熱中症になりやすい薬はある?利尿薬・抗コリン薬・向精神薬を服用中の注意点
この記事で紹介する薬を飲んでいても、必ず熱中症になるわけではありません。反対に、暑いからといって処方薬を自己判断で中止すると、心不全、高血圧、排尿障害、パーキンソン病、うつ病、統合失調症、双極性障害などが悪化するおそれがあります。薬を止めたり、服用回数を減らしたり、服用時間を変更したりする前に、必ず処方医または薬剤師へ相談してください。


この記事で分かること
- 薬によって熱中症のリスクが高くなる可能性がある理由
- 利尿薬、抗コリン薬、向精神薬を飲んでいる人の注意点
- 薬の名前が分からないときの確認方法
- 自己判断で薬を中止してはいけない理由
- 熱中症が疑われるときの応急処置と救急要請の目安
- 薬局で薬剤師に相談するときに伝える内容
前書き|「熱中症になりやすい薬」はあります
結論からいうと、薬の作用によって、熱中症や脱水を起こしやすくなる可能性はあります。
厚生労働省が公開している「熱中症診療ガイドライン2024」では、熱中症のリスクを考える際に、高齢、心疾患、精神疾患、糖尿病などの病気だけでなく、降圧薬、利尿薬、向精神薬などの使用も検討すべき要因として挙げられています。
観察研究では、利尿薬、抗精神病薬、抗うつ薬、抗コリン薬などの服用と、熱中症または脱水による入院の増加との関連が報告されています。ただし、これらは主に観察研究であり、「その薬だけが原因だった」と断定できるものではありません。薬を必要とする基礎疾患や、年齢、住環境、体力、水分摂取量なども影響します。【[1]】
薬そのものが直接「熱中症を起こす」というより、薬の作用によって、体内の水分が減る、汗が出にくくなる、暑さに気づきにくくなる、体温をうまく調節しにくくなることがあります。
したがって、重要なのは「薬を飲んでいるから怖い」と考えることではありません。
薬を飲んでいる人は、自分が熱中症のハイリスクになる可能性を知り、暑さを避ける、水分摂取について主治医と相談する、体調の変化を早めに見つけることが大切です。

熱中症全体の症状、重症度、予防方法については、次の記事も参考にしてください。
関連記事:薬剤師が徹底解説|熱中症の予防・応急処置・症状の見分け方
そもそも熱中症はなぜ起こるの?


人の体温が上がると、体は主に次の方法で熱を外へ逃がそうとします。
- 汗をかき、汗が蒸発するときに熱を逃がす
- 皮膚の血管を広げ、体の中心部の熱を皮膚へ運ぶ
- のどの渇きを感じて水分を補給する
- 暑い場所から移動し、休憩する
ところが、暑さや湿度が強すぎたり、汗で水分や塩分が失われたりすると、体温調節が追いつかなくなります。環境省は、体温の上昇と体温調節機能のバランスが崩れ、体に熱がたまった状態を熱中症と説明しています。【[2]】
薬が影響する主な4つのパターン
| 薬の影響 | 体で起こること | 代表的な薬のグループ |
|---|---|---|
| 尿として水分を出しやすくする | 汗による水分喪失が重なると、脱水や血圧低下を起こしやすくなる | 利尿薬、一部の糖尿病薬 |
| 汗を出しにくくする | 汗による体温調節が妨げられ、体内に熱がこもる可能性がある | 抗コリン作用を持つ薬 |
| 暑さへの気づきや行動を遅らせる | 眠気、ぼんやり、ふらつきなどにより、水分補給や避難が遅れる | 睡眠薬、抗不安薬、抗精神病薬など |
| 脳の体温調節や自律神経に影響する | 体温調節が不安定になる可能性がある | 一部の抗精神病薬、抗うつ薬など |
複数の薬を飲んでいる場合は、作用が重なることがあります。特に高齢者では、利尿薬に加えて、眠気が出る薬、抗コリン作用を持つ薬、血圧を下げる薬などを併用していることが少なくありません。
熱中症に注意したい薬の早見表
次の表は、薬剤師へ相談するきっかけを作るための早見表です。薬の危険度を順位付けしたものではなく、掲載されていない薬が安全という意味でもありません。
| 薬のグループ | 代表例 | 考えられる影響 | 確認したい変化 |
|---|---|---|---|
| ループ利尿薬 | フロセミド、アゾセミド、トラセミドなど | 尿量増加、脱水、電解質異常、血圧低下 | 体重減少、口渇、ふらつき、尿量減少、食欲低下 |
