


薬局で働いていると、患者さんから「この保険証って国保?社保?」「自己負担率は同じ?」といった質問を受けることがあります。
特に退職後の切り替え時期や、扶養に関する制度については、保険の種類ごとにルールが大きく異なるため、知識として押さえておくと対応がスムーズです。
本記事では、「社会保険」と「国民健康保険」の違いを詳しく解説し、薬局薬剤師として現場で活かせる知識に落とし込みます。
さらに、症例や実際のレセプト対応のポイントも紹介するので、ぜひ最後までご覧ください!
社会保険と国民健康保険の制度構造とは?
日本の公的医療保険制度は、すべての国民が何らかの保険に加入する「国民皆保険制度」に基づいています。
大きく分けると、勤務先を通じて加入する「社会保険(被用者保険)」と、地域ごとに加入する「国民健康保険(国保)」の二つの柱があります。
社会保険は厚生労働省が所管し、企業や組合が保険者となります。
一方、国民健康保険は主に市町村や特定の国保組合が保険者です。
それぞれの保険制度は対象者や給付内容に明確な違いがあり、薬局での業務にも密接に関係しています。

加入条件と対象者の違いとは?
社会保険と国民健康保険では、加入の仕組みや対象となる人が根本的に異なります。以下にそのポイントを整理しました。
社会保険の加入条件
- 原則として、会社などの事業所に雇用されている人が対象
- 正社員だけでなく、一定の条件を満たすパート・アルバイトも加入対象
- 加入手続きは事業主が行う
例えば、週の労働時間が20時間以上、年収106万円以上などの条件を満たすと、パートでも社会保険に加入義務が発生します(従業員数などによって異なる)。
国民健康保険の加入対象
- 自営業者、フリーランス、無職、年金受給者などが対象
- 社会保険に加入していない人は原則的に国保に加入
- 加入手続きは本人が市区町村で行う
会社を退職して社会保険の資格を喪失した場合は、原則14日以内に国民健康保険への切り替えが必要です。
扶養の扱いの違い
社会保険では、家族を「被扶養者」として追加でき、保険料の負担がありません。
一方、国民健康保険には扶養の概念がなく、家族全員がそれぞれ保険料を負担する必要があります。
保険の種類 | 加入対象 | 手続き方法 | 扶養の有無 |
---|---|---|---|
社会保険 | 会社員・一定条件のパート | 会社が手続き | あり(保険料追加なし) |
国民健康保険 | 自営業・無職・年金受給者等 | 本人が市区町村で手続き | なし(全員分負担) |

保険料の計算方法と負担割合の違いは?
社会保険と国民健康保険では、保険料の計算方法と支払いの仕組みに明確な違いがあります。
これは、患者さんの経済的負担に大きく関わるため、薬局での会話でも重要な話題です。
社会保険の保険料計算と負担割合
- 保険料は「標準報酬月額 × 保険料率」で算出
- 会社と本人が半分ずつ(折半)で支払う
- 毎月の給与から自動天引きされるため手続きが簡便
たとえば、標準報酬月額が30万円で健康保険料率が10%の場合、保険料は3万円。
そのうち本人負担は1万5千円、残りは会社が負担します。
国民健康保険の保険料計算と負担方法
- 所得や資産、世帯の人数によって自治体ごとに保険料が決定
- 全額を世帯主が支払う
- 納付方法は口座振替やコンビニ納付など(年4回または月割)
市区町村によって保険料の決定方法は異なり、住んでいる地域によって保険料に差が出る点が特徴です。
どちらの保険料が高いの?
一概には言えませんが、「一定以上の所得がある人は社会保険のほうが安くなる傾向」があります。
これは、会社が半額負担してくれるためです。
一方、所得が低い世帯では、国保において減免措置が受けられる場合もあり、そちらの方が有利になることもあります。
例:
年収400万円(東京都在住、独身)のケースでは、
・社会保険:自己負担約20万円/年
・国民健康保険:約30万円/年(自治体による)
※扶養者の有無や住宅の有無で変動あり

