

前書き:もやもや病は「脳の血の道」がじわじわ細くなる病気
もやもや病(正式名:ウィリス動脈輪閉塞症)は、脳の太い動脈(内頚動脈の終末部など)が進行性に狭くなり、脳が血流不足になりやすくなる病気です。
血流不足を補うために、脳の奥(脳底部)で細い血管が増えて“煙(もやもや)”のように見えるのが特徴で、ここから「もやもや病」と呼ばれます。
大事なのは、もやもや病は「脳梗塞(虚血)」にも「脳出血」にもつながり得る点です。
そして治療は、症状(虚血型か出血型か)・年齢(小児か成人か)・画像所見(血流評価や出血リスク所見)で方針が大きく変わります。

本文:もやもや病を「わかる」ための全体像
1. もやもや病の定義:病(Disease)と症候群(Syndrome)の違い
「もやもや病」は原因がはっきりしない“病(Disease)”を指すことが多い一方で、
甲状腺疾患、自己免疫疾患、動脈硬化、放射線照射後など、別の背景に伴って同様の血管変化が起こる場合は「もやもや症候群(moyamoya syndrome)」と区別されます(成人のAHA声明でも定義整理がされています)。
2. 病態のコア:内頚動脈終末部が狭くなる → 代償血管が増える
もやもや病では、内頚動脈の終末部〜前・中大脳動脈の起始部あたりが狭窄〜閉塞します。
すると脳は血流不足になりやすいので、代わりに細い血管(側副血行路)が増えて血流を補おうとします。
この“代償”が一見よさそうに見えるのですが、細い血管はもろく、出血を起こすリスクにもなるのが重要ポイントです。
3. なぜ起こる?:RNF213など遺伝要因+環境要因の「多因子」
日本の公的資料(指定難病の概要)では、RNF213遺伝子多型(p.R4810K)が感受性遺伝子として挙げられています。
ただし保因者の多くは発症しないため、炎症などの二次的要因も関わる多因子疾患と考えられています。
4. どんな症状?:小児は虚血が多く、成人は虚血+出血の両方に注意
| カテゴリ | 起こりやすい症状 | 背景イメージ |
|---|---|---|
| 虚血(血流不足) | 一過性の片麻痺、言語障害、しびれ、視野障害、TIA(短時間で戻る) | “ガス欠”で脳が一時停止 |
| 出血 | 突然の頭痛、意識障害、麻痺(脳出血・くも膜下出血) | “もろい側副血管”が破れる |
| その他 | 頭痛、てんかん、認知機能への影響(長期虚血) | 慢性的な血流不足の影響 |
指定難病の一般向け解説でも、血流不足による一時的麻痺や言語障害、そして出血の可能性が説明されています。


5. 検査・診断:MRAだけで終わらず「血流評価」が超重要
診断の基本は、MRI/MRAや脳血管撮影(カテーテル)で、狭窄・閉塞と異常血管網(もやもや血管)を確認します。
さらに、SPECTやPET、CT灌流などで脳血流・脳循環予備能を評価し、治療(特に手術)の適応を検討します。
国際的にも、日本の診療ガイドライン(2021)やAHA声明(2023)で、診断・治療判断に画像評価が重要と整理されています。
6. 進行度(Suzuki stage):血管の“詰まり具合”と側副血行路の変化
もやもや病は進行性のため、血管所見で段階(ステージ)評価がされます。
ざっくり言うと、内頚動脈終末部の狭窄が進む → もやもや血管が増える → さらに進むと主要血管が消えて外側からの側副血行に依存という流れです。
ステージは治療適応や予後評価の文脈で使われます(疫学研究でもSuzuki stageが扱われています)。
治療:もやもや病は「薬だけで治す」より「脳を守る」戦略
7. 治療の柱は2本:①内科的管理(再発予防)②外科的血行再建(バイパス)
治療は大きく分けて以下です。
- 内科的管理:脱水や過換気の回避、血圧・合併症管理、抗血小板薬など(病型で慎重に)
- 外科的治療(血行再建):脳への血流を増やすために“新しい血の道”を作る
日本のもやもや病管理ガイドライン(2021)やAHA声明(2023)は、病型別に内科・外科治療を整理しています。

