



はじめに
新型コロナウイルスの流行から数年が経ち、急性期治療やワクチン接種が普及する一方で、いま注目されているのが「後遺症(罹患後症状/Long COVID)」です。
感染が治まった後も「倦怠感が抜けない」「息切れが続く」「味やにおいがしない」といった症状に悩む方が少なくありません。
世界保健機関(WHO)や厚生労働省も、罹患後症状の存在と診療の重要性を強調しています。
特に、軽症でも起こりうる点、症状が多様で生活の質を下げてしまう点が大きな課題です。
本記事では、最新のガイドラインや研究報告を参考にしながら、新型コロナ後遺症の全体像と、味覚障害に焦点を当てた対処法について、薬剤師の立場からわかりやすく解説していきます。
新型コロナ後遺症(罹患後症状)とは?
重要なポイント:新型コロナ後遺症(罹患後症状/Long COVID)は、感染後に他の原因で説明できない症状が発症から約3か月の時点でも続き、少なくとも2か月以上持続する状態を指します。
日常生活機能に影響するのが特徴です(定義の骨子)。
代表的な症状は、倦怠感・息切れ・思考や記憶の不調(ブレインフォグ)・睡眠障害・筋関節痛・動悸・嗅覚味覚の異常など多岐にわたります。
重症化した人だけでなく、軽症や無症状でも起こりうる点に注意が必要です。
国内ではかかりつけ医が中心となり、多職種と連携して評価・支援する体制が推奨されています。
罹患後症状は除外診断であり、心不全・血栓症・神経疾患など見逃してはならない鑑別疾患を丁寧に除外しながら評価します。
症状は波を打って変動し、消失後に再燃することもあります。
(定義・評価の基本は厚労省「罹患後症状のマネジメント第3.1版」、WHOの定義、CDCの総説に基づく。)

どんな症状が続きやすい?
頻度の高い症状の一例を下表に整理します。症状は複数臓器にまたがることが多く、複合的に評価します。
カテゴリー | 主な症状 | 補足 |
---|---|---|
全身 | 強い倦怠感、労作後増悪(PEM) | 活動量の調整(ペーシング)が鍵 |
呼吸循環 | 息切れ、胸部違和感、動悸 | 起立不耐(POTS)合併に注意 |
神経・認知 | 集中困難、記憶低下、頭痛 | 復職・就学配慮が必要 |
精神 | 不安、不眠、気分の落ち込み | スクリーニングと介入の導線づくり |
嗅覚・味覚 | 嗅覚低下・異嗅症、味覚低下・異味症 | 嗅覚トレーニング、原因検索が要 |
消化器 | 腹部不快、下痢・便秘 | 食事・水分・整腸の支援 |
(症状群の整理はWHOファクトシート、CDCの症状ページを参照。)

回復にはどのくらいかかる?
多くの人は数か月で改善傾向ですが、4〜9か月をかけて徐々に回復する報告があり、12か月時点でも一定割合で症状が残ることがあります。重要なポイント:回復は“ゆっくり階段状”で、焦りは逆効果になりがちです。ペーシング(活動量の調整)やリハビリの段階的導入が推奨されます。

リスク要因と予防はどう考える?
女性、高齢、肥満、喫煙、基礎疾患、重症例やICU治療、再感染などは罹患後症状のリスク増加と関連します。一方、ワクチン接種は罹患後症状のリスク低下と関連するメタ解析・観察研究が蓄積しています。
再感染予防(最新推奨に沿ったワクチン、マスク・換気・手指衛生)は「次を防ぐ」意味で現実的な対策です。

味覚障害はなぜ起こる?
COVID-19後の味覚障害は、嗅覚障害に伴う“風味障害”として自覚されるケースが多数です。
その他、口腔乾燥や口腔カンジダ、亜鉛欠乏、貧血、ビタミン欠乏、薬剤性、全身疾患など多様な原因があり、まずは原因検索が重要です。耳鼻咽喉科では鼻咽頭の観察やCT、味覚・嗅覚検査(電気味覚検査や嗅覚検査)を組み合わせて評価します。

味覚障害のセルフケアは何から始める?
嗅覚トレーニングは役立つ?
バラ・レモン・ユーカリ・クローブなど4種の香りを1日2回・各20秒、3〜6か月継続する古典的プロトコルが広く使われています。
重要なポイント:COVID-19後の嗅覚異常(とくに異嗅症)に対して、修正型嗅覚トレーニングの有効性を示す研究がありますが、効果は個人差が大きく、継続と安全性が高いことが採用の理由です。
食事の工夫は何がポイント?
- 温度差・食感・香りなど味覚以外の刺激を活かす(例:温冷コントラスト、カリッと+なめらかの組み合わせ)。
- 口腔ケア・水分補給で口腔乾燥を避ける。
- 香りの強いハーブ・スパイスを活用(刺激が強すぎる場合は段階的に)。
市販でそろえるなら何が無難?
- 嗅覚トレーニング用エッセンシャルオイル4本セット(ローズ/レモン/ユーカリ/クローブ)
- 鼻腔ケア用の鼻洗浄ボトル(生理食塩水でやさしく)
- 食事と併用するマルチビタミン・ミネラル(用量・禁忌に注意)
※医薬品・サプリは効果を保証するものではありません。基礎疾患・妊娠中・服薬中は医療者に相談しましょう。

