「ボルズィはデエビゴと何が違う?」
「半減期が短いなら翌朝は眠くなりにくい?」「食後に飲んでもいい?」「クラリスと一緒でも大丈夫?」
ボルズィ錠(一般名:ボルノレキサント)は、2025年11月に販売開始となった不眠症治療薬です。ベルソムラ、デエビゴ、クービビックと同じオレキシン受容体拮抗薬に分類されます。
薬剤師実務では「新しい睡眠薬」というだけでなく、半減期約2.1時間という薬物動態、食事によるTmax遅延、CYP3A4相互作用、中等度肝機能障害での用量調整まで押さえておくと、処方意図や服薬指導がかなり読みやすくなります。
この記事の結論
- ボルズィはOX1・OX2受容体の両方を遮断するオレキシン受容体拮抗薬
- 通常は5mgを1日1回、就寝直前。最大10mg
- 健康成人10mg単回投与ではTmax中央値0.5時間、半減期約2.13時間
- 食事と同時・食直後は避ける。食後ではTmaxが約1時間遅延
- 中程度CYP3A阻害薬併用時は2.5mg
- Child-Pugh Bでは2.5mg、Child-Pugh Cは禁忌
- クラリスロマイシン、アゾール系抗真菌薬、パキロビッド、ゾコーバなど併用禁忌薬がある
- グレープフルーツジュースと飲酒は要注意
- 半減期が短いことは重要な特徴だが、「中途覚醒には弱い」「他剤より必ず翌朝眠くならない」と単純に断定しない



- ボルズィとは?まず基本情報を整理
- 作用機序|ボルズィはOX1・OX2の両方を遮断する
- 薬物動態|Tmax 0.5時間、半減期約2.13時間
- 臨床試験ではどのくらい効いた?5mgと10mgの違い
- 食事の影響|食後はTmaxが約1時間遅れる
- デエビゴ・クービビック・ベルソムラとの違い
- 処方意図をどう読む?薬剤師が考えたい5つの視点
- 薬剤師の監査・確認事項|処方箋を見たらここを確認
- 相互作用|CYP3A4は必ず見る
- 肝機能障害|Child-Pugh Bは2.5mg、Cは禁忌
- 副作用|傾眠・悪夢・めまい・睡眠時麻痺を確認
- 疑義照会を考えたい処方例|薬剤師実務での見落としポイント
- 服薬指導|患者さんにはこう説明する
- 飲み忘れたら?夜中に追加で飲んでいい?
- よくある質問
- 2.5mg・5mg・10mgはどう使い分ける?
- 高齢者では2.5mgから?必ずしもそうではない
- ナルコレプシー・カタプレキシーで注意する理由
- 睡眠時無呼吸がある患者は?
- 悪夢・金縛りはなぜ起こる?
- 翌朝の運転はどう説明する?
- 食後すぐ飲むとどうなる?夜食にも注意
- 飲酒とボルズィ|「少量ならOK」とは言わない
- グレープフルーツジュースはなぜダメ?
- 実際の処方で考える|追加5ケース
- 2026年10月はまだ14日制限|11月から変わる
- 長く飲み続ける場合の考え方
- 睡眠日誌で効果判定すると分かりやすい
- 薬剤師向けまとめ|ボルズィ処方を見たら「半減期」より先に確認したいこと
- 参考文献・一次情報
ボルズィとは?まず基本情報を整理
2026年9月時点の電子添文では、ボルズィ錠2.5mg・5mg・10mgの3規格があり、成人では5mgを就寝直前に1日1回が基本です。症状に応じて増減できますが、10mgを超えません。
作用機序|ボルズィはOX1・OX2の両方を遮断する
オレキシンA・Bは、覚醒の維持に関わる神経ペプチドです。ボルノレキサントはOX1受容体とOX2受容体の両方に拮抗し、オレキシンによる覚醒シグナルを弱めることで、覚醒状態から睡眠へ移行しやすくすると考えられています。
電子添文に記載されたヒト受容体への結合親和性Ki値は、OX1が0.460nmol/L、OX2が0.374nmol/Lです。
重要:ボルズィを「OX2だけを選択的に遮断する薬」と説明するのは正確ではありません。電子添文上はOX1・OX2の両受容体に対する拮抗薬です。

薬物動態|Tmax 0.5時間、半減期約2.13時間
健康成人男性にボルズィ10mgを空腹時単回投与した試験では、以下の薬物動態が示されています。
| 項目 | 10mg単回投与 | 実務での見方 |
|---|---|---|
| Tmax | 中央値0.5時間 | 吸収は比較的速い |
