


前書き|この記事でわかること
本記事は薬局薬剤師向けに、抗うつ薬トリンテリックス(一般名:ボルチオキセチン臭化水素酸塩)の特徴、用法用量、相互作用、安全性、スイッチングの実務ポイントを、日本の添付文書(PMDA)やRMP等の一次情報に基づきやさしく解説します。難しい用語は噛み砕き、実践に直結する形に整理しました。
本文|基礎から実務まで
トリンテリックスの位置づけと作用機序
薬効分類は「セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節剤」。SERTを阻害してシナプス間隙の5-HTを増やすと同時に、5-HT1A受容体作動、5-HT1B部分作動、5-HT3/5-HT7/5-HT1D拮抗など多面的に働きます。これにより抗うつ作用に加え、認知機能や不安症状へのベネフィットが報告されています(詳細は参考文献)。
適応・用法用量(成人)
| 適応 | 用法用量(日本) | 増量・上限 |
|---|---|---|
| うつ病・うつ状態 | 通常、10mgを1日1回経口投与 | 患者の状態により適宜増減(増量は1週間以上の間隔)、最大20mg/日 |
※CYP2D6強力阻害薬併用中、またはCYP2D6 PMでは10mgを上限。添付文書上の重要ポイントです。
禁忌・重要な注意
- 禁忌:本剤成分に過敏症、MAO阻害薬投与中または中止後14日以内(セレギリン、ラサギリン、サフィナミド等)
- 自殺念慮関連:24歳以下でリスク増報告。開始時・増量時は特に観察強化。
- 中止時症状:不安、めまい、悪心など。急な断薬は避け、漸減を基本。
相互作用の要点(薬局でのチェックリスト)
| 相手薬/状況 | 機序 | 対応 |
|---|---|---|
| MAO阻害薬 | セロトニン増強 → セロトニン症候群リスク | 併用禁忌/休薬間隔14日以上 |
| SSRI/SNRI/トリプタン/リネゾリド/リチウム/トラマドール等 | セロトニン過剰 | 症状教育・併用必要性を再確認。発現時は受診。 |
| CYP2D6阻害薬:パロキセチン、フルオキセチン、キニジン等 | 代謝低下 → 血中濃度↑ | 10mg上限を目安に慎重投与 |
| 強力CYP誘導薬(カルバマゼピン等) | 代謝亢進 → 作用減弱の可能性 | 有効性評価と用量調整を検討 |
| 出血リスク薬(NSAIDs、抗血小板/抗凝固) | 血小板機能低下の可能性 | 出血症状の教育・必要時は併用最小化 |
副作用プロファイル(概観)
- よくある副作用:悪心、頭痛、めまい、不眠/眠気、便秘等。
- 重篤:セロトニン症候群、痙攣、躁転、自殺関連事象、出血、低ナトリウム血症など。
- 眼圧上昇や閉塞隅角緑内障の既往では注意。
使い分けのヒント(SSRI/SNRIとの違い)
多面的作用により、消化器系副作用(悪心)は注意しつつも、体重増加や性機能障害は一部報告で相対的に少ない傾向が示唆されています(個体差あり)。
また、認知機能(注意・処理速度など)改善の報告が臨床的関心点です。処方意図(意欲低下・ブレインフォグ訴え)に応じて選択肢となります。
休薬・切り替え(スイッチング)実務フロー
- セロトニン症候群・離脱の二大リスクを想定。
- SSRI/SNRI → トリンテリックス:漸減+必要に応じてウォッシュアウト。MAOIからは14日以上。
- トリンテリックス → 他剤:症状をみながら1~2週間かけて段階減量を基本。
- 高齢者・腎/肝機能障害:開始用量は通常どおりでも、増量は緩やかに。ふらつき・低Naに注意。
監査・服薬指導チェックリスト(配布OK)
- 開始用量10mg、増量は1週間以上あけて最大20mg?
