この記事の結論
- 薬剤師法第21条の調剤応需義務は、薬剤師が国に対して負う公法上の義務です。
- 「在庫がない」「忙しい」「対応したくない」という理由だけで処方箋を断ることはできません。
- 拒否の可否は、緊急性、時間帯、調剤可能性、患者との信頼関係、安全な薬剤提供の可否を総合して判断します。
- カスタマーハラスメントでも、直ちに一律拒否ではなく、行為の程度、警告後の継続、信頼関係の破壊、安全な医療提供への支障を記録して判断します。
- 調剤を応需しても、情報提供・服薬指導ができず適正使用を確保できない場合は、薬機法上、薬剤を渡してはならないことがあります。


前書き:2026年7月8日通知で調剤応需義務の考え方が再整理された
厚生労働省は2026年7月8日、「薬剤師の調剤応需義務等について」(医薬発0708第1号)を発出しました。従来の通知で示されてきた行政解釈を、近年の社会情勢、電子処方箋、流通管理薬、悪意ある未払い、カスタマーハラスメントの深刻化などを踏まえて整理し直したものです。今後は基本的に、この通知の考え方が妥当するとされています。【[1]】
重要なのは、通知が「拒否できる事例一覧」を機械的に当てはめるものではない点です。通知は例示であり、患者の緊急性、調剤を求められた時間帯、薬局の体制、患者と薬剤師の信頼関係、安全な薬剤提供の可否などを総合して判断します。

「通知に例があるから自動的に拒否できる」とは限りません。判断の根拠、患者への説明、紹介先、緊急性評価、組織内で相談した経過を記録し、個人の感情ではなく客観的な事情で説明できるようにします。
調剤応需義務とは?薬剤師法第21条を実務で理解する
調剤に従事する薬剤師が負う公法上の義務
薬剤師法第21条は、調剤に従事する薬剤師について、調剤の求めがあった場合、正当な理由がなければ拒んではならないと定めています。【[2]】
2026年通知は、この義務を薬剤師が患者個人に対して負う私法上の義務ではなく、医療の公共性、調剤業務の独占、生命・身体の救護という倫理的背景に基づき、国に対して負う公法上の義務と整理しました。これは患者対応を軽くしてよいという意味ではありません。拒否判断が薬剤師の好き嫌いや薬局の売上都合で左右されないようにするための枠組みです。
「調剤を断る判断」と「薬を渡さない判断」は分ける
現場で最も大切なのは、次の二段階を分けることです。
| 判断 | 主な法的枠組み | 実務上の問い |
|---|---|---|
| 調剤の求めを拒否できるか | 薬剤師法第21条 | 正当な理由があるか |
| 調剤後に薬剤を渡してよいか | 薬機法第9条の4、薬剤師法第25条の2 | 情報収集・情報提供・服薬指導により適正使用を確保できるか |
患者が年齢、アレルギー、併用薬などの情報提供を一切拒否する、必要な服薬指導を拒む、重複投薬の疑いが解消できないなど、適正使用を確保できないと薬剤師が判断した場合、調剤を受け付けた後であっても薬剤の販売・授与が禁止され得ます。【[3]】
患者への説明では「応需義務がないから断ります」と短絡せず、「安全にお薬をお渡しするために必要な確認ができないため、現時点では交付できません」と、どの確認が未完了なのかを具体的に伝えます。
正当な理由を判断する4つの軸
- 緊急性:急性期疾患か、交付の遅れが生命・身体へ重大な影響を及ぼすか
- 時間帯:開局時間内か、時間外か、地域の夜間休日体制があるか
- 実行可能性:薬剤師不在、災害、事故、疑義未解消、調達時間など客観的障害があるか
- 信頼関係と安全:カスハラ等により信頼関係が破壊され、安全な医療提供が困難か
一つの事情だけで結論を出さず、組み合わせて判断します。たとえば悪意ある未払いが疑われても、抗てんかん薬やインスリンなど交付遅延の影響が大きいケースでは、病状、残薬、代替受取先、支払方法の調整を含め、緊急性に応じた対応が必要です。
調剤の求めを拒否できると考えられる主な事例
| 事例 | 判断のポイント | 断る場合に行うこと |
|---|---|---|
| 薬剤師不在・災害・事故 | 物理的・身体的に調剤不能 | 理由説明、近隣薬局・当番薬局案内 |
| 疑義照会できない | 疑義が解消するまで調剤不可 | 処方箋預かり、後刻照会、緊急性評価 |
| 急ぐが調達に時間がかかる | 待つことが患者に不利益 | 速やかに調剤できる薬局を責任をもって紹介 |
