日本の夏は湿度が高く、気温も上昇するため、体に大きな負担がかかります。
特に冷房による室内外の温度差や、食欲低下、水分不足によって、自律神経が乱れやすくなり、いわゆる「夏バテ」が起こりやすくなります。
夏バテは病気ではありませんが、放っておくと免疫力の低下や集中力の低下につながり、日常生活や仕事にも大きく影響します。
この記事では、薬剤師の視点から夏バテの原因・症状・対策・おすすめの食材やサプリメントまでを、図や表を交えてわかりやすく解説します。
「最近なんだか調子が悪いな…」と感じている方は、ぜひ参考にしてみてください。
夏バテとは？
夏バテとは、高温多湿な環境によって自律神経のバランスが崩れ、体の調子が悪くなる状態のことを指します。
正式な医学用語ではありませんが、毎年多くの人が経験する不調の一種です。
特に以下のような状況で、夏バテは起こりやすくなります。
- 室内外の気温差が激しい
- 冷房に長時間あたり体が冷える
- 水分や栄養の補給が不十分
- 睡眠の質が低下している
このような環境下で、自律神経の乱れ・消化機能の低下・疲労の蓄積が重なると、夏バテ症状が現れます。
代表的な症状としては、倦怠感・食欲不振・頭痛・下痢や便秘・イライラなどがあり、いずれも生活の質を大きく下げる原因となります。
夏バテの原因は？
夏バテは単なる「暑さ」だけでなく、複数の身体的・環境的要因が組み合わさって起こる複合的な不調です。主な原因を4つに分けて説明します。
① 自律神経の乱れ
最大の原因がこの自律神経の不調です。
冷房の効いた室内と猛暑の屋外を行き来することで、体温調整を担う自律神経が疲弊してしまいます。
この結果、だるさ・頭痛・食欲不振・不眠など、さまざまな症状を引き起こします。
② 水分・ミネラルの不足
夏場は大量の汗をかくため、水分だけでなく電解質（ナトリウムやカリウムなど）も失われます。これが体の脱水や筋肉のけいれん、めまい、倦怠感の原因になります。
③ 消化機能の低下
冷たい飲み物やさっぱりしたものばかり摂っていると、胃腸が冷えて働きが悪くなります。
これにより、食欲不振や下痢、胃もたれなどが起こりやすくなります。
④ 栄養バランスの乱れ
食欲が低下すると、ビタミンやミネラル、たんぱく質が不足しやすくなります。
これがさらに疲労感や免疫力の低下を招き、悪循環に陥ってしまいます。
夏バテの症状とは？
夏バテでは、身体的・精神的にさまざまな不調が現れます。以下に代表的な症状をリストアップします。
- 全身のだるさ：疲れが取れず、常に体が重い感覚
- 食欲不振：胃腸の機能低下により、食べ物を受けつけない
- 頭痛やめまい：自律神経の乱れや脱水による影響
- 下痢・便秘：冷たい飲食物や自律神経の不安定が原因
- 不眠・眠りが浅い：暑さや神経の緊張で睡眠の質が低下
- イライラ・集中力低下：脳のパフォーマンス低下や疲労の蓄積
これらの症状は、1つだけでなく複数同時に現れることが多く、生活の質（QOL）を著しく低下させます。
特に高齢者や子どもは、夏バテのサインに気づきにくいため、周囲の観察や早めのケアが重要です。
夏バテを防ぐには？効果的な予防・対策法
夏バテを防ぐためには、日常生活のちょっとした工夫と習慣の見直しが重要です。
以下のポイントを意識して生活することで、症状の予防・改善が期待できます。
① バランスの良い食事を心がける
1日3食きちんと食べることが基本です。特に以下の栄養素を意識しましょう：
- たんぱく質：肉・魚・大豆製品で体力を維持
- ビタミンB群：疲労回復を助ける（豚肉・玄米など）
- ミネラル：汗で失われやすいため海藻・ナッツ・味噌汁などから補給
② 水分・電解質のこまめな補給
喉が渇く前に水分をとることが重要です。理想は1日1.5～2リットルの水分を少しずつ。