| サイアザイド系・類似利尿薬 | ヒドロクロロチアジド、トリクロルメチアジドなど | 脱水、低ナトリウム血症、低カリウム血症 | だるさ、筋力低下、こむら返り、ぼんやり |
| その他の利尿作用を持つ薬 | スピロノラクトン、エプレレノン、トルバプタンなど | 薬ごとに異なるが、水分・電解質バランスへ影響する | 体重、血圧、尿量、むくみ、のどの渇き |
| 過活動膀胱治療薬 | オキシブチニン、プロピベリン、ソリフェナシンなど | 抗コリン作用により汗が出にくくなる可能性 | 口渇、皮膚の乾燥、ほてり、便秘、尿が出にくい |
| 抗コリン性パーキンソン病治療薬 | トリヘキシフェニジル、ビペリデンなど | 発汗低下、口渇、便秘、尿閉、認知機能への影響 | 汗が少ない、体が熱い、ぼんやり、便秘、排尿困難 |
| 第一世代抗ヒスタミン薬 | ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、プロメタジンなど | 抗コリン作用、眠気、注意力低下 | 強い眠気、口渇、汗の減少、ふらつき |
| 三環系抗うつ薬 | アミトリプチリン、イミプラミン、クロミプラミンなど | 抗コリン作用、眠気、血圧低下など | 口渇、便秘、尿が出にくい、立ちくらみ、強い眠気 |
| 抗精神病薬 | オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、クロルプロマジンなど | 薬によって、鎮静、抗コリン作用、血圧低下、体温調節への影響 | 傾眠、ふらつき、反応低下、発熱、筋肉のこわばり |
| 睡眠薬・抗不安薬 | ベンゾジアゼピン系薬など | 眠気やふらつきにより、暑さへの対応が遅れる可能性 | 日中の眠気、転倒、反応が鈍い、水分を取らない |
| 炭酸リチウム | 炭酸リチウム | 脱水やナトリウム不足で血中濃度が上がり、中毒につながる可能性 | 手の震え、吐き気、下痢、眠気、ふらつき、ろれつが回らない |
あわせて読みたい:冷房中でも熱中症になるのはなぜ?湿度・WBGT・薬の観点から解説
注意したい薬1|利尿薬


利尿薬はどんな薬?
利尿薬は、腎臓へ働きかけ、体内の余分な水分やナトリウムを尿として排出しやすくする薬です。
主に次のような病気で使われます。
- 心不全
- 高血圧
- 腎臓病や肝臓病などに伴うむくみ
- 体内に余分な水分がたまる病気
代表的なフロセミドの電子添文には、利尿効果が急激に現れることがあるため、電解質失調や脱水に十分注意することが記載されています。【[3]】
なぜ夏に注意が必要なの?
暑い日には、汗から水分と塩分が失われます。そこへ利尿薬による尿からの水分排出が重なると、体内の水分量が減りやすくなることがあります。
特に注意したいのは、次の条件が重なったときです。
- 気温や湿度が高い
- 長時間屋外にいる
- 食欲がなく、食事や水分が取れていない
- 発熱、下痢、嘔吐がある
- エアコンを使用していない
- 高齢で、のどの渇きを感じにくい
- 腎臓病、心不全、糖尿病などがある
- 複数の利尿薬や降圧薬を使っている
利尿薬服用中に確認したい症状
- 立ち上がるとふらつく
- いつもより強い口渇がある
- 食欲がなく、ぐったりしている
- 尿が極端に少ない、または濃い
- 数日で体重が大きく減った
- 筋肉がつる、力が入りにくい
- 血圧が普段より低く、ぼんやりする
- 動悸や脈の乱れを感じる
ただし、心不全の患者さんでは、むくみ、息切れ、急な体重増加がある場合、反対に体内へ水分がたまっている可能性があります。
「利尿薬を飲んでいるから水を大量に飲む」という対応も危険な場合があります。水分制限や塩分制限を受けている人は、主治医から指示された範囲を優先してください。
利尿薬を飲んでいる人がしてはいけないこと
- 暑いからという理由だけで服用を中止する
- 尿が多いから服用回数を減らす
- 外出予定に合わせて服用時間を勝手に変更する
- 水分制限があるのに大量の水や経口補水液を飲む
- 体重や血圧の変化を確認せず、我慢を続ける
食事や水分がほとんど取れない、下痢や嘔吐が続いている、体重や血圧が大きく変化した、尿量が極端に少ない、ふらついて歩けない場合は、次の受診日を待たずに医療機関または薬局へ相談してください。
注意したい薬2|抗コリン薬
抗コリン薬とは?