| 流通管理薬の登録要件を満たさない | 処方医・薬局の登録状況 | 制度に対応する薬局を案内 |
| 重複投薬等が客観的に疑わしい | 疑義照会後も安全性が確保できない | 処方医と再協議、根拠と経過を記録 |
| 時間外・緊急性なし | 夜間対応義務のある薬局か | 翌開局時間または当番薬局を案内 |
| 悪意ある未払い | 継続性、再発蓋然性、支払意思、緊急性 | 事実確認、支払方法調整、緊急時の配慮 |
| 深刻なカスハラ | 信頼関係の破壊、安全な業務への支障 | 複数対応、警告、記録、組織判断、必要時は警察 |
在庫がないだけでは拒否できない
処方箋に記載された医薬品を備蓄していないことだけを理由とした拒否は認められません。取り寄せ時間、患者の残薬、病状、代替薬局の在庫、処方医への相談可能性を確認します。
「うちにはないので無理です」ではなく、「本日中の取り寄せは難しいため、残薬と服用開始の必要時刻を確認します。お急ぎの場合は、在庫を確認した薬局をご案内します」と説明します。紹介する場合は、患者へ電話を丸投げせず、可能な範囲で受入先の在庫・営業時間・処方箋有効期限を確認します。
疑義照会できず疑義が解消しない
処方内容に疑いがあり、処方医と連絡が取れない場合、疑義が解消するまで調剤してはいけません。近隣患者であれば処方箋を預かり、後刻疑義照会して調剤する考え方が示されています。ただし、漫然と預かるのではなく、有効期限、次回服用時刻、残薬、急性期症状、医療機関の連絡再開予定を確認します。
電子処方箋の重複投薬等アラート
アラートが出ただけで自動的に拒否するのではありません。薬剤情報、処方意図、実際の服用状況を確認し、疑義照会を行います。それでも処方変更がなく、薬学的知見から客観的に疑わしく適正使用を確保できない場合は、薬剤交付を見合わせる判断が問題になります。
開局時間外は緊急性と薬局の役割で判断する
地域連携薬局等、休日・夜間の応需体制を講じることとされている薬局以外では、時間外に緊急性のない処方箋を断り、翌開局時間内の来局を案内できる場合があります。一方、地域の休日夜間対応薬局や当番薬局を責任をもって紹介することが望ましいとされています。
関連記事:台風で薬局は休める?管理薬剤師不在・従業員欠勤時の対応
悪意ある未払いと一時的な所持金不足は区別する
過去の未払いが継続し、再度未払いとなる蓋然性が極めて高い、被保険者情報など支払能力確認への協力を拒み、支払意思が明らかに認められない場合は、正当な理由になり得ます。しかし、生活困窮や一時的な所持金不足を直ちに「悪意」とみなしてはいけません。
高額薬剤で合理的な支払能力確認ができない場合でも、交付しないことが生命・身体に重大な影響を及ぼす可能性があれば、緊急性を優先して個別に対応します。薬局単独で抱えず、処方医、医療ソーシャルワーカー、保険者、自治体窓口などにつなぐ選択肢も検討します。
カスタマーハラスメントで調剤を断れるのはどんな場合か
カスハラ該当性と信頼関係の喪失を分けて考える
通知は、顧客等の言動が業務の性質その他の事情に照らし、社会通念上許容される範囲を超え、就業環境を害するかというカスハラ該当性を確認し、そのうえで調剤の基礎となる信頼関係が失われたかを判断する枠組みを示しました。
暴力、物を投げる、机を叩く、大声での恫喝、脅迫、人格否定、土下座の強要、長時間の居座り、執拗な電話、調剤と無関係なクレームの反復、犯罪行為に該当する言動などは大きな判断要素です。さらに、薬剤師の集中をそいで調剤過誤を誘発するおそれ、他患者のプライバシー・安全・静穏を損なう事情も考慮されます。
一方、調剤内容への合理的な指摘、説明を求める行為、正当な改善要求で、手段も社会通念上相当な範囲にとどまるものは拒否理由にはなりません。2026年10月1日からは事業主のカスタマーハラスメント防止措置が義務化されます。薬剤師個人に耐えさせず、組織として方針、相談体制、対応手順、教育を整えます。【[4]】
医療上の判断より先に、職員と他患者の安全を確保します。距離を取り、複数名で対応し、危険が切迫する場合は110番通報を検討します。録音・防犯映像・発言記録の取扱いは、社内規程と個人情報保護に配慮してください。
薬を渡してはならないと考えられる3つの場面
- 必要情報を一切提供しない:年齢、アレルギー、併用薬などの確認に全く応じず、適正使用を確保できない。
