コロナやインフルで筋肉痛・神経痛が出る原因と治療法を薬剤師が解説

コロナやインフルで筋肉痛・神経痛が起きる理由を、薬剤師がやさしく解説

新型コロナ（COVID-19）やインフルエンザに罹患すると、発熱・倦怠感だけでなく筋肉痛（myalgia）や神経痛（neuropathic pain）がよく起こります。これは、ウイルス感染に対する免疫反応（サイトカイン）と、筋・神経・血管への二次的ダメージが重なって生じるためです。

本記事では、最新ガイドラインや一次情報を参照しながら、仕組み・見分け方・セルフケア・受診の目安まで、薬局現場でそのまま使える形でまとめます。

なぜ痛くなる？5つの主要メカニズム

1. 全身炎症（サイトカイン）：IL-6、TNF-α、IL-1などが上がると、プロスタグランジンE₂が誘導され、痛みの感受性が上昇。侵害受容器（痛みセンサー）が過敏になります。熱が引いたあともサイトカインがしばらく高めに推移すると、「解熱したのに体が痛い」を説明できます。
2. 筋組織の直接／間接障害：一部のウイルスはウイルス性筋炎（特に小児ではインフル関連の良性急性小児筋炎）を起こし、CK上昇やふくらはぎ痛をみます。重症例は稀ですが、脱水があると腎障害へ波及する懸念があるため水分は重要。
3. 神経系の関与：末梢神経の炎症・微小循環障害・神経過敏化で、ビリビリ・しびれ・刺す痛みなどの神経痛様症状が出現しうる（COVID-19後で報告比較的多め）。
4. 血流／酸素・代謝の低下：発熱・低酸素・長期臥床により筋血流やミトコンドリア機能が落ち、こわばり・だるさ・易疲労。「寝込むほど痛む」の背景。
5. 受容体の関与（ACE2）：SARS-CoV-2が結合するACE2は筋にも発現が示され、理論上の直接影響が議論されています。ACE2/Ang1-7系は筋量・筋機能の調節にも関与します。

インフルとコロナ、痛みの出方の違い

項目	インフルエンザ	COVID-19
急性期の典型	高熱と同時に筋肉痛・関節痛が強い	発熱に加えて筋痛、背部痛。神経痛様の訴えも
小児の特徴	良性急性小児筋炎（BACM）：ふくらはぎ痛・歩行困難・CK上昇	小児でも筋痛はあるがBACMはインフルほど典型的でない
長期化	通常は回復とともに軽快	ロングCOVIDとして筋骨格痛や神経痛が遷延することあり
想定機序	炎症反応優位、まれに筋炎	炎症＋微小血管障害／神経過敏化＋ACE2関与の仮説

薬理で理解する「痛みと解熱鎮痛薬」

• アセトアミノフェン：中枢でPGE₂合成抑制により解熱・鎮痛。胃腸障害が少なく、かぜ・インフルに第一選択となる場面が多い。
• NSAIDs（イブプロフェン等）：COX阻害で末梢炎症性疼痛に有効。腎機能・胃腸・心血管リスクに配慮し、最低用量・最短期間。
• 神経痛の薬：長引く灼熱痛・しびれには、医師の管理下でα₂δリガンドやSNRI等が選択されることも。
• 外用：温感パッチ・鎮痛消炎剤外用は筋膜のこわばりに。皮膚刺激に注意。

筋肉痛と神経痛のセルフケア早見表

場面	おすすめ	ポイント
急性期	休養・水分・解熱鎮痛	発熱ピークは無理しない。脱水は痛み増悪因子。
回復初期	短時間の散歩・関節可動域運動	10分×2回など低負荷分割。痛み強い日は負荷を下げる。
持続痛	温罨法・睡眠衛生・栄養	就寝90分前の入浴・たんぱく質/ビタミンD。
神経痛様	体位工夫・坐骨神経周りのストレッチ	痺れ増悪なら中止し医師へ。