医療機関ではどう評価・検査する?
耳鼻咽喉科では、鼻内視鏡やCTで嗅裂閉塞の有無を確認し、必要に応じて嗅覚検査、電気味覚検査(EGM)、味覚ストリップなどを組み合わせます。
薬剤性・亜鉛欠乏・貧血・甲状腺機能などの血液検査も重要です。

味覚障害の医学的治療は何がある?
鼻内炎症がある時期の局所治療は?
発症後1〜2か月以内に嗅裂炎症が残るケースでは、耳鼻咽喉科で局所ステロイド投与+鼻洗浄が行われることがあります。構造的な異常がなければ、その後は嗅神経性障害を想定して嗅覚トレーニングなどを継続します。
亜鉛は効くの?
重要なポイント:亜鉛欠乏が確認された味覚障害では、亜鉛補充が有効となる症例・臨床研究の蓄積があります(酢酸亜鉛・ポラプレジンクなど)。一方、COVID-19特異的な味覚障害での確立治療ではないため、血清亜鉛値や症状を見ながら過量・漫然投与を避けるのが原則です。
先進的・探索的アプローチはある?
- 修正型嗅覚トレーニング:異嗅症に有効性を示す報告。再現性や最適プロトコルは研究継続中。
- 星状神経節ブロック(SGB):小規模研究・臨床試験が進行中の段階で、有効性は確立前。適応は専門医で検討。
- PRP・外科的介入(機能的鼻中隔形成術等):一部で報告あるも、適応は限定的で検証段階。

動脈の“早期老化”の話題は本当?
大規模国際共同研究(CARTESIAN:EHJ掲載)では、COVID-19既往者で大動脈スティフネス(PWV)上昇=早期血管老化の所見が報告され、女性で顕著でした。
長期的な心血管ケア(血圧・脂質管理、生活習慣改善)の重要性が示唆されています。

復職・学校復帰はどう組み立てる?
復帰は段階的に。仕事内容・勤務時間・通勤負荷を調整し、ペーシングや合理的配慮(席替え、静かな作業環境、リモート併用、面談頻度の確保等)を取り入れます。
症状日誌や短時間タスク(ポモドーロ・法)の導入が実践的です。国内外のレビューでも、復職支援は“長期戦略”が推奨されています。

いつ受診すべき?危険なサインはある?
- 胸痛・息切れの悪化・強い動悸・片側の脱力や構音障害(心血管・神経疾患を鑑別)
- 発熱の遷延・体重減少・高度の倦怠感(感染・膠原病・内分泌など)
- 味覚障害が1か月以上続く、食事量低下や口腔症状を伴う(耳鼻咽喉科・歯科口腔外科に相談)
(厚労省手引きの除外診断の考え方に準拠。)

味覚障害の実践プロトコルはどう組む?
時期 | 対応 | ポイント |
---|---|---|
0〜4週 | 感染急性期の安静、口腔ケア、栄養・水分、症状日誌 | 無理な運動再開は避ける |
4〜8週 | 耳鼻咽喉科受診(必要時)。鼻内炎症あれば局所治療+鼻洗浄。 嗅覚トレーニング開始(1日2回)。 |
香り4種×各20秒・3〜6か月継続 |
8週〜 | 嗅覚・味覚検査、血液検査。亜鉛低値なら補充を検討。 | 漫然投与は避けモニタリング |
3か月〜 | 機能回復に合わせて段階的に食の楽しみを再構築 | 食感・温度・香りのレイヤー |
(介入の導入タイミングと内容は厚労省手引き・日本鼻科学会等の推奨に沿って調整。)