抗コリン薬とは、「アセチルコリン」という神経伝達物質の働きを抑える薬の総称です。
抗コリン作用は、膀胱の収縮を抑えたり、胃腸のけいれんを和らげたり、パーキンソン症状を軽減したりするために利用されます。
一方で、アセチルコリンは汗を出す働きにも関係します。そのため、抗コリン作用が強く現れると、汗が出にくくなり、暑い環境で体温が上がりやすくなる可能性があります。
どんな薬に抗コリン作用があるの?
初心者の方が混乱しやすいのは、「抗コリン薬」という名前が薬袋に書かれているとは限らないことです。
次のようなさまざまな薬に、抗コリン作用が含まれる場合があります。
- 過活動膀胱や頻尿の治療薬
- パーキンソン病の治療薬
- 胃腸のけいれんを抑える薬
- 一部の抗ヒスタミン薬、かぜ薬、鼻炎薬
- 一部の睡眠改善薬
- 三環系抗うつ薬
- 一部の抗精神病薬
- 多汗症の治療薬
日本老年薬学会は、高齢者に頻用される薬の抗コリン作用を評価する「日本版抗コリン薬リスクスケール」を公開しています。複数の薬による抗コリン作用を合計して評価する「総抗コリン薬負荷」の考え方も示されています。【[4]】
病院からの処方薬だけでなく、市販のかぜ薬、鼻炎薬、乗り物酔い薬、睡眠改善薬などが重なることで、抗コリン作用が強くなる場合があります。お薬手帳には市販薬も記録しましょう。
多汗症の塗り薬でも注意が必要?
多汗症治療に使用する外用抗コリン薬にも、発汗抑制作用があります。
たとえば、原発性手掌多汗症治療薬のアポハイドローション20%の電子添文には、発汗が促進される環境下では、発汗抑制作用によって体温が上昇するおそれがあり、熱中症を疑う症状が現れた場合には適切な処置を行うよう患者へ指導することが記載されています。【[5]】
塗り薬だから全身への影響が絶対にない、とは言い切れません。使用部位、使用量、皮膚の状態、併用薬、年齢、暑さへの曝露などを含めて判断します。
抗コリン作用が強いときのサイン
- 口が強く渇く
- 皮膚が乾燥している
- 暑いのに汗が少ない
- 顔が赤い、ほてる
- 便秘が悪化した
- 尿が出にくい
- 目がかすむ
- 動悸がする
- ぼんやりする、混乱する
ただし、汗が出ているから熱中症ではない、と判断することもできません。熱中症では大量に汗をかくこともあれば、重症化すると発汗が目立たないこともあります。
体が熱い、汗がほとんど出ない、意識がぼんやりする、呼びかけへの反応がおかしい、動悸が強い、尿が出ないなどがある場合は、抗コリン作用の増強や熱中症を含めて緊急評価が必要です。
注意したい薬3|向精神薬


向精神薬で注意する理由
向精神薬には、抗精神病薬、抗うつ薬、睡眠薬、抗不安薬、気分安定薬など、さまざまな薬が含まれます。
熱中症への影響は一律ではありませんが、主に次の要因が重なる可能性があります。
- 抗コリン作用による発汗低下
- 鎮静や眠気による暑さへの気づきの遅れ
- 注意力低下により水分補給や避難が遅れる
- 血圧低下やふらつき
- 脳の体温調節機能への影響
- 病気の症状により、暑さ対策を自分で行いにくい
- 一人暮らしや社会的孤立により、発見が遅れる
抗精神病薬
抗精神病薬は、統合失調症、双極性障害、強い興奮、せん妄などで使用されることがあります。
薬によって程度は異なりますが、眠気、ふらつき、抗コリン作用、血圧低下などが現れることがあります。たとえばオランザピンの電子添文には、傾眠や注意力低下への注意、抗コリン作用を持つ薬との併用、脱水状態などを有する患者への注意が記載されています。【[6]】
また、抗精神病薬では、まれですが「悪性症候群」という重篤な副作用にも注意が必要です。
熱中症と悪性症候群はどう違う?