科学的根拠の要点（やさしく）

• インフル：公的資料に筋肉痛・関節痛が代表的症状として明記。
• COVID-19：回復後も痛みが持続する「罹患後症状」が公式に整理され、筋肉痛・関節痛を含む。
• 研究レビュー：COVID-19後の筋骨格痛・神経痛の報告は世界的に多数。神経過敏化や微小血管障害、脱調節が示唆。
• 小児：インフル関連BACMは男児・学童に多く、数日で自然軽快することが多い（ただし評価は必要）。
• ACE2：筋にも発現し、SARS-CoV-2の影響仮説を支持する基礎研究がある。

OTCの在庫・売場づくり（薬局運営のヒント）

• 解熱鎮痛（アセトアミノフェン/イブプロフェン）を入口近く・上段へ。
• 温罨法グッズ、ネック・腰ホットパックは季節エンドに。
• 経口補水・スープ類は発熱・痛みコーナーで併売、クロスMD。
• 神経痛対策（ビタミンB群外用/内用）は「しびれ・ピリピリ訴え」POPで差別化。

患者さん説明のトークスクリプト（薬局用）

薬剤師：「今の痛みは、体がウイルスと戦っているサインで、炎症で“痛みを感じやすい状態”になっています。水分・休養・解熱鎮痛で数日で軽くなることが多いです。
ただし、足に力が入らない、尿が濃い、しびれが悪化する、2週間以上続く、といった場合は受診をお願いします。」

回復期のリハ・栄養のポイント

回復し始めたら、少量・高頻度の活動再開（ペース配分）と、十分なたんぱく質・エネルギー・ビタミンDなどの栄養補給を意識。無理のない有酸素＋レジスタンスのハイブリッドが筋力と血流の回復に役立ちます。痛みが強い日は運動をスキップするより負荷を下げるほうが慢性化の抑止に有効なことがあります。
目安：週合計150分の軽〜中等度運動を段階的に。

コロナ・インフルで起こる筋肉痛・神経痛の治療法まとめ

① 一般的なセルフケア・市販薬による対処

🔹 解熱鎮痛薬（基本）

分類	代表薬	特徴・注意点
アセトアミノフェン	カロナール、タイレノールAなど	胃への負担が少なく、発熱・全身痛に第一選択。 小児・妊婦にも比較的安全。 用量超過で肝障害に注意。
NSAIDs	イブプロフェン（イブA錠）、ロキソプロフェン（ロキソニン）	炎症性の痛みに有効。 胃潰瘍・腎障害・心疾患のある人は注意。

痛みが強いときだけ頓用でOK。長期連用は避けましょう。

🔹 温熱療法・入浴

• 急性期を過ぎたら温めることで筋血流を改善。
• 首・腰・ふくらはぎなどに15〜20分の温タオルや温感シップ。
• 入浴は37〜39℃のぬるめで短時間。発熱ピーク時は控えめに。

🔹 水分・栄養補給

• 発熱・筋炎時は脱水が痛みを悪化させます。
• 経口補水液・スープ・ゼリーなどで1.5〜2L/日を目安に。
• たんぱく質・ビタミンD・ビタミンB群を意識して摂取。

🔹 軽い運動・ストレッチ

安静しすぎると血流が落ちて痛みが長引くことも。
解熱後に軽く動くことで回復が早まります。

• 5〜10分の散歩、肩回し、寝ながらストレッチなど。
• 無理は禁物。痛みが出たら即中止。

🔹 睡眠と休養

睡眠不足は痛みの感受性を上げるため、就寝前90分前の入浴などでリラックス。
スマホ・カフェインは控えめに。

② 医療機関での治療（中等症～長引く場合）

🏥 主な検査

• CK（クレアチンキナーゼ）測定：筋炎や腎障害の確認
• 神経学的評価：しびれ・反射・筋力をチェック

💊 主な処方薬

症状タイプ	薬剤例	特徴・作用
炎症性筋肉痛	NSAIDs（ロキソプロフェン、ナプロキセン）	炎症抑制・痛み軽減。胃腸・腎負担に注意。
神経痛（長引く痛み・しびれ）	プレガバリン、ミロガバリン、デュロキセチン	神経過敏を抑え、ビリビリ・灼熱痛を軽減。
筋緊張・こわばり	チザニジン、エペリゾン	筋弛緩薬。眠気注意。
神経修復	メコバラミン（B12）	神経の再生促進、しびれ改善。