- 必要な服薬指導を拒否する:法令上必要な情報提供・薬学的指導を拒み、安全な使用が担保できない。
- 重複投薬を除外できない:電子処方箋の薬剤情報閲覧への同意がなく、聞き取りでも重複の疑いが解消できない。
「情報閲覧への同意がない」ことだけで一律に交付不可とは限りません。お薬手帳、患者・家族への聞き取り、現物確認、医療機関への照会など代替手段を尽くしてもなお安全性を確保できないかがポイントです。
薬局で使える判断フロー
- 求めの内容を確認:処方箋、患者本人、代理人、有効期限、服用開始時刻を確認する。
- 緊急性を評価:急性期症状、残薬、投与中断リスク、乳幼児・妊婦・高齢者など背景を確認する。
- 障害を特定:在庫、疑義、登録要件、時間外、支払、暴力、安全情報不足のどれかを分類する。
- 代替策を検討:取り寄せ、疑義照会、分割調剤の可否、他薬局紹介、翌日対応、医療機関受診を検討する。
- 複数で判断:管理薬剤師、開設者、本部、処方医、必要時は行政・警察へ相談する。
- 説明と記録:拒否・保留の理由、緊急性、代替案、紹介先、患者反応、対応者を残す。


症例・実践例
症例1:在庫のない抗菌薬を閉局間際に受け付けた
状況:6歳、発熱と中耳炎。処方箋は抗菌薬ドライシロップを含む。閉局30分前で在庫なし。近隣の小児科から発行され、今夜から開始するよう説明を受けている。
確認:初回服用時刻、アレルギー、他薬、近隣薬局の在庫、処方医の連絡可否を確認します。在庫がないだけで拒否せず、当日受け取れる薬局を薬局側で探し、受入れを確認して案内します。
説明例:「当薬局では本日中の用意が難しいため、今夜から服用できるよう在庫のある薬局を確認します。処方箋をお返しし、場所と営業時間をご案内します」
記録例:「19:00受付。○○DS在庫なし。今夜開始指示あり。A薬局へ在庫・受入可を電話確認、患者家族へ所在地・閉局時刻を説明。処方箋原本返却。アレルギー歴なし」
症例2:重複投薬が疑われるが処方医と連絡が取れない
状況:78歳。複数医療機関から同系統の睡眠薬。ふらつき歴があり、電子処方箋の重複アラートが表示。処方医は診療終了後で連絡不能。
考え方:アラートのみで機械的に拒否せず、実際の服用、残薬、家族の管理、お薬手帳を確認します。重複の疑いと転倒リスクが解消できなければ、疑義照会できるまで交付を保留します。急な中断リスクもあるため、残薬と次回服用時刻を確認し、必要なら時間外連絡先や受診先を検討します。
症例3:暴言と長時間拘束を繰り返す患者
状況:過去3か月、調剤と無関係な要求で毎回30~60分居座り、人格否定発言を反復。店長名で警告書を交付し、複数対応を実施したが改善なし。今回はカウンターを叩き大声を上げ、他患者が退店した。
考え方:合理的な苦情か、社会通念上許容される範囲を超えた言動か、警告後も継続したか、信頼関係が破壊され安全な調剤が困難かを整理します。差し迫った危険があれば退避・警察連絡を優先します。拒否を検討する場合も、緊急性、残薬、他薬局・医療機関への引継ぎ可能性を確認し、管理薬剤師個人ではなく開設者・本部を含む組織判断とします。
患者への説明例と記録テンプレート
在庫・調達の説明
「お薬がないことだけを理由にお断りするのではなく、いつまでに用意できるか確認します。服用開始が急がれるため、早く受け取れる別の薬局もこちらで確認します」
安全確認ができない場合
「安全にお渡しするため、アレルギーと現在使用中のお薬の確認が必要です。確認方法をご相談させてください。必要な情報が確認できない状態では、現時点でお渡しできません」
カスハラ時の境界提示
「処方内容についてのご質問には説明します。ただし、大声や職員への侮辱が続くと安全な調剤ができません。続く場合は対応を中止し、責任者と相談します」
薬歴・対応記録に残す項目
- 日時、場所、対応者、同席者
- 処方内容、残薬、次回服用時刻、病状と緊急性
- 拒否・保留を検討した客観的事実
- 患者の発言は評価語ではなく、可能な限り具体的に記載
- 疑義照会、在庫確認、紹介先確認、警告等の経過
- 最終判断者、患者への説明、患者の反応
- 再来時の対応方針と本部・開設者への報告
管理薬剤師・薬局長が整える7つの仕組み
- 拒否・保留・他薬局紹介の判断フローを文書化する
- 夜間休日の紹介先一覧を毎月更新する
- 在庫不足時の電話確認と引継ぎ手順を統一する
- カスハラの警告文、記録様式、複数対応、通報基準を決める