| Cmax | 279±96.7ng/mL | 曝露量評価の指標 |
| AUC0-∞ | 720±237ng・h/mL | 総曝露量 |
| 消失半減期 | 2.13±0.185時間 | DORA4剤の中では短い |
7日間反復投与でも半減期は約2.0時間で、大きな蓄積は目立ちません。
「半減期が短い=翌朝絶対眠くない」ではない
半減期が短いことは、翌朝の曝露が小さくなりやすいという点で重要です。実際、健康成人を対象とした試験では、10mgを就寝前に投与した翌朝の運転技能、健康高齢者での平衡機能・認知機能・記憶への明確な低下は認められませんでした。
ただし電子添文では、眠気・注意力・集中力・反射運動能力低下が起こり得るため、運転の適否は患者状態を踏まえて慎重に判断し、眠気がある場合は運転しないよう指導することとされています。
したがって、「ボルズィなら運転して大丈夫」と一律に説明するのは不適切です。
臨床試験ではどのくらい効いた?5mgと10mgの違い
国内第III相試験では、不眠症患者590例を対象に、ボルズィ5mg、10mg、プラセボを1日1回就寝前に14日間投与しました。
| 評価項目 | プラセボ | 5mg | 10mg |
|---|---|---|---|
| ベースラインの主観的睡眠潜時 | 58.9分 | 57.0分 | 58.6分 |
| 投与2週時 | 50.2分 | 38.4分 | 39.7分 |
| ベースラインからの変化量 | -8.6分 | -19.2分 | -18.7分 |
プラセボとの差は5mg群で-10.6分、10mg群で-10.1分で、いずれも統計学的に有意でした。
ここで大切なのは、10mgに増やせば5mgの2倍効くわけではないということです。この試験の主観的睡眠潜時では5mgと10mgの改善量は近く、長期投与試験では傾眠が5mg群3.8%に対して10mg群11.5%でした。


52週間の長期投与データ
国内長期投与試験では、不眠症患者367例に5mgまたは10mgを最大52週間投与しています。副作用発現割合は5mg群10.3%、10mg群18.0%。主な副作用は傾眠でした。
「新薬だから長期データが全くない」というわけではありませんが、症状が改善した場合には漫然投与せず、継続の必要性を見直すことが電子添文でも求められています。
食事の影響|食後はTmaxが約1時間遅れる
健康成人男性に10mgを空腹時と食後で投与した試験では、食後でもCmaxは大きく変化しませんでしたが、AUCは約17%増加し、Tmaxは約1時間遅延しました。
このため電子添文では、「入眠効果の発現が遅れるおそれがあるため、食事と同時または食直後の服用は避ける」とされています。

デエビゴ・クービビック・ベルソムラとの違い
現在日本で使用できる主なオレキシン受容体拮抗薬4剤を、電子添文上の薬物動態を中心に整理します。
| 商品名 | 一般名 | 通常用量 | Tmaxの目安 | 半減期の目安 |
|---|---|---|---|---|
| ボルズィ | ボルノレキサント | 5mg(最大10mg) | 約0.5時間 | 約2.1時間 |
| クービビック | ダリドレキサント | 50mg(25mg可) | 約1時間 | 約6〜7時間 |
| ベルソムラ | スボレキサント | 成人20mg/高齢者15mg | 約1〜1.5時間 | 約10〜12時間 |
| デエビゴ | レンボレキサント | 5mg(最大10mg) | 約1〜3時間 | 約50時間 |
最大の違いは薬が体内に残る時間です。ただし、半減期だけで有効時間や臨床効果をそのまま比較することはできません。受容体への親和性、用量、個人差、食事、肝機能、併用薬などが影響するためです。
2026年にはボルズィとデエビゴを実臨床で比較する前向き研究も登録されていますが、現時点では結果が出ていません。したがって「ボルズィは入眠専用」「デエビゴは睡眠維持専用」といった単純な序列ではなく、各薬の薬物動態と患者背景を合わせて考えるのが安全です。
関連記事:クービビック(ダリドレキサント)の効果・副作用・服薬指導
処方意図をどう読む?薬剤師が考えたい5つの視点
処方箋だけから医師の意図を断定はできませんが、ボルズィが選択された背景として次のような点を考えると、患者確認につなげやすくなります。