クイズで理解度チェック
Q1:Long COVIDの定義で最も適切なのは?
- A. 発症直後から2週間続く症状の総称
- B. 発症3か月時点で評価し、少なくとも2か月持続し、他疾患で説明できない症状
- C. 重症例だけに見られる後遺症
- D. PCR陽性が続く期間の症状
【解説】WHO/厚労省の定義では、発症(または感染)からおおむね3か月で評価し、症状が少なくとも2か月続き、他疾患で説明できない場合を指します。
Q2:味覚障害の自己対処として最も推奨される基本は?
- A. 無臭食に限定して休ませる
- B. 修正型を含む嗅覚トレーニングを継続する
- C. 辛味の強い食品だけを増やす
- D. サプリを大量摂取する
【解説】嗅覚と味覚は密接に関連します。バラ・レモン・ユーカリ・クローブ等の香りを用いた嗅覚トレーニングは安全性が高く、まず取り組みやすい基本介入です。
Q3:亜鉛補充の位置づけとして適切なのは?
- A. すべての味覚障害に高用量で必須
- B. 低亜鉛血症が確認された場合に検討
- C. 小児と妊婦には必ず投与
- D. COVID特異的治療として確立
【解説】亜鉛は欠乏時の味覚障害に有用ですが、漫然投与は避け、血清亜鉛値や症状をモニタリングしながら適切用量で行います。
Q4:味覚障害の受診タイミングとして最も適切なのは?
- A. 1週間続いたら必ず救急受診
- B. 1か月以上続く、または日常生活に支障が大きい場合に耳鼻咽喉科で評価
- C. 半年は様子を見るべき
- D. 歯科だけに相談すれば十分
【解説】持続する味覚障害は耳鼻咽喉科で嗅覚・味覚検査、鼻内所見、血液検査(亜鉛・鉄・ビタミン等)を含めて評価します。
Q5:Long COVIDの活動再開で推奨される考え方は?
- A. 体力作りのため早期に高強度運動を導入
- B. ペーシング(活動量の調整)と段階的再開
- C. 完全安静を長期継続
- D. 就労・就学は症状に関係なく即時フル復帰
【解説】症状は波打つため、無理のない活動計画(ペーシング)と段階的な復帰が推奨されます。PEMがある場合は特に慎重に。
Q6:味覚が「苦く金属っぽい」など異常に感じる現象の説明として適切なのは?
- A. 典型的な嗅覚過敏
- B. 異味症(ディスゲウジア)や嗅覚側の異嗅症が関与
- C. 必ず神経変性疾患の進行
- D. 心因性のみ
【解説】味そのものの障害(異味症)に加え、風味知覚を司る嗅覚の異常(異嗅症)が味の感じ方に大きく影響します。
Q7:初期介入として妥当性の低い選択肢はどれ?
- A. 鼻洗浄や鼻内の局所ケア(必要時)
- B. 嗅覚トレーニングの計画的な継続
- C. 血液検査で欠乏の有無を確認したうえでの亜鉛補充
- D. 科学的根拠が乏しい高額療法の先行的実施
【解説】安全性・有効性が確立していない高額療法を先に行うのは妥当ではありません。まずは推奨度の高い基本介入を継続します。
まとめ
- 重要なポイント:新型コロナ後遺症は3か月時点で見直し、除外診断を徹底。
- 味覚障害は嗅覚の影響が大きい。嗅覚トレーニングや鼻腔ケアを継続し、原因検索を同時進行。
- 亜鉛は欠乏がある場合に補充。漫然投与は避け、モニタリングを行う。
- 女性では心血管の長期見守りが示唆。生活習慣・血圧・脂質管理の基本を大切に。
- 再感染予防(ワクチン・換気・手洗い・マスク)は次の後遺症を防ぐ鍵。

よくある質問
味覚がほぼ戻らない…どのタイミングで受診すべき?
発症1か月以上続く場合は耳鼻咽喉科へ。鼻内炎症の評価、嗅覚・味覚検査、血液検査(亜鉛・鉄・ビタミン・甲状腺など)で原因を絞ります。 15
嗅覚トレーニングはどれくらい継続する?
まず3か月、できれば6か月を目標に。香りは4種を基本に、途中で種類や濃度を工夫する修正型も報告されています。 16
サプリは何を選べば良い?
亜鉛欠乏があるときは医療者の指示で補充を。自己判断の過量摂取はNG。薬との相互作用・腎機能など個別事情も確認を。 17
ワクチンは後遺症予防に役立つ?
観察研究・メタ解析でリスク低下が示唆されます。最新の推奨に沿って接種しましょう。 18
運動は再開しても大丈夫?
倦怠感や労作後増悪(PEM)がある場合はペーシング優先。症状が安定してから、低強度・短時間から段階的に。 19
参考文献
- 新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第3.1版(厚生労働省)
- 新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(厚生労働省ポータル)
- Post COVID-19 condition(WHO)
- Long COVID Basics(CDC)
- Long COVID Signs and Symptoms(CDC)
- NICE NG188: Managing the long-term effects of COVID-19
- 嗅覚障害診療ガイドライン(第2版) 日本鼻科学会(J-STAGE)
- Modified Olfactory Training Is an Effective Treatment of COVID-19 Parosmia(Altundag 2022)
- Effect of Classical Olfactory Training in COVID-19 Related OD(Mogensen 2023)
- Recovery rates and long-term olfactory dysfunction after COVID-19(2024)
- Accelerated vascular ageing after COVID-19 infection: CARTESIAN(EHJ 2025)
- ESC Press Release: Covid infection ages blood vessels(2025)
- 低亜鉛血症を伴う味覚障害の症例報告(J-STAGE)
- Effect of pre/post COVID vaccination on Long COVID(2024)
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