- 未払い対応を経理・本部・医療連携部門と統一する
- 新人・派遣・応援薬剤師を含めて事例研修を行う
- 管理薬剤師の意見を開設者へ書面で上げ、回答を保存する
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まとめ
- 2026年通知では、調剤応需義務を公法上の義務と整理し、拒否判断の枠組みを具体化しました。
- 在庫不足だけでは拒否できず、調達・緊急性・他薬局紹介を検討します。
- 疑義未解消、流通管理要件、時間外、悪意ある未払い、深刻なカスハラは個別事情により正当な理由になり得ます。
- 調剤を応需しても、必要な情報収集・服薬指導ができず適正使用を確保できなければ薬を渡せない場合があります。
- 断る場合も、理由説明、緊急性評価、代替手段、責任ある紹介、記録が必要です。
- 個人判断にせず、管理薬剤師・開設者・本部が共通ルールを作ることが再発防止になります。

よくある質問
Q1.在庫がない処方箋は断れますか?
在庫がないことだけを理由には断れません。取り寄せ時間、緊急性、残薬を確認し、急ぐ場合は在庫のある薬局を責任をもって紹介します。
Q2.閉局後の電話は必ず受けて調剤しなければなりませんか?
一律ではありません。薬局の届出・認定上の夜間休日体制、緊急性、地域の当番体制で判断します。調剤しない場合も、緊急時の連絡先や対応薬局を案内できる体制が望まれます。
Q3.服薬指導を拒否する患者には薬を渡せますか?
必要な情報提供・指導ができず、適正使用を確保できないと判断する場合は渡してはなりません。説明方法や代理人、書面・オンライン等の代替手段を検討した経過を記録します。
Q4.カスハラなら一度の暴言でも今後の調剤を拒否できますか?
一律には判断できません。暴力・脅迫など危険が切迫する場合は安全確保を優先します。将来の拒否は、行為の程度、継続性、警告、信頼関係、安全な医療提供への支障、患者の緊急性を総合します。
Q5.一時的にお金が足りない患者は断れますか?
一時的な所持金不足と、継続的で悪意ある未払いは区別します。生命・身体への影響が大きい場合は、支払方法や福祉的支援を含めて調整します。
Q6.電子処方箋のアラートが出たら調剤拒否ですか?
アラートだけで自動的に拒否しません。服用状況と処方意図を確認し、疑義照会してもなお客観的な疑いが解消せず、適正使用を確保できない場合に交付保留を検討します。
Q7.調剤を断った記録は薬歴に残すべきですか?
患者対応、安全性、疑義照会に関わる経過は薬歴・対応記録等に残します。個人評価ではなく、発言、行為、時刻、緊急性、代替策、判断者を具体的に記録してください。
Q8.最終判断は管理薬剤師だけで行いますか?
緊急時の現場判断は必要ですが、継続的な拒否、カスハラ、未払いなどは開設者・本部・顧問専門職を含む組織判断が基本です。管理薬剤師だけに責任を集中させない体制が必要です。
参考文献
- 厚生労働省「薬剤師の調剤応需義務等について(令和8年7月8日 医薬発0708第1号)」URL:https://www.mhlw.go.jp/content/001720004.pdf(最終確認日:2026年7月26日)
- e-Gov法令検索「薬剤師法」URL:https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000146(最終確認日:2026年7月26日)
- e-Gov法令検索「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」URL:https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000145(最終確認日:2026年7月26日)
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html(最終確認日:2026年7月26日)
- 厚生労働省「薬局・薬剤師に関する情報」URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/yakkyoku_yakuzai/index.html(最終確認日:2026年7月26日)


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