


血液検査と薬の関係
血液検査は体の状態を客観的に知る大切な手段ですが、薬によって数値が変動することがあります。
正確な診断や治療方針に影響するため、必要に応じて休薬指示が出ることがあります。
薬が血液検査に影響する理由
- 薬そのものが検査値を変える(例:スタチンが肝機能値に影響)
- 検査機器と反応して偽陽性/偽陰性を示す(例:ビタミンCが血糖値測定を下げる)
- 体内の代謝やホルモンに作用する(例:ステロイドが血糖・脂質を上げる)
そのため、検査の種類によって「休薬すべきか」「そのまま継続すべきか」が異なります。
血液検査前に休薬が必要な薬
血液検査は健康状態を把握する上で非常に重要ですが、服薬中の薬が結果に影響することがあります。ここでは代表的な血液検査ごとに、休薬を検討すべき薬について整理します。
脂質検査(コレステロール・中性脂肪)
- スタチン系(アトルバスタチン、ロスバスタチンなど)
継続中は脂質値が低く出るため、治療効果をみるときは継続、ベースライン確認時には休薬することがある。 - フィブラート系(フェノフィブラートなど)
中性脂肪値を大きく下げる作用があるため、治療前の正確な評価には休薬が必要な場合がある。
血糖検査(空腹時血糖・HbA1c)
- 経口糖尿病薬(メトホルミン、スルホニル尿素薬など)
治療効果判定なら継続、治療開始前評価なら休薬することがある。 - ビタミンCサプリメント
測定法によっては血糖値を偽低値にするため、採血前は控えるのが望ましい。
腎機能検査(クレアチニン・eGFR・BUN)
- 利尿薬(フロセミドなど)
脱水によりBUNが上昇し、腎機能が悪化したように見えることがある。 - ACE阻害薬/ARB
クレアチニンが上昇する可能性があり、医師の判断で休薬する場合がある。
肝機能検査(AST, ALT, γ-GTP)
- スタチン・抗結核薬・抗てんかん薬
肝酵素を上昇させることがあるため、検査の目的に応じて休薬を検討する。 - アルコール
薬ではないが、前日の飲酒は肝機能値に強く影響するため控える必要がある。
特殊な血液検査と休薬の注意点
甲状腺機能検査(TSH, FT4, FT3)
- 甲状腺ホルモン薬(レボチロキシン)
数値に直接影響。投薬効果確認なら継続、自己分泌能確認なら休薬が必要。 - 抗甲状腺薬(チアマゾール、プロピルチオウラシル)
ホルモン動態を変えるため、休薬が必要な場合がある。
凝固系検査(PT, APTT, INR)
- ワルファリン
INR測定は服薬下で評価するため休薬不要。 - DOAC(アピキサバン、エドキサバンなど)
手術前や薬剤濃度測定では休薬が必要な場合がある。 - 抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル)
手術予定時に休薬が必要なケースあり。
ホルモン検査(副腎皮質ホルモン、性ホルモン)
- ステロイド(プレドニゾロンなど)
副腎機能検査の際は休薬指示が出ることがある。 - 経口避妊薬
性ホルモン測定に影響し、場合によって休薬が必要。
血液検査前に“休薬が必要/不要”の考え方(総論)
結論から言うと、検査の目的と医師の指示で決まります。自己判断の休薬は危険です。
以下の3観点をチェックしてから判断しましょう。
- 検査で評価したいのは「薬を飲んだ効果」か「素の状態(ベースライン)」か
- 薬を止めると病状が悪化したり副作用が起きないか(例:抗凝固薬の中止で血栓リスク)
- 薬やサプリが測定法そのものに干渉しないか(例:ビオチンが免疫測定法を乱す)
看板ルール:迷ったら止めずに申告。休薬は医師・薬剤師と相談して決める。
絶食(朝食抜き)と採血の関係
空腹条件は検査の精度に直結します。特に中性脂肪(TG)と空腹時血糖は影響が大きく、わが国の健診基準でも空腹=絶食10時間以上が基本です(食後採血の場合は基準が別設定)※。