1.これまでの睡眠薬で翌朝の眠気が問題だった
短い半減期を考えると、翌朝の持ち越しを意識した薬剤選択である可能性があります。ただし「眠気が必ず減る」と決めつけず、変更後の患者の実感を確認します。
2.就寝前に速やかな吸収を期待している
Tmax中央値は0.5時間です。寝付きの問題がある患者で選択されることは考えられますが、効果の強さをTmaxだけで判断しません。
3.ベンゾジアゼピン系・Z薬の見直し
長期使用中のベンゾジアゼピン系等から別機序へ変更する処方もあります。ただし、以前の睡眠薬を急に中止した場合は反跳性不眠や離脱症状が問題になることがあるため、処方変更内容と服用歴を確認します。
4.CYP3A相互作用を踏まえた2.5mg処方
ボルズィ2.5mgを見たら、「少量だから高齢者用」と決めつけないことが重要です。電子添文では、中程度CYP3A阻害薬併用時と中等度肝機能障害(Child-Pugh B)で2.5mgと明記されています。
5.症状改善後の減量
通常用量を超えて増量した場合は、症状改善に伴って減量に努めるよう記載されています。継続時には「今も同じ量が必要か」という視点も重要です。
薬剤師の監査・確認事項|処方箋を見たらここを確認
ボルズィ初回・変更時チェックリスト
- □ 用量は5mgか。2.5mgなら理由があるか
- □ 就寝直前に服用できる生活リズムか
- □ 夜中に起きて仕事・運転をする予定がないか
- □ 食事・夜食の直後に飲んでいないか
- □ CYP3A阻害薬・誘導薬がないか
- □ クラリスロマイシン、アゾール系、パキロビッド、ゾコーバ等の併用禁忌がないか
- □ グレープフルーツジュースを常飲していないか
- □ 飲酒習慣がないか
- □ 肝機能障害の有無
- □ ナルコレプシー・カタプレキシーの有無
- □ 呼吸機能障害・睡眠時無呼吸の状況
- □ 他の睡眠薬・抗不安薬・鎮静薬を併用していないか
- □ 翌朝の眠気、ふらつき、転倒、悪夢、睡眠麻痺の有無
相互作用|CYP3A4は必ず見る
ボルノレキサントは主にCYP3A4で代謝されます。薬剤師として特に重要なのは「併用禁忌」と「2.5mgへ減量が必要な併用注意」を区別することです。
併用禁忌の代表例
- イトラコナゾール
- ポサコナゾール
- ボリコナゾール
- クラリスロマイシン
- リトナビル含有製剤(パキロビッド等)
- エンシトレルビル(ゾコーバ)
- コビシスタット含有製剤
- セリチニブ
イトラコナゾール併用試験では、用量補正後のボルノレキサントAUCが約12.2倍に増加しました。ここは単なる「少し眠くなりやすい」レベルではなく、処方監査で確実に拾いたいポイントです。
中程度CYP3A阻害薬なら2.5mg
- フルコナゾール
- エリスロマイシン
- ベラパミル など
これらと併用する場合、電子添文上はボルズィを1日1回2.5mgとします。
グレープフルーツジュース
グレープフルーツジュースは併用注意です。CYP3Aを介してボルノレキサント濃度が上昇し、作用が増強するおそれがあります。
飲酒
アルコールは精神運動機能を相加的に低下させる可能性があるため、電子添文では服用時の飲酒を避けるよう記載されています。
肝機能障害|Child-Pugh Bは2.5mg、Cは禁忌
肝機能障害では曝露量が上昇します。中等度肝機能障害(Child-Pugh B)では、非結合型ボルノレキサントのAUCが健康成人の約3倍となり、半減期も約4.92時間まで延長しました。
| 肝機能 | 実務上の扱い |
|---|---|
| Child-Pugh A | 血中濃度上昇に注意 |
| Child-Pugh B | 1日1回2.5mg |
| Child-Pugh C | 禁忌 |
副作用|傾眠・悪夢・めまい・睡眠時麻痺を確認
電子添文では、3%以上の副作用として傾眠が記載されています。そのほか悪夢、浮動性めまい、睡眠時麻痺、倦怠感などがあります。
国内第III相試験では、副作用発現割合は5mg群5.1%、10mg群6.6%。主な副作用は傾眠で、5mg群3.1%、10mg群3.6%でした。
長期投与試験では10mg群で傾眠が11.5%にみられており、増量後に眠気が増えていないかはフォローしたいところです。