♨ 理学療法・温熱リハ

• ホットパックや低周波治療で筋血流を促進。
• コロナ後では「段階的運動（ペーシング）」が推奨。

🧠 ロングCOVIDの痛みへの対応

WHOも報告している「罹患後症状（Post-COVID Pain）」では、
末梢神経炎症・自律神経異常・睡眠障害などが関係。
内科・ペインクリニック・リハ・心理療法の連携が有効です。

③ 受診の目安（レッドフラッグ）

症状	考えられる原因	対応
歩けないほどの筋肉痛	ウイルス性筋炎・横紋筋融解症	CK検査・腎機能確認が必要。早期受診。
片側の痛み＋しびれ	神経炎・坐骨神経痛・帯状疱疹	整形外科・皮膚科へ。
尿が濃い・出ない	脱水・腎障害	すぐに医療機関へ。
2週間以上続く痛み	長期炎症・ロングCOVID	内科またはペインクリニックで精査。

④ 併用で役立つ市販薬・OTC例

目的	OTC例	備考
解熱・全身痛	タイレノールA、バファリンルナJ	妊婦・小児でも使用可（用量確認）。
炎症・関節痛	イブA錠、ロキソニンS	胃への負担注意。短期使用。
神経痛・しびれ	アリナミンEXプラスα、ナボリンS	ビタミンB群で神経修復サポート。
温感・こわばり緩和	温感パッチ、フェルビナクローション	皮膚刺激に注意。
回復サポート	inゼリー、アミノ酸ドリンク	食欲が落ちたときの栄養補助に。

⑤ まとめ

• 原因は「炎症・神経過敏・血流低下」が主。
• 基本は「解熱鎮痛＋休養＋温め＋栄養＋軽運動」。
• 長引く痛みはロングCOVIDの可能性も。早めに相談を。

薬局での具体的な声かけ・症例ミニケース

ケースA：インフル後の全身筋肉痛（成人）

38℃台の発熱と同時に背中・下肢が痛い。押すと痛みが強い。→「炎症性の筋肉痛」が主体。
対応：アセトアミノフェン頓用＋水分＋温罨法。入浴は短時間。就寝時に下肢ストレッチを案内。

ケースB：COVID-19後、ビリっと走る坐骨神経痛様痛（中年）

回復後2週間で腰〜大腿後面に電撃痛。触ると過敏。→神経痛成分が強い。「長引く場合は整形外科・ペイン受診も」と案内。
対応：鎮痛薬に加え、就寝前の体位調整、長座・梨状筋ストレッチを軽度で。

ケースC：小児、ふくらはぎの強い痛みで歩きにくい（インフル流行期）

いわゆる良性急性小児筋炎（BACM）像。多くは数日で改善するが、CK高値・脱水・腎障害のリスク評価が必要。保護者へ水分・安静・受診目安を丁寧に説明。

プロ向けTips（薬局・医療者）

• 神経痛様の持続には神経障害性疼痛スクリーニング（DN4など）を活用。
• 痛みが長引く患者では、睡眠障害・不安が増悪因子。睡眠衛生指導とともに、過度の安静の回避を。
• インフル関連BACMは男児・学童期に多く、ふくらはぎ対称痛＋歩行異常＋CK上昇が典型。
• ロングCOVID評価では、活動後悪化（PEM）への配慮。段階的運動は個別化。

今日から使えるチェックリスト

• □ 発熱・咳・咽頭痛など急性症状の有無
• □ 痛みの性状（重だるい/押すと痛い＝筋、ビリビリ/しびれ＝神経）
• □ 持続期間（発症からの日数、増悪の有無）
• □ 脱水サイン（口渇、尿量、尿の色）
• □ レッドフラッグ（力が入らない、濃い尿、麻痺、呼吸困難）
• □ 既往歴・併用薬（腎・胃・心、抗凝固療法、妊娠授乳）
• □ 生活（睡眠、活動量、食事たんぱく質）