※根拠:特定健診等の実施要領・改訂資料(厚労省)、日本動脈硬化学会ガイドライン等。
検査 | 推奨絶食時間 | 備考 |
---|---|---|
中性脂肪(TG) | 10時間以上 | やむを得ず非空腹でも可。ただし評価基準や算出法(LDL計算式)に注意。 |
空腹時血糖 | 10時間以上 | HbA1cは食事の影響を受けにくい。 |
肝機能(AST/ALT/γ-GT) | 前日の多量飲酒回避 | アルコールでγ-GTなどが上がりやすい。 |
甲状腺(TSH/FT4/FT3) | 厳密な絶食不要 | 採血前のレボチロキシンの服用タイミングを一定に。 |
レニン/アルドステロン(ARR) | 朝採血・姿勢/塩分/薬剤条件 | RA系に影響する薬の調整が必要なことあり。 |
糖尿病治療中の方へ:絶食とインスリン/スルホニル尿素薬の併用は低血糖の危険があります。
医師の指示がない限り、朝の薬・注射を自己判断で行わないでください。ブドウ糖携帯と来院直後の採血・その後の補食を。
検査別:休薬が必要になりやすい薬とポイント
脂質(LDL-C/HDL-C/TG/Non-HDL-C)
- スタチン/エゼチミブ/PCSK9阻害薬/フィブラート:治療効果判定なら継続して測定。
未治療時のベースライン確認や二次評価の特殊目的では、一時中止を検討(医師指示)。 - 絶食:原則10時間以上(特定健診基準)。非空腹時はTGや計算法(Friedewald等)に注意し、Non-HDL-C活用も選択肢。
血糖(空腹時血糖、HbA1c、インスリン、Cペプチド)
- 経口血糖降下薬:評価目的で取扱いが変わる。初診でベース確認→中止指示となることあり。効果判定→通常は継続。
- ビタミンC(高用量):一部の測定法で偽低値を作る報告。サプリは事前申告を。
- HbA1cは食事影響をほぼ受けないため、絶食が厳密でなくても可。ただし同一施設・同一法での推移比較が大切。
腎機能(Cr/eGFR/尿素窒素/K/Na)
- 利尿薬:脱水でBUN上昇や電解質変動を招くことがある。普段どおりの内服で評価するのが原則だが、検査目的で調整する場合あり。
- ACE阻害薬/ARB:開始直後や増量時にCr上昇・K上昇があり得る。中止ではなく、タイミングと採血間隔で管理。
肝機能(AST/ALT/ALP/γ-GT/ビリルビン)
- 肝酵素上昇薬:スタチン、抗結核薬、抗てんかん薬、メトトレキサート等。中止の可否は主治医判断。
- 飲酒:前日の多量飲酒は避ける。サプリ(筋トレ系、ハーブ等)も申告。
甲状腺(TSH/FT4/FT3/サイログロブリン)
- レボチロキシン:採血前の服用タイミングを一定に。朝服用→採血は服用前で固定する方法が一般的。カフェイン・鉄/カルシウム製剤・大豆食品は吸収に影響。
- ビオチン:免疫法に干渉し、TSH低値/FT4高値の偽像などを生むことがある。高用量摂取は検査数日前から中止が無難。
凝固系(PT/INR/APTT/血小板機能)
- ワルファリン:INRは内服下で測るのが原則。自己判断の休薬は禁忌。
- DOAC(ダビガトラン/アピキサバン/エドキサバン/リバーロキサバン):ルーチン検査では用量調整不要が基本。手術前や薬物濃度評価では休薬間隔の指示あり。
- 抗血小板薬(アスピリン/クロピドグレル/プラスグレル等):手術や侵襲的処置前は休薬計画が必要(心血管リスクと出血リスクのバランス)。
当日の動線チェックリスト
- 前夜:22時以降は食事を控える(水・無糖茶は可)。アルコールは控える。
- 朝:降圧薬など中止指示のない薬は少量の水で服用。糖尿病薬・インスリンは事前指示どおりに。
- 来院時:服薬リスト(処方/市販/サプリ)を提出。低血糖に備えブドウ糖を携帯。
- 採血後:指示があれば補食。気分不快があればすぐ申告。