疑義照会を考えたい処方例|薬剤師実務での見落としポイント
ケース1:ボルズィ5mg+クラリスロマイシン
併用禁忌です。クラリスロマイシンは強いCYP3A阻害作用を持ち、ボルノレキサントの血漿中濃度が顕著に上昇するおそれがあります。処方元が異なる場合でも、そのまま交付せず確認が必要です。
ケース2:ボルズィ5mg+ベラパミル
ベラパミルは中程度CYP3A阻害薬です。電子添文では、このような薬剤と併用する場合のボルズィは1日1回2.5mgとされています。5mg処方なら、患者背景と処方意図を確認したい組み合わせです。
ケース3:Child-Pugh Bでボルズィ5mg
中等度肝機能障害では2.5mgとされているため、5mg処方であれば確認対象です。単にAST・ALTが少し高いだけでChild-Pugh Bと決めるわけではないため、病歴や医療機関情報を踏まえます。
ケース4:ボルズィ10mgへ増量後に「朝ふらつく」
傾眠は用量増加で増える可能性があります。睡眠の改善度、翌朝の眠気、転倒リスク、運転の有無を確認し、必要に応じて処方医へ情報提供します。
ケース5:夜中に必ず起きて仕事をする患者
電子添文では、服用して就寝した後に一時的に起床して仕事等で活動する可能性があるときは服用させないこととされています。夜間呼び出しや交代勤務のある患者では、生活パターンの確認が重要です。
疑義照会の考え方
「新しい睡眠薬だから」ではなく、用量の根拠・CYP3A・肝機能・服用後の生活行動を軸に見ると、疑義照会すべき処方か判断しやすくなります。
服薬指導|患者さんにはこう説明する


服薬指導では、最低限以下を押さえます。
- 寝る直前に飲む
- 夕食や夜食の直後は避ける
- 服用後に途中で起きて仕事をする予定がある日は服用しない
- 飲酒は避ける
- グレープフルーツジュース、他院薬、市販薬も確認する
- 翌朝の眠気・ふらつきがあれば運転しない
- 悪夢、金縛りのような症状、強い眠気が続けば相談する
- 自己判断で増量しない
患者さんへの説明例
「この薬は、脳の“起きている状態を保つ働き”を弱めて眠りやすくするタイプの睡眠薬です。寝る直前に飲んでください。食事のすぐ後だと効き始めが遅れることがあるので、夕食や夜食の直後は避けましょう。翌朝に眠気やふらつきが残る場合は、車の運転をせず、次回受診時や薬局で相談してください。」
飲み忘れたら?夜中に追加で飲んでいい?
ボルズィは「就寝直前」に服用する薬です。飲み忘れに夜中に気づいても、服用後に十分な睡眠時間を確保できない場合や、途中で起きて活動する予定がある場合は適しません。
自己判断で翌日に2回分まとめて飲んだり、夜中に追加服用したりせず、処方医・薬剤師へ確認してください。
よくある質問
Q1.ボルズィとデエビゴの一番大きな違いは?
薬物動態では半減期が大きく異なります。ボルズィは約2.1時間、デエビゴは約50時間です。ただし、半減期だけで「どちらが効く」「どちらが睡眠維持に強い」と断定はできません。
Q2.ボルズィは翌朝眠くなりにくい?
短い半減期は翌朝への持ち越しを考えるうえで特徴の1つです。一方、傾眠は副作用として報告されており、個人差もあります。翌朝に眠気がある場合は運転等を避けます。
Q3.食後に飲んでもいい?
食事と同時または食直後は避けます。食後投与ではTmaxが約1時間遅れ、入眠効果の発現が遅れるおそれがあるためです。
Q4.ボルズィ2.5mgは高齢者用?
「高齢者だから2.5mg」とは限りません。中程度CYP3A阻害薬併用時、またはChild-Pugh Bの中等度肝機能障害では2.5mgとされています。
Q5.クラリスロマイシンと一緒に飲める?
併用禁忌です。処方元が異なる場合も、薬局で必ず併用薬を確認してください。
Q6.グレープフルーツは?
グレープフルーツジュースは併用注意です。薬の作用が強く出るおそれがあります。
Q7.睡眠時無呼吸があっても使える?
軽度の閉塞性睡眠時無呼吸患者を対象とした試験では、10mgで臨床的に意義のある呼吸機能への影響は認められませんでした。一方、その他の呼吸機能障害患者では臨床試験が実施されていないため、個別に医師が判断します。
Q8.いつまで14日制限?