8. 内科的治療(薬):何を、どんな目的で使う?
8-1. 抗血小板薬(アスピリンなど):主に虚血型の再発予防として検討
もやもや病の虚血型(TIAや脳梗塞を起こしやすいタイプ)では、抗血小板薬(例:アスピリン)が再発予防として検討されます。
ただし、もやもや病は出血リスクも絡むため、「誰にでも漫然と」ではなく、病型・既往・画像所見を踏まえて慎重にとなります(ここが一般的な動脈硬化性脳梗塞の二次予防と違う点)。
添付文書面では、アスピリンは消化管出血などの出血性副作用、喘息既往などの禁忌・注意点、併用薬(抗凝固薬など)で出血が増える点が重要です(例:バイアスピリン添付文書)。
8-2. シロスタゾール:抗血小板+血管拡張(ただし個別判断)
シロスタゾールはPDE3阻害による抗血小板作用に加え、血管拡張作用を持ちます。
脳梗塞の二次予防などで使われる薬ですが、もやもや病での位置づけは「個別判断」です。
頻脈・動悸、心不全に関する注意(禁忌/警告)など、添付文書の安全性ポイントは押さえる必要があります(例:シロスタゾールOD錠添付文書)。
8-3. クロピドグレル:併用で出血が増えるため“組み合わせ”に注意
クロピドグレルは抗血小板薬として広く使われますが、出血リスクが上がるため併用療法は慎重です。
(例として)クロピドグレル+アスピリン配合剤の添付文書でも、出血関連の注意喚起が整理されています。
8-4. 抗凝固薬(ワルファリン等):もやもや病では“適応が別”になりやすい
もやもや病そのものの機序は“血栓で詰まる”タイプとは異なるため、抗凝固薬が標準になる場面は多くありません。
一方で心房細動など別の適応があれば話は別で、その場合は出血リスクとベネフィットを慎重に天秤にかけます。
ワルファリンは出血リスク、相互作用(食事/薬)、INRモニタリングが重要です(例:添付文書検索でのワーファリン製剤)。
8-5. 急性期の点滴治療(脳梗塞としての治療):一般の脳卒中治療に準じつつ“慎重に”
急性脳梗塞として治療する場面(血栓溶解療法、抗血栓療法など)は、個々の症例で判断が必要です。
もやもや病は血管病変が特殊で出血リスクの議論もあるため、AHA声明などでもエビデンスの限界と慎重な判断の必要性が示されています。
日本では急性期薬剤としてエダラボン(ラジカル消去薬)が脳梗塞で用いられることがあります。投与開始時期(発症後24時間以内)などは添付文書に記載があります(例:エダラボン点滴静注液)。


9. 外科的治療(血行再建):もやもや病治療の“主役”になりやすい
9-1. 目的:脳への血流を増やし、虚血発作や再出血を減らす
血行再建(バイパス)手術は、虚血型での発作を減らす目的で行われることが多い一方、
出血型でも再出血予防として検討されます。
成人出血発症例に対して、頭蓋外内バイパスが再出血を減らし得ることを示した研究としてJapan Adult Moyamoya(JAM)Trialが有名です。
9-2. 手術の種類:直接・間接・複合
| 術式 | 代表例 | 特徴 |
|---|---|---|
| 直接バイパス | STA-MCAバイパス | 効果が比較的早い(術直後から血流増加を期待)/技術が必要 |
| 間接バイパス | EMS/EDASなど | 時間をかけて新生血管が育つ/小児で選ばれやすい |
| 複合 | 直接+間接 | 両者の利点を狙う |
日本のガイドライン(2021)でも、虚血型に対するSTA-MCAバイパスが代表的術式として整理されています。
9-3. 周術期の注意:過灌流(hyperperfusion)と虚血の両方に警戒
バイパス後に血流が急に増えすぎて頭痛・痙攣・神経症状が出る過灌流や、
逆に周術期の血圧低下・脱水などで虚血が悪化することがあります。
したがって、術前から術後まで、血圧・水分・呼吸(過換気回避)などの管理が重要です。
症例・実践例:患者さんに“伝わる”説明と、生活上の工夫