悪性症候群では、次のような症状が現れることがあります。
- 高熱
- 強い筋肉のこわばり
- 動きにくい、話しにくい
- 発汗
- 脈拍や血圧の変動
- 意識障害
高温環境にいた人では、熱中症と症状が重なるため、家庭で見分けることは困難です。
抗精神病薬の服用中に、高熱、筋肉の強いこわばり、反応がおかしい、呼吸が苦しいなどがある場合は、「ただの熱中症」と決めつけず、救急要請を検討してください。
抗うつ薬
抗うつ薬にも複数の種類があり、注意点は同じではありません。
三環系抗うつ薬は、比較的強い抗コリン作用を持つものがあり、口渇、便秘、排尿困難、眠気、ふらつきなどに注意します。アミトリプチリンの電子添文にも、口渇、眠気、ふらつき、めまい、排尿困難などが記載されています。【[7]】
SSRIやSNRIなどは、三環系抗うつ薬と比べて抗コリン作用が弱い薬が多いものの、観察研究では抗うつ薬の服用と熱中症による入院の関連が報告されています。発汗の増加、低ナトリウム血症、食欲低下など、別の要因も含めて考える必要があります。【[1]】
つまり、「抗うつ薬はすべて汗を止める」という理解は正しくありません。薬の種類、用量、併用薬、年齢、症状を個別に確認します。
睡眠薬・抗不安薬
睡眠薬や抗不安薬は、必ずしも直接的に汗を抑えるわけではありません。
しかし、日中まで眠気が残ったり、反応が鈍くなったり、ふらついたりすることで、次のような間接的リスクが考えられます。
- 室温の上昇に気づくのが遅れる
- エアコンをつける、水分を取るなどの行動が遅れる
- 暑い部屋で長時間眠り続ける
- トイレへ行くのを嫌がり、水分を控える
- ふらつきが怖くて動けず、飲み物を取りに行けない
特に一人暮らしの高齢者では、本人が「大丈夫」と言っていても、家族や支援者が室温、食事、水分、受け答えを確認することが重要です。
関連記事:エアコン嫌いの高齢者への伝え方|薬剤師が熱中症対策を解説
特に重要|炭酸リチウムと脱水
炭酸リチウムは、双極性障害などに使用される薬です。治療に必要な血中濃度と中毒を起こす濃度が近いため、定期的な血中濃度測定が必要です。
脱水、食事や水分の摂取不足、ナトリウム不足、腎機能低下などがあると、体内にリチウムがたまり、中毒を起こしやすくなる可能性があります。
電子添文には、食事や水分の摂取不足、脱水を起こしやすい状態、NSAIDsなどの併用時には、リチウム中毒が発現する可能性があることを患者や家族へ説明するよう記載されています。【[8]】
リチウム中毒の初期症状
- 手が震える
- 吐き気、嘔吐、下痢
- 食欲がない
- 強い眠気
- 意識がぼんやりする
- めまい、ふらつき
- 歩きにくい
- ろれつが回らない、言葉が出にくい
PMDAの患者向け資料では、脱水に加えて、NSAIDs、ACE阻害薬、ARB、サイアザイド系・ループ系利尿薬などが、リチウム濃度を上昇させる可能性があると説明されています。【[9]】
リチウム服用中の重要な注意
- 下痢、嘔吐、発熱、大量発汗がある
- 水分や食事を十分に取れていない
- 市販のロキソプロフェンやイブプロフェンなどを使いたい
- 利尿薬や血圧の薬が追加・変更された
- 手の震え、ふらつき、強い眠気などが出た
このような場合は、早めに処方医または薬剤師へ連絡してください。中毒を疑う症状がある場合は、次回受診まで待たずに医療機関を受診します。
ほかにも注意したい薬はある?