電子添文の保険給付上の注意では、2026年10月末日までは1回14日分が限度とされています。2026年11月以降はこの新薬の投薬期間制限が外れる予定です。

2.5mg・5mg・10mgはどう使い分ける?
ボルズィには2.5mg、5mg、10mgの3規格がありますが、単純に「軽症=2.5mg、普通=5mg、重症=10mg」という使い分けではありません。
| 規格 | 主な位置づけ | 薬剤師が見るポイント |
|---|---|---|
| 2.5mg | 中程度CYP3A阻害薬併用時、Child-Pugh Bなど | 「少量処方の理由」を確認 |
| 5mg | 通常開始量 | 効果・翌朝眠気・ふらつきを確認 |
| 10mg | 症状に応じ増量 | 傾眠増加に注意し、改善後は減量も検討 |
添付文書では、通常量を超えて増量する場合は傾眠などの副作用増加に注意し、症状が改善したら減量に努めるよう記載されています。10mgが「標準の強さ」ではなく、5mgで不十分な場合などに患者状態を見ながら使う用量と理解すると整理しやすいです。
高齢者では2.5mgから?必ずしもそうではない
ボルズィ2.5mgを見ると「高齢者用の低用量」と思いがちですが、添付文書上、高齢者だから一律2.5mgという規定はありません。健康高齢者を含む薬物動態試験では、非高齢者と比べて高齢者でCmaxやAUCが高い傾向は認められませんでした。
ただし実臨床では、高齢者は転倒、夜間トイレ、併用薬、認知機能、肝機能、睡眠時無呼吸など複数の要素を抱えやすいため、翌朝の眠気やふらつきは丁寧に確認します。
「高齢だから2.5mg」ではなく、2.5mgならCYP3A相互作用や肝機能障害の有無も確認する。
ナルコレプシー・カタプレキシーで注意する理由
オレキシンは覚醒維持に深く関わるため、ナルコレプシーやカタプレキシーのある患者では症状を悪化させるおそれがあり、添付文書でも注意対象です。
患者から「日中に突然眠り込む」「笑ったときに力が抜ける」といった症状がある場合は、単なる不眠症の自己申告として処理せず、既往歴や診断歴を確認します。
睡眠時無呼吸がある患者は?
軽度の閉塞性睡眠時無呼吸患者を対象とした試験では、承認用量10mgで臨床的に重要な呼吸機能への影響は認められていません。一方、その他の呼吸機能障害患者を対象とした臨床試験は実施されていません。
強いいびき、無呼吸の指摘、日中の強い眠気がある患者では、「睡眠薬を足せば解決」と考えず、睡眠時無呼吸そのものの評価・治療が必要になることがあります。
悪夢・金縛りはなぜ起こる?
ボルズィの副作用として悪夢や睡眠時麻痺が記載されています。睡眠時麻痺はいわゆる「金縛り」のように、意識があるのに身体を動かしにくい状態として自覚されることがあります。
オレキシン受容体拮抗薬では睡眠・覚醒の切り替えに作用するため、このような症状がみられることがあります。患者さんが「怖い夢をよく見るようになった」「目は覚めているのに体が動かない」と訴えた場合は、発現時期と服用開始・増量の関係を確認します。
翌朝の運転はどう説明する?
ボルズィ10mgでは、健康成人を対象とした運転技能試験で投与9時間後の主要評価指標に明確な悪化は認められませんでした。ただし、これは「全員が運転してよい」という意味ではありません。
添付文書では、不眠症そのものや本剤の影響によって眠気、注意力・集中力・反射運動能力の低下が起こる可能性があるため、運転の適否を慎重に判断し、眠気がある場合は危険を伴う機械操作をしないよう指導することとされています。
「翌朝に眠気やぼんやり感が残るときは、車の運転や危険な作業はしないでください。薬が短く抜けるタイプでも個人差があります。」
食後すぐ飲むとどうなる?夜食にも注意
ボルズィ10mgを食後に投与した試験では、空腹時と比べてTmaxが約1時間遅れました。そのため、寝る直前でも食事と同時・食直後の服用は避ける必要があります。
意外と見落としやすいのが夜食です。夕食から時間が空いていても、寝る前にラーメンやお菓子を食べ、その直後にボルズィを飲むと、入眠効果の発現が遅れる可能性があります。
飲酒とボルズィ|「少量ならOK」とは言わない
アルコールとボルズィはどちらも中枢神経系の働きを抑える方向に作用します。添付文書では、精神運動機能の相加的低下を生じる可能性があるため、服用時の飲酒を避けるよう記載されています。
「晩酌した後に寝る前だけ睡眠薬」という使い方をしている患者には、飲酒量だけでなく、薬との併用を避ける必要性を具体的に説明します。
グレープフルーツジュースはなぜダメ?