実践例1:小児の一過性麻痺(TIA)をくり返すケース
状況:小学生。運動のあとや泣いたあとに、手が動かしにくい・言葉が出にくい発作が数分〜数十分。検査で虚血型のもやもや病。
ポイント:
- 運動・泣く・過換気(息が荒くなる)で脳血管が収縮し、血流不足が悪化しやすい
- 脱水も血流を悪くする → 水分摂取が大切
- 手術(間接/複合)で発作が減ることがある
患者さん家族への説明例:
- 「脳の血の道が細くて、体調や呼吸で“ガス欠”になりやすい状態です」
- 「息が上がる場面(過換気)・脱水を避ける」
- 「治療は“薬だけ”より、必要に応じて血の道を増やす手術を考えます」
実践例2:成人の出血発症(脳出血/くも膜下出血)後の再発予防
状況:40代。脳内出血で入院し、検査で出血型もやもや病。再出血予防が課題。
ポイント:
- 出血型では、もろい側副血管が破れやすい
- 再出血は予後に影響するため、外科的治療が検討されることがある
- JAM Trialは、成人出血型でバイパスが再出血を減らし得ることを示した重要研究
説明例:
- 「血液をサラサラにする薬が“常に正解”とは限りません」
- 「あなたのタイプは“出血リスク”側もあるので、画像所見と合わせて再発予防を考えます」
- 「手術で再出血を減らせる可能性があり、研究結果もあります」
実践例3:薬局での服薬指導(抗血小板薬)— “副作用”を怖がらせずに伝える
アスピリンなどの抗血小板薬は、再発予防のために処方される一方、出血(鼻血、歯ぐき出血、黒色便など)に注意が必要です(添付文書ベース)。
伝え方のコツ:
- 「この薬は“血栓をできにくくして脳を守る”目的です」
- 「ただし出血が増えやすい面があるので、黒い便・吐血・止まらない出血があれば受診してください」
- 「市販の痛み止め(NSAIDs)を自己判断で追加すると出血が増えることがあるので相談してください」
生活上の注意(全病型共通で大事になりやすいこと)
- 脱水を避ける(発熱・下痢・夏場・運動時は特に)
- 過換気を避ける(強い泣き、パニック、過度な息こらえ)
- 急な血圧低下を避ける(自己判断で降圧薬を調整しない)
- 症状が出たら「様子見」をしすぎない(TIAでも受診)
※ただし生活指導は個別性が大きいので、主治医の指示が最優先です。
まとめ:もやもや病は「虚血」と「出血」両方を意識して守る病気
- もやもや病は、脳の主要動脈が狭くなり、代償として“もやもや血管”が増える進行性疾患。
- 虚血(TIA/脳梗塞)と出血(脳出血/くも膜下出血)の両面があり、病型で治療方針が変わる。
- 薬(抗血小板薬など)は「タイプに合わせて」慎重に。添付文書の出血リスクや相互作用の確認が重要。
- 手術(血行再建)は重要な選択肢。成人出血型ではJAM Trialが再出血抑制の根拠として知られる。
よくある質問(FAQ)
Q. もやもや病は遺伝しますか?家族も検査した方がいい?
家族性の発症が一定割合あることが公的資料でも示されています。
ただし「遺伝=必ず発症」ではなく、RNF213多型があっても発症しない人が多いとされ、多因子疾患と考えられています。
家族の検査は、症状の有無や家族歴の濃さで主治医と相談して決めるのが現実的です。
Q. 薬を飲めば治りますか?
薬は“治す(血管狭窄を元に戻す)”というより、再発予防・合併症管理の意味合いが中心です。
血流不足が強い場合は、血行再建手術が検討されます。
Q. 抗血小板薬(アスピリンなど)はずっと飲むの?
病型(虚血型/出血型)、既往、画像所見、手術の有無などで方針が変わります。
出血リスクも絡むため、自己判断で中止・増量しないで、必ず主治医と相談してください。
添付文書上も、出血兆候があれば受診が必要です。
Q. 妊娠・出産はできますか?
可能なケースは多いですが、妊娠中は循環動態が変わり、分娩時にも血圧変動などが起こり得ます。
個別リスク評価が重要で、産科と脳神経外科/神経内科の連携が基本になります(国際声明でも管理の重要性が触れられます)。
Q. 頭痛だけでも“もやもや病”ですか?
頭痛は起こり得ますが、頭痛だけで診断はできません。
一過性の麻痺・言語障害、視野障害などの神経症状があれば早めに受診してください。
突然の激しい頭痛や意識障害は救急受診が必要です(出血の可能性)。
Q. 手術をすれば完治しますか?
手術は脳血流を改善し、発作や再出血リスクを下げる目的で行われますが、病気の性質上、長期フォローが必要です。
周術期には虚血・過灌流などのリスクもあるため、専門施設での評価と管理が重要です。
参考文献(一次情報中心・最終確認日つき)
- Fujimura M, et al. 2021 Japanese Guidelines for the Management of Moyamoya Disease
(Neurol Med Chir, 2022)最終確認日:2026-02-13 - 日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕(改訂項目PDF)
最終確認日:2026-02-13 - 厚生労働省(指定難病). 22 もやもや病(概要・診断基準等)PDF
最終確認日:2026-02-13 - Nanbyou(難病情報センター). もやもや病(指定難病22)— 一般向け解説
最終確認日:2026-02-13 - Gonzalez NR, et al. Adult Moyamoya Disease and Syndrome: A Scientific Statement From the AHA/ASA
(Stroke, 2023)最終確認日:2026-02-13 - Miyamoto S, et al. Effects of extracranial-intracranial bypass for patients with hemorrhagic moyamoya disease: results of the Japan Adult Moyamoya Trial
(Stroke, 2014)最終確認日:2026-02-13 - PMDA. バイアスピリン錠100mg(アスピリン)— 添付文書
最終確認日:2026-02-13 - PMDA. シロスタゾールOD錠(例:VTRS)— 添付文書
最終確認日:2026-02-13 - PMDA. コンプラビン配合錠(クロピドグレル+アスピリン)— 添付文書
最終確認日:2026-02-13
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