SGLT2阻害薬
SGLT2阻害薬は、尿中へ糖を排出することで血糖を下げる薬です。糖尿病だけでなく、心不全や慢性腎臓病で使用されることもあります。
一般的な利尿薬とは異なりますが、尿量が増え、体液量が減少する場合があります。高齢者、利尿薬併用中、食事や水分が取れない人、下痢・嘔吐・発熱がある人では、脱水に注意します。
体調不良時の服薬については、患者さんごとに「シックデイルール」が異なるため、自己判断で中止したり継続したりせず、事前に主治医へ確認しておきましょう。
ACE阻害薬・ARB・NSAIDs
ACE阻害薬やARBは、単独で汗を止める薬ではありません。しかし、脱水時には血圧低下や腎機能悪化へ影響する場合があります。
さらに、利尿薬、ACE阻害薬またはARB、NSAIDsが重なると、脱水時の腎機能へ負担がかかる可能性があります。
暑い日の頭痛や体の痛みに市販の鎮痛薬を使う場合は、利尿薬や血圧の薬、リチウムを服用していないか、お薬手帳を薬剤師へ見せて確認してください。
あわせて読みたい:薬剤性腎障害とは?原因薬・脱水・利尿薬併用時の注意点
β遮断薬などの循環器用薬
一部の研究では、β遮断薬や降圧薬の服用と、熱中症または脱水による入院との関連が報告されています。【[1]】
ただし、基礎にある心疾患や高血圧、年齢などの影響を完全に分けることは難しく、薬を飲んでいるから必ず危険とはいえません。
血圧や脈拍を下げる薬を飲んでいる場合、脱水時にふらつきや血圧低下が強く現れることがあるため、普段の血圧や脈拍との差を確認します。
薬を飲んでいる人の熱中症予防


1.まず暑さを避ける
- 我慢せずエアコンを使う
- 室温だけでなく、湿度や暑さ指数も確認する
- 直射日光を避け、カーテンやすだれを使う
- 日中の外出や屋外作業を減らす
- 外出時は日陰で休憩する
- 暑い日は一人で長時間行動しない
環境省は、室内でも温度を測ること、体調が悪いときは特に注意すること、無理をせず暑さへ体を慣らすことを呼びかけています。【[2]】
2.のどが渇く前に少量ずつ水分を取る
健康な成人で水分制限がない場合は、のどが渇く前に、少量ずつこまめに水分を取ります。
一方で、次の人は飲水量を自己判断しないでください。
- 心不全がある
- 腎機能が低下している
- 透析を受けている
- 医師から水分制限を指示されている
- 低ナトリウム血症を指摘されたことがある
- むくみ、息切れ、急な体重増加がある
3.経口補水液を毎日飲めばよいとは限らない
経口補水液は、脱水時に水分と電解質を補う目的で作られています。元気な人が、一般的な水やお茶の代わりとして毎日大量に飲むものではありません。
腎臓病、心不全、高血圧、糖尿病などがある場合は、ナトリウム、カリウム、糖質、水分量への注意が必要です。
関連記事:経口補水液とスポーツドリンクの違い|熱中症対策の選び方
あわせて読みたい:経口補水液は毎日飲んでいい?高齢者・糖尿病・腎臓病の注意点
4.体重、血圧、尿量を確認する
利尿薬、降圧薬、心不全治療薬を服用している人は、普段の状態を知っておくと、異変に気づきやすくなります。
- 毎日ほぼ同じ時間に体重を測る
- 血圧と脈拍を記録する
- 尿の回数、量、色の変化を見る
- むくみ、息切れ、口渇、ふらつきを確認する
- 食事と水分がどの程度取れたか記録する
数値だけでなく、「いつもと違う」を見ることが大切です。
5.家族や支援者が声をかける
向精神薬、睡眠薬、抗認知症薬などを服用している人では、本人が暑さや体調不良をうまく伝えられないことがあります。
電話で「大丈夫?」と聞くだけでなく、可能であれば次の点を具体的に確認します。
- エアコンが動いているか
- 室温と湿度はどのくらいか
- 朝食や昼食を食べたか
- 飲み物の量が減っていないか
- 受け答えが普段と違わないか
- 歩き方がふらついていないか