まとめ：痛みは「体がウイルスと戦っているサイン」

• コロナやインフルの痛みは、炎症・筋／神経・血流代謝の多要因で起こる。
• インフルは急性期の筋肉痛が典型、COVID-19は神経痛様や長期化が比較的目立つ。
• 安静＋鎮痛＋やさしい運動＋温罨法＋睡眠でセルフケア。レッドフラッグはすぐ受診。

よくある質問

Q. インフルの筋肉痛は何日で治りますか？

多くは発熱の解熱に伴い数日〜1週間で軽快します。長引く強い痛みや足が動かしにくい場合は医療機関へ。

Q. コロナ後の神経痛は本当にありますか？

あります。COVID-19後には筋骨格痛や神経痛（しびれ・灼熱感など）が一定割合で報告されています。数週間以上続く場合は専門医に相談を。

Q. どの鎮痛薬を選べばいい？

発熱・全身痛にはアセトアミノフェン、炎症性の痛みにはNSAIDsが候補です。腎・胃潰瘍・心不全・抗凝固療法中などは必ず薬剤師・医師に相談してください。

Q. ワクチンで痛みは防げますか？

ワクチンは感染・重症化リスク低減に役立ち、結果的に痛みの発生・長期化のリスクを下げることが期待できます。

Q. 仕事はいつ再開してよい？

解熱後24時間かつ全身状態が改善し、無理なく日常生活動作ができるまで待ちましょう。段階的に時間・強度を増やすのがコツです。

Q. 小児のふくらはぎ痛、どこまで様子見？

典型的BACMなら数日で改善傾向。発熱持続、歩けない、尿が濃い、顔色不良などがあれば早めに受診を。

Q. 神経痛と筋肉痛、温める？冷やす？

急性の強い炎症は冷却が楽なこともありますが、多くは温めるほうがこわばりが軽減します。心地よい方を短時間で。

Q. サプリは有効？

ビタミンD・たんぱく質は不足しやすく、食事で賄えない場合に限って補助的に検討を。薬との相互作用に注意。

参考文献（一次情報・ガイドライン・査読論文）

1. 厚生労働省.
   令和6年度インフルエンザQ&A
   （最終確認日：2025-10-20）
2. 厚生労働省.
   新型コロナウイルス感染症の罹患後症状（いわゆる後遺症）に関するQ&A
   （最終確認日：2025-10-20）
3. WHO.
   Post COVID-19 condition: living guideline
   （最終確認日：2025-10-20）
4. CDC.
   Signs and Symptoms of Flu
   （最終確認日：2025-10-20）
5. Lam CM, et al.
   Musculoskeletal and Neuropathic Pain in COVID-19. Diagnostics. 2024;14(3):332. doi:10.3390/diagnostics14030332
   （最終確認日：2025-10-20）
6. Yamamoto K, et al.
   ACE2, angiotensin 1–7 and skeletal muscle: review in the era of COVID-19. Clin Sci (Lond). 2020;134(22):3047–3062. doi:10.1042/CS20200486
   （最終確認日：2025-10-20）
7. Majava E, et al.
   Benign acute childhood myositis: a scoping review of clinical presentation and viral etiology. Eur J Pediatr. 2024.
   （最終確認日：2025-10-20）
8. Arrab R, et al.
   Benign Acute Myositis in Children: A Case Series. Cureus. 2024;16(8):e63354.
   （最終確認日：2025-10-20）
9. Fernández-de-Las-Peñas C, et al.
   Prevalence of Musculoskeletal Post-COVID Pain in Hospitalized COVID-19 Survivors: A Systematic Review. J Clin Med. 2022;11(15):4404.
   （最終確認日：2025-10-20）
10. CDC.
    Clinical Signs and Symptoms of Influenza for Healthcare Professionals
    （最終確認日：2025-10-20）

---

 

---