症例で学ぶ:より実践的な5ケース
症例1:SU薬内服+絶食での低血糖を未然に回避
70代女性。グリメピリド1mg朝内服。空腹時血糖と脂質の採血予定。
指示:検査当朝は朝食・SU薬ともに中止、来院は午前中早め、ブドウ糖持参。採血直後に補食OK。
結果:めまいなく安全に採血。HbA1c 6.9%、空腹時血糖 102mg/dL、TG 110mg/dL。
症例2:スタチン効果判定—継続内服で採血
60代男性。アトルバスタチン10mg夕内服。
目的:効果判定。
対応:薬は継続、前夜22時以降は絶食。
結果:LDL 86mg/dL。目標達成で継続。
症例3:レボチロキシンと採血タイミング
40代女性。レボチロキシン75µgを毎朝起床時に内服。
対応:採血は服用前の朝に固定。コーヒーは採血後に。
結果:TSH 2.1µIU/mL、FT4 1.2ng/dLで安定。
症例4:ワルファリンのINR測定—休薬しない
80代男性。心房細動でワルファリン維持療法。
対応:通常どおり内服し、午前採血でINR 2.3。
解説:INRは内服下で評価するのが原則。自己判断の中止は塞栓症リスク。
症例5:DOACと小外科処置前の評価
70代女性。アピキサバン5mg×2内服。皮膚小手術予定。
対応:主治医の術前指示に従い、前日1回分スキップ。採血で腎機能を同時確認。
結果:出血合併なく施行。術後は計画通り再開。
よくある質問
朝食は抜くべき?コーヒーは?
脂質・空腹時血糖は絶食10時間以上が原則。水・無糖茶はOK。コーヒーはカフェインが甲状腺薬の吸収に影響するため、甲状腺薬内服者は採血後に。
ビタミンやサプリはどうする?
ビオチン(ビタミンB7)高用量は甲状腺、トロポニン等の免疫測定を乱します。数日前から中止が無難。ビタミンC高用量も血糖測定法により干渉報告あり。
今日だけ薬を止めれば大丈夫?
薬の影響は半減期や作用機序で数日以上続く場合があります。当日だけ中止では意味がないことも。必ず医師に期間を確認。
参考文献(一次情報)
- Japan Atherosclerosis Society. JAS Guidelines for Prevention of Atherosclerotic Cardiovascular Diseases 2022. 2023–2024改訂. 本文/PMC. 最終確認日:2025-09-16.
- 厚生労働省. 特定健診・保健指導プログラム(令和6年度版)関連資料:健診作業班変更点,実施要領 抜粋,第2章 健診の内容. 最終確認日:2025-09-16.
- FDA. Biotin Interference with Lab Tests(2017通知・2022更新). 公式ページ. 最終確認日:2025-09-16.
- ARUP Consult. Aldosterone-Renin Ratio Test Fact Sheet. 公式ページ. 最終確認日:2025-09-16.
- Ten Cate H, et al. Practical guidance on laboratory testing in patients taking DOACs. Res Pract Thromb Haemost. 2017. PMC. 最終確認日:2025-09-16.
- Rosengrave PC, et al. Effect of IV vitamin C on glucose monitoring interference. 2022. PMC. 最終確認日:2025-09-16.
- American Heart Association. WarfarinとINRの患者向け解説. 公式ページ. 最終確認日:2025-09-16.



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