- 薬を重複して飲んでいないか
熱中症が疑われるときの応急処置
厚生労働省は、熱中症が疑われる人を見かけた場合、涼しい場所へ移動させ、衣服を緩めて体を冷やし、自力で飲める場合は水分を補給するよう案内しています。【[10]】
現場で行うこと
- エアコンの効いた室内や日陰へ移動する
- 衣服を緩める
- 首、わきの下、足の付け根などを冷やす
- 意識がはっきりし、自力で飲み込める場合は、少量ずつ水分を取らせる
- 症状が改善しない場合は医療機関へ連絡する
すぐに119番を検討する症状
- 呼びかけへの反応がおかしい
- 意識がない
- 自力で水分を飲めない
- けいれんしている
- 歩けない、立てない
- 高熱と強い筋肉のこわばりがある
- 呼吸が苦しい
- 冷却しても状態が改善しない
意識がおかしい人や、自力で飲み込めない人へ、無理に水分を飲ませてはいけません。誤嚥する危険があります。
症例・具体例・実践例
症例1|心不全で利尿薬を服用中の80代女性
状況:フロセミドを服用中。一人暮らしで、エアコンを使わずに過ごしていました。食欲が低下し、立ち上がったときにふらつきがあります。3日間で体重が大きく減っています。
考え方:利尿薬、発汗、水分・食事不足が重なり、脱水や電解質異常が起きている可能性があります。一方で、心不全のため、自己判断で大量の水分を取ることや利尿薬を中止することは適切とは限りません。
対応:涼しい場所へ移動し、意識や呼吸状態を確認します。自力で飲める場合は、主治医から指示された範囲で少量ずつ補水します。同日中に処方医または医療機関へ相談し、体重、血圧、尿量、食事量、服薬状況を伝えます。
薬局での声かけ例:
「利尿薬は心臓を守るために必要なお薬なので、暑いからといって止めないでください。ただ、体重が急に減り、ふらつきもあるので、脱水していないか今日中に先生へ確認しましょう。」
症例2|過活動膀胱治療薬と市販の鼻炎薬を併用
状況:70代男性。過活動膀胱の薬を服用中。花粉症のため、市販の眠くなる鼻炎薬を追加しました。暑い屋外で庭仕事をしていましたが、汗が少なく、口が強く渇き、顔が赤くなっています。
考え方:処方薬と市販薬の抗コリン作用が重なり、発汗が抑えられている可能性があります。高温環境で体温が上がっている場合は、熱中症や抗コリン作用の増強を考えます。
対応:直ちに涼しい場所へ移動して冷却します。意識がはっきりしていて自力で飲める場合のみ補水します。ぼんやりしている、体が非常に熱い、動悸が強い場合は、救急要請を検討します。
薬局での確認:市販薬の商品名、服用回数、処方薬、便秘、排尿状態、緑内障や前立腺肥大症の有無を確認します。
症例3|抗精神病薬と睡眠薬を服用中
状況:統合失調症で抗精神病薬と睡眠薬を服用中。日中の眠気が強く、暑い部屋で長時間横になっていました。家族が訪問すると、受け答えが普段より遅く、水分もほとんど取っていません。
考え方:鎮静、注意力低下、暑さへの反応の遅れ、脱水が重なっている可能性があります。高熱、筋肉の強いこわばり、脈拍や血圧の大きな変化がある場合は、悪性症候群も否定できません。
対応:意識状態、体温、呼吸、筋肉のこわばりを確認します。反応がおかしい、自力で飲めない、高熱や強い筋硬直がある場合は119番へ連絡します。
家族への提案:暑い日は、決まった時間に電話するだけでなく、室温、食事、水分、受け答えを具体的に確認します。
症例4|炭酸リチウム服用中に下痢と発汗
状況:双極性障害で炭酸リチウムを服用中。暑い日に屋外で過ごし、その後下痢が続いています。手の震え、ふらつき、言葉の出にくさが現れました。
考え方:脱水により血中リチウム濃度が上昇し、リチウム中毒を起こしている可能性があります。
対応:次回受診まで待たず、直ちに処方医または救急医療機関へ連絡します。意識障害、歩けない、けいれんなどがある場合は119番です。