医療費の自己負担率に違いはある?
社会保険と国民健康保険では、保険制度の違いによって給付内容が異なることがありますが、医療費の自己負担率自体は年齢と所得で決定され、保険の種類にかかわらず共通です。
自己負担率の基準
対象者 | 自己負担割合 |
---|---|
義務教育就学前 | 2割 |
義務教育就学後~69歳 | 3割 |
70歳以上(一般) | 2割 |
70歳以上(現役並み所得者) | 3割 |
75歳以上(後期高齢者医療制度) | 1割または2割(所得に応じる) |
つまり、自己負担率は「社会保険か国保か」ではなく、「年齢と所得」で決まる点がポイントです。
高額療養費制度の適用
社会保険・国民健康保険のどちらにも「高額療養費制度」があり、月の医療費が一定額を超えると自己負担額の上限が設けられています。
所得区分によって上限額は異なります。
例:
年収約370万〜770万円の人:
外来・入院の自己負担上限額は約80,100円+(医療費−267,000円)×1%
※制度を利用するには事前に「限度額適用認定証」の申請が必要です。
薬局での対応ポイント
- 保険証に記載された「自己負担割合(1割・2割・3割)」を確認する
- 高齢者の患者さんには後期高齢者医療制度の対象かどうかも確認
- 「高額療養費制度」について説明を求められる場面では、限度額適用認定証の提示をお願い

フリーランス・派遣薬剤師が選ぶべき保険とは?
近年では、薬剤師の働き方も多様化し、フリーランス(個人事業主)や派遣薬剤師として働く人も増えています。
この場合、原則として国民健康保険に加入することになりますが、選択肢は一つではありません。
基本は国民健康保険に加入
フリーランスとして薬局や企業と業務委託契約を結んでいる場合、社会保険の加入義務が発生しないため、各自が住所地の市区町村で国民健康保険に加入する必要があります。
- 開業届を税務署に提出した場合、個人事業主として国保に加入
- 開業届を出していなくても、勤務先に雇用契約がなければ国保が基本
派遣薬剤師は社会保険加入の可能性も
派遣会社に雇用されている形態であれば、派遣会社が社会保険に加入させる義務があります。
週20時間以上勤務し、2か月を超える見込みであれば加入対象になります。
例:
月160時間(週40時間)勤務の派遣薬剤師は、社会保険の適用対象となり、派遣会社が手続きを行う
フリーランス薬剤師が検討すべきその他の選択肢
- 任意継続被保険者制度:会社員を退職後、最大2年間は社会保険を継続可能。ただし保険料は全額自己負担。
- 国保組合(薬剤師国保など):薬剤師会に加入していれば、薬剤師国保を利用できる地域もある(保険料が有利なケースあり)
薬剤師国保は保険料が定額制で高所得者に有利な場合もあるため、都道府県薬剤師会への加入を検討する価値があります。

薬局で出会った!保険制度に関する具体的なケースと対応
ここでは、薬局業務の中で実際に起こった保険制度に関する事例を取り上げ、どのように対応すべきかを解説します。
実践的な知識として役立ててください。
例①:退職直後で国民健康保険証がまだ手元にない患者
50代男性が退職後、次の職場が決まっていない状態で来局。健康保険証を提示できず、「国保の手続き中」との申告。本人は処方箋を持参し、「今日は全額自己負担になるか?」と不安な様子。
- 対応:いったん自費(10割)で支払い→後日保険証持参時に返金対応+レセプト修正
- ポイント:調剤レセプトの「資格取得日」確認が重要。市区町村に加入日を確認し、加入日から保険扱いできる場合も
症例②:70歳の患者が2割なのに3割と勘違いしていた
後期高齢者医療制度により、70歳以上の方は多くが2割負担。しかし、「前と同じく3割で払っている」と話す女性患者。調剤レセプトを見ると、確かに2割が適用されている。
- 対応:レジ精算額とレセプトの負担割合が一致していることを説明
- ポイント:一部の高齢者は自費分との差に違和感を持つため、口頭説明が重要
症例③:フリーランス薬剤師の相談「どの保険が得?」
1人薬局で業務委託をしている30代男性薬剤師から、「任意継続と国保、どっちが得?」との質問。年収約500万円。扶養家族はなし。
- 対応:任意継続は保険料が固定だが、国保は所得比例+自治体差があるため、市区町村に試算依頼を勧める
- ポイント:薬剤師国保も視野に入れ、3者比較を提示



まとめ
- 社会保険は会社員や派遣社員が対象で、保険料は会社と本人が折半。扶養家族は追加保険料なしでカバー可能。
- 国民健康保険は自営業や無職などが対象で、保険料は全額自己負担。扶養制度がなく、家族もそれぞれ保険料が必要。
- 医療費の自己負担率は保険の種類でなく、年齢と所得によって決定される。
- 高額療養費制度や任意継続制度など、どちらの保険にも給付制度があり、状況によって有利な選択肢が異なる。
- フリーランス薬剤師は基本的に国保加入だが、薬剤師国保や任意継続も検討可能。
- 薬局業務では、保険証の確認・負担割合のチェック・適切なレセプト処理が重要。
保険制度を理解しておくことは、患者さんとの信頼関係を築く第一歩。
薬剤師として、制度の知識も業務の一部として磨いていきましょう!

