合も、成分と数量を確認します。

まとめ|薬・国・旅程をセットで確認する
- 日本の処方箋や許可だけでは渡航先への持ち込みを保証しない
- 商品名ではなく一般名、規格、剤形、総量を一覧化する
- 渡航先だけでなく乗継国、日本への再入国も確認する
- 原包装、英文資料、合理的な必要量で本人が携帯する
- 麻薬・覚醒剤原料等は原則2週間前までの日本側申請を確認する
- 重要薬は機内へ持ち、液体・針・保冷材を航空会社へ事前照会する
- 時差投与は高リスク薬ほど処方医と計画を作る

よくある質問
お薬手帳だけあれば海外へ薬を持ち込めますか?
十分とは限りません。国によって英文診断書、処方箋写し、事前許可、指定書式が必要です。お薬手帳は補助資料として有用ですが、相手国の要件を満たすか確認してください。
薬はスーツケースに入れて預けてもよいですか?
治療継続に必要な薬は、航空会社・保安検査の規則に従い機内持込を基本にします。預け荷物の紛失・遅延や温度変化に備えます。
予備は何日分まで持てますか?
一律ではありません。厚生労働省は渡航中に必要と考えられる分を超えないよう案内しています。相手国の数量上限もあるため、滞在日数と合理的な予備を示して確認します。
一包化薬は持ち込めませんか?
必ず禁止とは限りませんが、中身を特定しにくく、国によって問題になることがあります。原包装へ変更できるか、薬剤リスト・処方箋写し・診断書で補えるかを事前確認します。
英文の薬剤証明は薬局で作れますか?
対応できる薬局もありますが、相手国が医師の診断書や指定書式を求める場合は代用できません。先に必要書類の発行者・署名・様式を確認してください。
睡眠薬は海外へ持っていけますか?
成分、剤形、総量、国により異なります。向精神薬等に該当する場合、日本側と相手国側で書類・許可が必要なことがあります。一般名で確認します。
乗継だけの国も確認が必要ですか?
必要になる場合があります。空港内乗継でも保安検査、液体・注射針、規制薬の扱いが関係するため、乗継国当局と航空会社へ確認してください。
現地で薬がなくなったら日本から郵送できますか?
安易に郵送しないでください。郵送を認めない国があり、規制薬は本人以外の携帯・郵送が禁止されることがあります。まず現地の医療機関、保険会社、当局へ相談します。
申請は出発何日前にすればよいですか?
日本の麻薬・覚醒剤原料の携帯輸出入許可は原則2週間前までと案内されていますが、診断書取得や相手国申請を考えると4週間以上前からの確認が安全です。相手国の期限は別に確認します。
参考文献
- 厚生労働省「海外渡航先への医薬品の携帯による持ち込み・持ち出しの手続きについて」URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/yakubuturanyou/index_00005.html(最終確認日:2026年07月22日)
- 厚生労働省麻薬取締部「麻薬・覚醒剤原料などを携帯して日本を出入国する方へ」URL:https://www.ncd.mhlw.go.jp/shinsei6.html(最終確認日:2026年07月22日)
- Narcotics Control Department「Application Guidance」URL:https://www.ncd.mhlw.go.jp/en/application2.html(最終確認日:2026年07月22日)
- 厚生労働省「Information for those who are bringing medicines for personal use into Japan」URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/kojinyunyu/topics/tp010401-1_00001.html(最終確認日:2026年07月22日)
- Japan Customs「For Overseas Travelers (Quasi-drugs/Cosmetics, etc.)」URL:https://www.customs.go.jp/english/c-answer_e/sonota/9005_e.htm(最終確認日:2026年07月22日)


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