汗をたくさんかいたときは、スポーツドリンクや経口補水液でナトリウム・カリウムも補いましょう。
③ 冷房の使い方に注意
室温は26〜28℃が目安。
外気温との温度差は5℃以内にすると、自律神経の負担を軽減できます。
冷房が効きすぎる環境では、カーディガンやひざ掛けで体を冷やさない工夫をしましょう。
④ 質の良い睡眠をとる
寝苦しい夜は扇風機や冷感寝具で快適に過ごせる環境を作りましょう。
寝る1時間前に湯船にゆっくり浸かることで副交感神経が優位になり、入眠しやすくなります。
⑤ 適度な運動と休養
冷房の中で座りっぱなしの生活では血流が悪化しがち。
朝や夕方の涼しい時間に散歩するだけでも代謝がアップし、体温調節機能が整いやすくなります。
夏バテにおすすめの食材は？
夏バテを防ぐには、体力を回復させ、内臓の働きを助ける食材を意識的に取り入れることが大切です。
以下に特におすすめの食材とその効果を表でまとめました。
| 食材 | 含まれる主な栄養素 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 豚肉 | ビタミンB1 | 糖質の代謝を助けて疲労回復 |
| 納豆・豆腐 | たんぱく質・ビタミンB2・マグネシウム | 体力の維持とミネラル補給 |
| トマト | リコピン・カリウム | 抗酸化作用と体の熱を冷ます作用 |
| 梅干し | クエン酸・塩分 | 唾液・胃液の分泌促進で食欲増進、疲労物質の分解 |
| みそ汁 | ナトリウム・ミネラル | 水分と塩分を同時に補給できる |
| オクラ・モロヘイヤ | 食物繊維・ビタミンC・ムチン | 胃腸を保護し、免疫力を保つ |
これらの食材を組み合わせて、「しっかり食べて、でも消化にやさしい」食事を心がけると、夏バテの予防・改善に効果的です。
薬剤師おすすめ！夏バテ対策に使える市販アイテム
ここでは、夏バテ対策に役立つ市販アイテムをいくつかご紹介します。
ドラッグストアでも購入できますが、手軽にネットで購入できるものもありますので、ぜひ活用してください♪
① ツムラ漢方 補中益気湯エキス顆粒
疲労倦怠・食欲不振・夏バテ気味の人に人気の漢方薬。
胃腸の弱りを感じたら、体の中から整えましょう。
② アリナミンEXプラスα（ビタミンB群）
ビタミンB1（フルスルチアミン）配合で、代謝と神経の働きをサポート。
だるさ・目の疲れ・肩こりなどにもおすすめです。
③ オルニチン配合サプリ（しじみエキス）
肝機能をサポートし、疲労の回復を助けてくれる成分。
お酒を飲む人や寝起きが悪い人にも◎
④ 経口補水液OS-1
軽度の脱水対策として信頼度の高い製品。
水分＋電解質を効率的に補えるので、夏場の常備アイテムにおすすめ。
調剤薬局で夏バテに処方される医薬品とは？
「夏バテ」は病名ではありませんが、その症状に応じてさまざまな医薬品が処方されます。
以下は、調剤現場で夏季によく見かける処方薬とその目的です。
① 胃腸症状に対する処方薬
- ドンペリドン（ナウゼリン）：胃の運動促進、悪心・嘔吐に
- メトクロプラミド（プリンペラン）：消化不良、食欲不振に
- 六君子湯（ツムラ43番）：虚弱体質・胃のもたれ・倦怠感に
- 五苓散（ツムラ17番）：下痢・むくみ・脱水気味の体質に
② 倦怠感・体力低下に対する処方薬
- 補中益気湯（ツムラ41番）：虚弱体質、慢性疲労に
- ビタメジン配合錠：ビタミンB群による代謝サポート
- アリナミンF注・ビタミンB1注射：疲労回復を目的とした点滴
③ 睡眠障害・自律神経失調症に対する薬
- ロゼレム（ラメルテオン）：概日リズムに作用する睡眠薬
- グランダキシン（トフィソパム）：自律神経失調による不定愁訴に
- 抑肝散（ツムラ54番）：高齢者の不眠・イライラに
④ 脱水や熱中症傾向の補液処方