理解度チェック!保険制度クイズ
第1問:社会保険の保険料は誰が負担する?
- A. 本人が全額負担
- B. 会社が全額負担
- C. 本人と会社が半分ずつ負担
- D. 国が負担する
第2問:国民健康保険に扶養の制度はある?
- A. ある
- B. ない
- C. 条件付きである
- D. 子どもだけが対象
第3問:70歳の患者の医療費自己負担率は原則何割?
- A. 1割
- B. 2割
- C. 3割
- D. 所得に関係なく3割
第4問:退職後、社会保険から国保へ切り替える際の期限は?
- A. 3日以内
- B. 7日以内
- C. 14日以内
- D. 1か月以内
第5問:フリーランス薬剤師が加入する保険は?
- A. 健康保険組合
- B. 国民健康保険
- C. 厚生年金
- D. 任意加入の公的保険
よくある質問
Q. 社会保険と国民健康保険、どちらが医療費の自己負担率が低いですか?
自己負担率は保険の種類ではなく、年齢と所得によって決まります。例えば、70歳以上の方で一般所得層なら2割負担です。社会保険でも国保でも、条件が同じなら負担率に違いはありません。
Q. フリーランスでも社会保険に加入できますか?
原則としてフリーランスは国民健康保険に加入しますが、退職後の「任意継続」や薬剤師国保など、条件次第で社会保険に類似した制度を利用することが可能です。
Q. 扶養家族が多い場合はどちらの保険が有利ですか?
社会保険は被扶養者がいても保険料が増えないため、扶養家族が多い場合は社会保険の方が有利になることが多いです。国保は人数に応じて保険料が増える仕組みです。
Q. 転職した場合、保険の切り替えは自動で行われますか?
転職先の企業が社会保険の手続きを行えば新しい保険証が交付されますが、退職から次の就職までの期間が空く場合は、本人が市区町村で国民健康保険の手続きを行う必要があります。
Q. どちらの保険でも高額療養費制度は使えますか?
はい、社会保険・国民健康保険どちらでも高額療養費制度は利用できます。事前に限度額適用認定証を申請しておくと、窓口での支払いが自己負担上限額までに抑えられます。
参考文献
- 厚生労働省「国民健康保険制度について」
- 全国健康保険協会「退職後の健康保険 任意継続制度」
- 厚生労働省「任意継続被保険者制度について」
- 健康保険組合 任意継続制度保険料算定基礎の変更(令和7年度)
- One人事「国民健康保険との違いや加入・切替」








\忙しい薬剤師でもOK!最短で合格を目指すならココ/
【呼吸療養認定士】吸入指導のエキスパートへ!

「吸入薬、うまく使えてないな…」という患者さん、多くないですか?
この資格があれば、吸入デバイス指導から生活指導まで、医師に一目置かれる存在に。
✅ 呼吸器疾患への薬物療法が体系的に理解できる
✅ COPDや喘息の服薬アドヒアランスに貢献
✅ 地域包括ケアでの活躍チャンス拡大!

【透析技術認定士】電解質・水分管理の知識が武器になる!

透析患者の処方、なんとなくで扱っていませんか?
この資格で「透析処方が読める薬剤師」になれます。
✅ 血液・腹膜透析の薬学的視点がしっかり学べる
✅ 高カリウム血症やP管理などのアセスメント力がアップ
✅ チーム医療の中で活躍の場が広がる!

【認知症ケア認定士】「ただの服薬指導」からの脱却!

認知症の方との会話に困ること、ありませんか?
この資格で「認知症に寄り添える薬剤師」になれます。
✅ BPSD(行動心理症状)への対応知識も学べる
✅ 在宅・施設での多職種連携がスムーズに
✅ ケアマネや家族からの信頼も高まる!

【糖尿病療養認定士】薬だけじゃない、生活まで支える力!

HbA1cばかり見ていませんか?
この資格があれば、「生活までアドバイスできる薬剤師」に。
✅ 食事・運動・インスリンまで包括的に学べる
✅ SMBG・インスリン注射の技術支援にも対応
✅ 外来・薬局・在宅、どの現場でも活躍できる!

悩んでいる時間がもったいない。今日から一歩踏み出そう!








コメント