- CYP2D6阻害薬の併用は?→ 上限10mgを目安に。
- MAOIは?現在/直近14日以内なら禁忌。
- 自殺関連症状のモニタリング指導(特に若年者)。
- 悪心対策(食後内服、開始数日で軽減することが多い旨を情報提供)。
- 中止は漸減、急な断薬は避ける。
- 出血徴候・低Na症状(倦怠、ふらつき)への注意喚起。
症例・実践例
症例1:SSRIで認知面の訴えが残る30代
エスシタロプラム10mgで抑うつは軽減も、注意散漫・処理速度低下を訴える患者。医師と相談の上、SSRIを2週間で漸減中止、トリンテリックス10mg/dayへスイッチ。
初週に悪心(軽度)があったため食後へ変更。4週で主観的な集中力の改善を報告。※個別例であり効果を断定しません。
症例2:多剤併用・相互作用注意の60代
基礎疾患に高血圧・心房細動(アピキサバン内服)。出血リスク教育を実施し、歯磨き・鼻出血・黒色便などの徴候を具体的に説明。ふらつき対策として起立時注意も併せて指導。
よくある副作用対応
| 症状 | 初期対応 | 薬剤・生活上の工夫 |
|---|---|---|
| 悪心 | 食後内服、数日~1週で軽減傾向を説明 | 必要時:制吐薬短期使用を医師に提案 |
| 不眠/眠気 | 服用タイミング調整 | 睡眠衛生の指導 |
| 便秘 | 水分・食物繊維 | 必要時:緩下薬調整を提案 |
薬物動態(PK)とTDM観点
- 吸収:tmaxは約7~11時間。1日1回投与で定常状態に到達。
- 分布・代謝:高たん白結合率。主にCYP2D6で代謝、他にCYP3A4/2C9なども関与。
- 半減期:およそ66時間前後の報告。中止後も作用が漸減するため、断薬は段階的に。
- TDM:日常的な血中濃度測定は推奨されない。臨床症状を基に評価。
肝腎機能と用量調整
軽度~中等度の腎・肝機能障害で特別な用量調整は不要とされるが、個別性を重視し増量は慎重に。重度障害ではエビデンスが限られるため専門医と連携。
認知機能へのベネフィットに関するエビデンス概観
注意・実行機能・処理速度などのスコア改善が無作為化比較試験やメタ解析で示唆。うつ病の「考えがまとまらない」訴えに対し、選択肢のひとつとなる可能性があります(効果には個体差)。
スイッチング実務:簡易マトリクス
| From | To(トリンテリックス) | ポイント |
|---|---|---|
| SSRI(例:エスシタロプラム) | 10mg開始 | SSRIを1~2週間で漸減。重ねる場合は低用量短期。 |
| SNRI(デュロキセチン等) | 10mg開始 | 離脱症状対策にSNRIを段階減量。頭痛・めまい教育。 |
| NaSSA(ミルタザピン) | 10mg開始 | 併用期は過度な鎮静に注意。 |
| MAOI | 不可(14日以上あける) | 禁忌。必ずウォッシュアウト。 |
服薬指導の実践フレーズ集
- 「初めの1週間は胃のムカつきが出やすいですが、多くは数日で落ち着きます。食後がおすすめです。」
- 「急にやめると体がびっくりします。中止や変更は必ず医師と相談してください。」
- 「気分だけでなく、集中力などにも良い影響が期待される薬です。」
薬局の在庫・算定・収益観点のメモ
- 規格:10mg/20mg。初回は10mg処方が中心。欠品時の分割投与は不可(割線はあるが用量調整の指示に従う)。
- 後発品状況:現時点では先発が中心(地域差あり)。
- 疑義照会の定型句を準備:
「CYP2D6阻害薬併用中のため、上限10mgの目安でよろしいでしょうか。」
「MAO阻害薬の使用歴(直近14日以内)の有無をご確認ください。」
まとめ
- トリンテリックスはSERT阻害+複数の5-HT受容体調節を併せ持つ抗うつ薬。
- 日本では10mg開始・最大20mg、増量は1週間以上間隔が基本。
- MAOI禁忌、CYP2D6阻害薬併用時は10mg上限目安など相互作用対策が重要。
- 中止は漸減。若年者の自殺念慮、出血・低Na等のリスク教育を。
よくある質問
Q1. 食事の影響はありますか?
基本的に食事の影響は大きくなく、1日1回の服用を継続できる時間帯で問題ありません。悪心対策として食後にすることは実務上有用です。
Q2. 高齢者で開始量を下げる必要は?
添付文書に特別な減量規定はありませんが、増量は緩やかに、ふらつき・低Naをモニターします。
Q3. 妊娠・授乳は?
妊婦には有益性が危険性を上回る場合のみ。授乳中はリスク・ベネフィットを医師と共有し、自己判断での継続・中止は避けるよう指導します。
Q4. 服薬中に手術予定が入りました
出血リスク薬との併用状況を確認し、術前評価で情報共有。断薬は医師判断とし、急な自己中止は避けるよう説明します。
参考文献
- PMDA 添付文書「トリンテリックス錠10mg・20mg」PDF(PMID/DOI: ―/URL、最終確認日:2025-11-02)
- PMDA 医療用医薬品情報(総合ページ:添付文書、患者向ガイド、IF等)URL(最終確認日:2025-11-02)
- PMDA RMP本体(最新版)PDF(最終確認日:2025-11-02)
- De Diego-Adeliño J, et al. Vortioxetine in major depressive disorder. PMID:34964415(最終確認日:2025-11-02)
- Ślifirski G, et al. 5-HT Receptors and the Development of New Antidepressants. PMCID:PMC8396477(最終確認日:2025-11-02)
- Stahl SM. Modes and nodes explain the mechanism of action of vortioxetine. DOI:10.1017/S1092852915000139(最終確認日:2025-11-02)
- PMDA 患者向医薬品ガイド トリンテリックス URL(最終確認日:2025-11-02)
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薬剤師向け転職サービスの比較と特徴まとめ


今日は、特徴をわかりやすく整理しつつ、読んでくださる方が自分の働き方を見つめ直しやすいようにまとめていきましょう。
働く中で、ふと立ち止まる瞬間は誰にでもあります
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「最近ちょっと疲れているかも…」と感じる瞬間が出てくることがあります。
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こうした感覚は、必ずしも「今の職場が嫌い」というわけではなく、
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無理に変える必要はありませんが、少し気持ちが揺れたときに情報を整理しておくと、
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薬剤師向け転職サービスの比較表
ここでは、薬剤師向けの主な転職サービスについて、それぞれの特徴を簡潔に整理しました。
各サービスの特徴(概要)
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気持ちが揺れるときは、自分を見つめ直すきっかけになります
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