医療機関へ伝える内容:炭酸リチウムの服用量、最終服用時刻、下痢や嘔吐の回数、水分摂取量、併用薬、市販の鎮痛薬使用の有無を伝えます。
薬局で相談するときに伝えること
「熱中症が心配です」と相談するだけでも構いませんが、次の情報があると、薬剤師が状況を判断しやすくなります。
- 年齢
- 現在の症状
- 症状が始まった時間
- 暑い場所にいた時間
- 食事と水分をどの程度取れたか
- 尿の回数、量、色
- 体重、血圧、脈拍の変化
- 持病
- 医師からの水分・塩分制限の有無
- 病院から処方されている薬
- 市販薬、漢方薬、サプリメント
- 薬を飲み忘れた、重複して飲んだなどの有無
お薬手帳、薬袋、薬の現物、血圧手帳、体重記録などを一緒に持参すると、より正確に確認できます。
毎日使えるセルフチェックリスト
- □ 自分の薬に利尿作用や抗コリン作用がないか確認した
- □ 市販のかぜ薬、鼻炎薬、睡眠改善薬も薬剤師へ伝えている
- □ 暑いからといって薬を自己判断で中止していない
- □ エアコンを適切に使っている
- □ 室温と湿度を確認している
- □ 水分制限の有無を主治医へ確認している
- □ のどが渇く前に、指示された範囲で水分を取っている
- □ 体重、血圧、脈拍を記録している
- □ 尿量や尿の色を確認している
- □ 食欲低下、下痢、嘔吐、発熱を放置していない
- □ 一人暮らしの家族へ定期的に声をかけている
- □ 緊急時の連絡先を分かる場所に置いている
まとめ

- 利尿薬、抗コリン薬、向精神薬などは、熱中症や脱水のリスクへ影響する可能性があります。
- 利尿薬では、汗と尿から水分が失われ、脱水や電解質異常が起こる可能性があります。
- 抗コリン作用を持つ薬では、汗が出にくくなり、体に熱がこもる可能性があります。
- 向精神薬では、抗コリン作用だけでなく、眠気、注意力低下、血圧低下、体温調節への影響などを考えます。
- 炭酸リチウムは、脱水やナトリウム不足による中毒に特に注意が必要です。
- 薬を飲んでいても必ず熱中症になるわけではなく、薬だけで危険度を判断することはできません。
- 暑いからといって、処方薬を自己判断で中止してはいけません。
- 心不全や腎臓病で水分制限がある人は、大量の水や経口補水液を自己判断で飲まないでください。
- 意識がおかしい、自力で飲めない、高熱や強い筋肉のこわばりがある場合は、119番を検討します。
- お薬手帳に処方薬と市販薬の両方を記録し、夏前に医師や薬剤師へ相談しておきましょう。



薬を自己判断で変更せず、お薬手帳、体重・血圧記録、現在の症状を持って、かかりつけ医または薬剤師へ相談しましょう。
よくある質問
Q.利尿薬を飲んでいると、必ず熱中症になりますか?
必ず熱中症になるわけではありません。利尿薬の種類、用量、基礎疾患、年齢、気温、発汗量、飲水量などでリスクは異なります。ただし、暑い日に食事や水分が取れない場合は、脱水や電解質異常へ注意が必要です。
Q.暑い日は利尿薬を休んでもよいですか?
自己判断で休薬しないでください。心不全やむくみの治療中では、休薬によって体内に水分がたまり、息切れなどが悪化する可能性があります。体調不良時の対応は患者さんごとに異なるため、処方医の指示を確認してください。
Q.口が渇くのは脱水ですか?
脱水で口が渇くことはありますが、抗コリン作用を持つ薬の副作用でも口渇が起こります。口渇だけでは判断できません。尿量、体重、血圧、ふらつき、食事量、皮膚や意識の状態も合わせて確認します。
Q.汗をかいているなら熱中症ではありませんか?
汗をかいていても熱中症は起こります。初期には大量の汗が出ることもあります。反対に、抗コリン作用や重症化によって汗が目立たない場合もあるため、発汗の有無だけで判断しないでください。
Q.市販のかぜ薬や鼻炎薬でも注意が必要ですか?