グレープフルーツジュースは腸管のCYP3A活性を阻害し、ボルノレキサントの代謝を抑えて血中濃度を高める可能性があります。結果として、眠気やふらつきなどの作用が強く出るおそれがあります。
「薬と一緒に飲まなければ大丈夫」と単純化せず、常飲している場合は医師・薬剤師へ相談するよう説明します。
実際の処方で考える|追加5ケース
ケース6:75歳、ボルズィ5mg初回
年齢だけで2.5mgに減量する規定はありません。ただし夜間頻尿、転倒歴、他の鎮静薬、飲酒、認知機能などを確認します。
ケース7:ボルズィ2.5mg+フルコナゾール
中程度CYP3A阻害薬併用時の用量として整合します。少量処方だから疑問に思うのではなく、「相互作用を踏まえた処方か」を確認します。
ケース8:ボルズィ5mg服用中、ゾコーバが新規処方
エンシトレルビルは併用禁忌です。別医療機関からの処方でも見逃さず、必ず処方医へ確認します。
ケース9:寝る前に毎晩缶ビール
服用時の飲酒は避ける必要があります。睡眠の質そのものも飲酒で悪化し得るため、睡眠薬だけでなく飲酒習慣も確認します。
ケース10:夜中2時に目が覚めて「追加で飲みたい」
ボルズィは就寝直前に服用する薬です。夜間覚醒時の追加服用を自己判断で行う薬ではありません。翌朝の活動時間や安全性にも関わるため、追加服用せず処方医・薬剤師に相談します。
2026年10月はまだ14日制限|11月から変わる
ボルズィは新医薬品のため、2026年10月末日までは1回14日分が投薬上限です。現在は2026年10月なので、薬局実務ではまだこの制限を意識する必要があります。
2026年11月以降はこの新薬の14日投薬期間制限から外れる予定のため、今月と来月で処方日数の扱いが変わる点は重要です。
長く飲み続ける場合の考え方
国内長期試験では最大52週間のデータがありますが、添付文書では症状が改善した場合、投与継続の要否を検討し、漫然投与しないよう注意されています。
睡眠薬は「毎日飲めているか」だけでなく、入眠までの時間、中途覚醒、総睡眠時間、日中機能、翌朝の眠気をセットで評価し、現在も同じ用量が必要か見直します。
睡眠日誌で効果判定すると分かりやすい
| 項目 | 確認例 |
|---|---|
| 入眠潜時 | 布団に入ってから眠るまで何分? |
| 中途覚醒 | 夜中に何回起きる? |
| 総睡眠時間 | 実際に何時間眠れた? |
| 翌朝の眠気 | 起床後にぼんやり・ふらつきは? |
| 日中機能 | 仕事・運転・集中力に影響は? |
「眠れた・眠れない」だけでは効果判定が難しいため、具体的な時間や回数で確認すると処方調整につなげやすくなります。
薬剤師向けまとめ|ボルズィ処方を見たら「半減期」より先に確認したいこと
- 基本は5mg・就寝直前
- 食事と同時・食直後は避ける
- 半減期は約2.13時間
- OX1・OX2両受容体の拮抗薬
- 主代謝はCYP3A4
- 中程度CYP3A阻害薬併用時は2.5mg
- Child-Pugh Bは2.5mg、Cは禁忌
- 強いCYP3A阻害薬には併用禁忌が多数
- グレープフルーツジュース・飲酒を確認
- 翌朝の眠気・ふらつき・悪夢・睡眠時麻痺をフォロー
- 「半減期が短い=中途覚醒に弱い」と単純化しない

参考文献・一次情報
- PMDA:ボルズィ錠2.5mg/5mg/10mg 医療用医薬品情報
- PMDA:ボルズィ電子添文
- PMDA:ボルズィ審査報告書
- PMDA:デエビゴ医療用医薬品情報
- PMDA:ベルソムラ医療用医薬品情報
- PMDA:クービビック医療用医薬品情報
※本記事は2026年9月時点の電子添文・PMDA審査資料等をもとに、薬剤師向け実務情報と一般向け解説を整理したものです。個別の治療方針や薬剤選択は、実際に診察した医師・薬剤師の判断を優先してください。



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