- ソルデム3輸液：軽度脱水時の電解質・糖補給
- ラクテック注、ビーフリード注：栄養補給を伴う点滴療法
- オルニチン製剤（ヘパンED、リーバクトなど）：肝機能ケア＋体調改善を期待
患者の年齢・体質・既往症に応じて、医師が個別に処方内容を調整するため、薬剤師としても服薬指導で全身状態を確認することが重要です。
薬剤師が気をつけたい！夏バテ患者への服薬指導ポイント
夏バテの患者さんは、胃腸が弱っていたり、脱水傾向にあったり、自律神経が乱れていることが多く、薬の吸収や副作用に影響するケースもあります。
服薬指導時には、下記のような点に注意すると効果的です。
① 漢方薬（六君子湯・補中益気湯など）の指導
- 服用タイミングの確認：「空腹時に服用することで効果が出やすいです」
- 温服のすすめ：「できればお湯に溶かして飲むと吸収もよくなります」
- 継続の重要性：「効果を感じるまでに数日かかることがあります」
② 胃腸機能低下に伴う消化薬・制吐薬の指導
- ナウゼリン・プリンペラン：「眠気が出ることがありますので注意してください」
- 食事量と相談：「少しでも食事がとれるときに服用すると効果的です」
③ ビタミン剤・サプリメントの併用注意
- 市販薬との重複成分：「アリナミン系などと併用する際は過量にならないよう注意」
- 水溶性ビタミンの特徴：「尿が黄色くなることがありますが心配ありません」
④ 脱水傾向の患者には
- 水分摂取のタイミング：「薬と一緒に水分も摂ってください」
- 経口補水液の活用：「食事が難しいときはOS-1なども選択肢です」
⑤ 高齢者・多剤併用患者には特に注意
- 腎機能や肝機能の確認：「定期通院中なら検査値も確認を」
- フレイルや食欲不振が背景にある可能性：「服用継続が困難なときは医師に相談を」
服薬指導は「薬だけでなく、生活全体へのアドバイス」も含めることが重要です。
夏場は特に、声かけ一つで患者さんの安心感が大きく変わります。
【症例紹介】実際にあった夏バテ対応の実践例
ここでは、実際の調剤現場で経験した夏バテに関連する症例を紹介します。
薬剤師がどのように対応し、服薬指導を行ったかも解説します。
症例①：50代女性・主婦「最近ずっと食欲がない…」
- 主訴：倦怠感、食欲不振、午後からの眠気
- 背景：冷たい飲み物ばかり飲んでおり、ほとんど料理をしていない
- 診断・処方：「夏バテによる胃腸機能低下」として
六君子湯（ツムラ43番）＋ドンペリドン3T分3 - 服薬指導：「冷たいものを控え、常温の水を意識してください」「漢方は空腹時の方が効果が出やすいです」
症例②：70代男性・高血圧既往あり「だるくて動けない」
- 主訴：全身倦怠感、微熱、軽度の脱水所見
- 背景：屋外での畑作業後に症状出現。水分摂取が不十分
- 診断・処方：脱水と夏バテ傾向あり
補中益気湯（ツムラ41番）＋ソルデム3輸液（点滴1日）＋ビタメジン注 - 服薬指導：「食後にしっかり補中益気湯を服用してください」「日中は帽子着用とこまめな水分摂取を」
症例③：30代女性・会社員「夜眠れず、朝がつらい」
- 主訴：不眠、日中の集中力低下、冷房による冷え
- 背景：エアコンを朝までつけっぱなし、生活リズムが乱れている
- 診断・処方：自律神経不調により睡眠障害
ロゼレム8mg就寝前＋抑肝散（ツムラ54番）分2 - 服薬指導：「寝る前はスマホやカフェインを避けましょう」「抑肝散はリズムを整える作用があります」
これらのケースからも分かるように、夏バテは症状・年齢・背景によって対応が大きく異なるため、服薬指導時には生活習慣へのアプローチが欠かせません。
まとめ
夏バテは、単なる疲労ではなく、自律神経・栄養・水分・睡眠など複数のバランスが崩れた状態です。
放置すると、生活の質が低下し、他の疾患にもつながりかねません。