一部のかぜ薬、鼻炎薬、乗り物酔い薬、睡眠改善薬には、抗コリン作用や眠気が出やすい抗ヒスタミン成分が含まれています。処方薬と作用が重なることがあるため、購入時にお薬手帳を薬剤師または登録販売者へ見せてください。
Q.抗うつ薬はすべて熱中症になりやすい薬ですか?
一律ではありません。三環系抗うつ薬のように抗コリン作用が比較的強い薬もあれば、抗コリン作用が弱い薬もあります。薬の種類だけでなく、発汗、眠気、食欲、ナトリウム値、併用薬などを個別に評価します。
Q.向精神薬を飲んでいる人が発熱したら熱中症ですか?
熱中症とは限りません。感染症、悪性症候群、セロトニン症候群などでも発熱することがあります。高熱、意識障害、強い筋肉のこわばり、けいれん、呼吸困難がある場合は、家庭で判断せず、救急医療機関へ相談してください。
Q.炭酸リチウムを飲んでいます。市販の鎮痛薬を使ってもよいですか?
ロキソプロフェンやイブプロフェンなどのNSAIDsは、リチウム濃度を上昇させる可能性があります。脱水時はさらに中毒リスクが高まるため、自己判断で使用せず、処方医または薬剤師へ確認してください。
Q.経口補水液を毎日1本飲めば予防できますか?
経口補水液を毎日飲むことが、すべての人に適した予防法ではありません。熱中症予防の基本は、暑さを避け、適切に冷房を使い、状態に応じてこまめに水分を取ることです。心臓病、腎臓病、高血圧、糖尿病などがある人は、経口補水液の常用前に相談してください。
Q.薬剤師は薬を減らしてくれますか?
薬剤師が独断で処方薬を減量・中止することはできません。ただし、薬の作用や副作用、重複、抗コリン薬負荷、脱水リスクを確認し、必要に応じて処方医へ情報提供や処方提案を行うことができます。
Q.どの薬が該当するか分かりません
薬の名前を覚えていなくても、お薬手帳、薬袋、薬の現物を薬局へ持参すれば確認できます。処方薬だけでなく、市販薬、漢方薬、サプリメントも一緒に伝えてください。
参考文献
- 日本救急医学会・日本救急医学会熱中症および低体温症に関する委員会ほか「熱中症診療ガイドライン2024」
URL:https://www.mhlw.go.jp/content/001314082.pdf
最終確認日:2026年7月25日 - 環境省「熱中症の基礎知識」
URL:https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness.php
最終確認日:2026年7月25日 - 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「フロセミド錠10mg・20mg・40mg『NIG』電子化された添付文書」
URL:https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/581120_2139005F1117_1_04
最終確認日:2026年7月25日 - 一般社団法人日本老年薬学会「日本版抗コリン薬リスクスケール公開のお知らせ」
URL:https://www.jsgp.or.jp/news/20240517-1/
最終確認日:2026年7月25日 - 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「アポハイドローション20% 電子化された添付文書」
URL:https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/bookSearch/01/14987188457006
最終確認日:2026年7月25日 - 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「オランザピン錠2.5mg・5mg・10mg『YD』電子化された添付文書」
URL:https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/830001_1179044F1070_1_10
最終確認日:2026年7月25日 - 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「アミトリプチリン塩酸塩錠10mg・25mg『サワイ』電子化された添付文書」
URL:https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/300119_1179002F1122_1_08
最終確認日:2026年7月25日 - 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「炭酸リチウム錠 電子化された添付文書」
URL:https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/670126_1179017F1072_1_11
最終確認日:2026年7月25日 - 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「重篤副作用疾患別対応マニュアル・患者の皆様へ リチウム中毒」
URL:https://www.pmda.go.jp/files/000245310.pdf
最終確認日:2026年7月25日 - 厚生労働省「熱中症が疑われる人を見かけたら」
URL:https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/happen.html
最終確認日:2026年7月25日
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断、治療、処方変更を行うものではありません。服薬の継続・中止・減量・服用時間の変更は、必ず医師または薬剤師へ相談してください。意識障害、自力で水分を飲めない、高熱、けいれん、強い筋肉のこわばり、呼吸困難などがある場合は、速やかに救急要請を検討してください。


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