薬剤師の立場としては、患者さんの症状に応じた薬の選定・漢方の提案・食事や生活習慣のアドバイスを含めた総合的なサポートが重要になります。
今回ご紹介した内容を振り返ると：
- 夏バテの原因は「暑さ」だけでなく「体内のバランス崩壊」
- 症状は倦怠感・食欲不振・不眠・胃腸障害など多岐にわたる
- 六君子湯や補中益気湯などの漢方が現場でよく使われる
- 服薬指導では、タイミング・体調・生活習慣の確認がカギ
「薬」だけでなく「生活への寄り添い」こそが夏バテ対策の本質。
あなた自身、そしてあなたの周りの人たちが、暑い夏を元気に乗り切れるよう、薬剤師としての知識と行動を活かしていきましょう！
クイズでチェック！夏バテ知識を正しく理解できてる？
それぞれの問題に5つの選択肢があります。答えと解説はクリックで確認してみましょう！
Q1. 夏バテの主な原因として最も正しいものはどれ？
- A. 栄養のとりすぎ
- B. 睡眠のとりすぎ
- C. 自律神経の乱れ
- D. ウイルス感染
- E. 筋力の低下
答え：C. 自律神経の乱れ
解説：冷房と外気の温度差、湿度変化などにより自律神経が乱れるのが最大の原因です。
Q2. 次のうち、夏バテの症状として最も一般的でないものは？
- A. 食欲不振
- B. 倦怠感
- C. 頭痛
- D. 発熱（39℃以上）
- E. 下痢
答え：D. 発熱（39℃以上）
解説：夏バテで高熱は一般的ではなく、熱中症や感染症を疑う必要があります。
Q3. 六君子湯の適応に最も合致する状態はどれ？
- A. 関節痛
- B. 食欲不振と倦怠感
- C. 便秘
- D. 高血圧
- E. 頻尿
答え：B. 食欲不振と倦怠感
解説：六君子湯は胃腸が弱っていて、疲れやすく、食が細い方に用いられます。
Q4. 夏バテ対策として避けるべき行動はどれ？
- A. 湯船につかる
- B. 栄養バランスの良い食事
- C. 冷房の温度差を小さく保つ
- D. 冷たいものばかり食べる
- E. 朝夕の軽い運動
答え：D. 冷たいものばかり食べる
解説：胃腸が冷えて機能低下を起こし、夏バテを悪化させる原因になります。
Q5. 夏バテ予防に効果的な栄養素と代表的な食材の正しい組み合わせは？
- A. ビタミンC – 納豆
- B. ビタミンD – トマト
- C. ビタミンB1 – 豚肉
- D. タウリン – 白米
- E. クエン酸 – 鶏むね肉
答え：C. ビタミンB1 – 豚肉
解説：豚肉に多く含まれるビタミンB1は、糖質のエネルギー変換を助け、夏の疲労回復に役立ちます。
よくある質問（Q＆A）
Q1. 夏バテと熱中症はどう違いますか？
夏バテは自律神経や栄養のバランス低下による慢性的な不調で、倦怠感や食欲不振などが主な症状です。
熱中症は体温調節機能が破綻し、めまい・嘔吐・意識障害など急性症状を伴うため、緊急対応が必要です。
Q2. 子どもや高齢者にも同じ対策で良いですか？
基本は同じですが、特に高齢者や子どもは水分・栄養不足に注意。周囲の見守りと、小分け食・経口補水液が重要です。
Q3. 漢方薬はどのくらい続ければ効果が出ますか？
個人差がありますが、通常は2〜4週間程度の服用で体調改善が期待できます。継続中の体調変化を見ながら、必要に応じて医師・薬剤師へ相談しましょう。
Q4. サプリメントは飲み続けても大丈夫？副作用は？
一般的なビタミン・ミネラルのサプリは安全ですが、過剰摂取による糖分・カフェイン過剰や他薬との成分重複に注意。長期服用や併用時は薬剤師に相談を。
Q5. 冷房の温度設定は何度が適切ですか？
理想は室内温度26〜28℃で、外気との温度差を5℃以内に保つことが自律神経に優しい環境になります。
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